『とてつもない日本』:麻生太郎が知的でビジョンを持った政治家であることを知る
Posted at 07/06/13 PermaLink» Tweet
昨日帰郷。オルハン・パムク『父のトランク』を持って。家を少し早めに出て丸の内北口で『コミックガンボ』をもらおうと思ったのに、もう跡形もなかった。うちわを配っている人たちがいて、それはもらったのだが。基本的にあまり意味ない。
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丸の内丸善で何か参考になる本を、と思って斎藤清貴『いきなり上手くなる!プロのデジカメ写真術』(草思社、2006)を購入。