広末涼子・松田龍平・小池栄子『恋愛寫眞』その(2)/『手塚治虫 原画の秘密』
Posted at 07/06/17 PermaLink» Tweet
昨夜は3時まで『恋愛寫眞』を見た。いい映画だった。
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最初の大学のキャンパスのあたりの情景はわざとらしいと言うか、カリカチュアライズしすぎていてちょっとあざといところが多くて、見るに耐えない感じのところがけっこうあったのだけど、主人公二人の話になると一転してしっとりして、とてもよくなった。広末涼子が演じる静流の設定が生い立ちの不幸を語ると、それはちょっと反則だろと思いながら、広末の明るく勝気なキャラクターとものすごくマッチしてしまって引き込まれてしまう。
「くそ、これは美人で勝気で、でもどこか健気さのある女の子が男を落とす常套手段に僕も引っかかってる」
と思ったが、これは引っかかった者の負けだ。江古田ちゃん流に言うならある種の猛禽だ。
それはともかく、二人の関係の中で広末のショットがたくさん撮られるが、もう何というか、どんな明かりでどんな場面でどんなきれいに取れなそうな暗さのところでも可愛く映っている広末には全く脱帽してしまう。今までこの人、女優としては全く関心がなかったのだけど、この人の力は本来すごいものがあるんだと思った。つまりは、その魅力を100%引き出した監督の勝利ということになるのだろうけど。
ストーリーとしては、松田龍平が演じる誠人を主人公にした、愛と夢、あるいは野心との間で苦しむ男の子の話なのだが、まともにものをいえない誠人のいまどきの若者臭い演技が妙に心を打つ。それは、ニューヨークに行って英語では妙に饒舌になるところでかなり生きてくる。
小道具のみかんの使い方は好きだったな。カップヌードルの使い方はちょっとどうかと思ったが、みかんがあるから救われているところはある。いずれにしても何というか「切なさ」というものがどうしてこううまく表現できるのか。ニューヨークでの静流の成功に嫉妬して静流から来た手紙や写真をすべて捨ててしまったあとに静流が死んだと言う噂を知り、ゴミ捨て場で手紙や写真を必死に探す場面など、はまりすぎだが胸が痛む。人というものはこうして大事なものを捨ててしまうのだと、思わずにはいられない。
そこで見つけた一枚の写真を頼りにニューヨークに渡って静流を必死で探すところ以降はある種のファンタジーだが、愛というものの存在が人に信じられているのは、そういうファンタジーに支えられているところが大きいのだよなと改めて思う。ニューヨークが一番分かりやすいファンタジーであるところが多分現代的なのだけど。
ニューヨークの場面は全般的に「お話」なのだが、そういうこともあるのかどうか分からないが、前半に比べるとずっと観ていて違和感が少ない。前半は過剰な演出をしないと静流や誠人が描き出せないところがあるのかなと思うが、ニューヨークはそこにいる人物設定、そこにいる情景そのものにすべてストーリーがあり、(911に被っているのは返ってニューヨークの特異な魅力を浮き彫りにするのに役に立っている)自然に話が展開していく強さを持っている。ニューヨークという街がいかに刺激にみちていてビビッドで、逆に日本の大学というところがいかに平和でのほほんとしているのかが対照的だ。少し野心のある人間がすぐニューヨークに行きたがるのもこれじゃ仕方ないかなとも思う。
ゲイの神父・カシアスが好演。最後の身元不明人の死体安置所の場面、こんなふうにニューヨークでは人が死ぬのかと思うと、なんともいえない。小池栄子はいい女優だとは思うが、狂気の場面になると笑った。まあ簡単に言えば演技が演技でしかない、ということなのだが。李礼仙や白石加代子などは、またあるいはシャーロット・ランプリングでもいいが、自分の内面の狂気というものを自覚的にスクリーンに露出させている。つまりそこまで自分をさらけ出せていないということだ。
実際にはあれだけの演技ができる「きれいな女優」というのは多分この世代には他にいないのだとは思う。しかしあの場面で、クスリを口にたくさんほうばるスリリングなところがちょっと可愛い感じに見えてしまうのはまあそういう演出だと考えてもいいんだけど、もっとやれる女優だと感じただけにやや物足りなくはある。
物語のストーリーとして、小池栄子演ずるアヤが静流を殺し、静流を知る男たちから金を巻き上げていた、そのきっかけはアヤが静流の才能に嫉妬したことだった、という設定も切ない。誠人に思い入れをしてみていると、静流の才能に嫉妬したことの愚かさと、分かれてしまったことの取り返しのつかなさというものが身に染みてきてしまう。ラストは、結局は死者とともに生き続けるということになるわけで、それはやはり現実に生きる人間にとっては、不可能だしそれがいいことなのかとも思うのだけど、まあファンタジーだからいいんだろう。こういう終わり方にしたかった心情は分からなくはないし、そうしなければ物語として成立はしないかもしれないしな。ちょっとその辺微妙。自分だったらどんなふうに作るだろうか。
それにしてもこの映画、先に斎藤清貴『いきなり上手くなる!プロのデジカメ写真術』を読んでおいてよかった。映画でも使われている写真がふんだんに掲載されていて、その写真のよさを一枚一枚確認してあったから、画面に出てきても一つ一つの写真が粒だって見える。写真がものすごく重要なアイテムになっている映画で、これだけの写真が撮れるというのはすごいが、斎藤はニューヨークで最初の二十日間、全く写真が撮れなかったのだという。とにかくしゃにむにニューヨークで6万枚の写真を撮り続け、それが写真家としての斎藤の転機にもなったのだという。そういう意味で、もちろん911直後のニューヨークという世界史的な時代性が背景にもあるのだけど、人生を背負った写真がこの映画をさらに素晴らしいものにしていることは間違いない。
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ウッディ・アレン『アニー・ホール』を見たときに、主人公がコニーアイランドのジェットコースターのしたの家で生まれた、という描写があってそれがなにを意味するのか分からなかったのだけど、『プロのデジカメ写真術』で、コニーアイランドが「貧乏人のリゾート」と呼ばれているところだと知り、なるほど古い時代のユダヤ系市民の置かれた位置が分かるなと思った。(昔の東京で言えば北千住の東京球場の外野席の向こう側の家、と言った感じかな)いい映画というのは社会的背景を踏まえながらテーマに求心力がある。広がりと構築力と、そのせめぎあいの中から緊張感のある作品が生まれるのだと思う。
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日本映画を観るのは久しぶりだけど、(最近何を見たかと考えたら全然思い出せなかったが、そういえば北野武『座頭市』以来だ)捨てたものでもないんだなと思わされた。同時代に生きる者として、いい作品を探してなるべく見ていくようにしたいと思う。
見終わったあと、写真を撮りたくなって、つい4時過ぎまで家の中のいろいろなものを撮ってしまった。空はもう明るくなりかけていた。
***
昨日は夕方神保町に出かけ、本を物色。結局買ったのは手塚プロダクション編『手塚治虫原画の秘密』(新潮社とんぼの本、2006)。手塚作品の原画に施された膨大な修正や描き直しの後をたどり、どれだけの労力が一つの作品につぎ込まれているのかを改めて知らせたいという趣旨の本。自分が知っている作品、自分が知っている場面もたくさんあったが、知らないのも結構あって意外といえば意外だった。
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現在のマンガ作品は最初から単行本化を意識して書かれている部分がけっこう多いのではないかと思うのだけど、手塚は単行本化のときに相当書き直している。逆に言えば単行本とか全集とかだけでは、手塚の作品のすべてを見たことにはならないと言うことになる。まるでベートーベンの手書きの楽譜を読み解いていくような面白さが手塚の原稿にはあるのだなと思った。手塚プロ編ということもありてづがの作品に対する批判的な見方が全くないのがちょっと物足りなくはあるが、手塚作品の魅力の知らなかった側面を見ることは出来たと思う。読了。
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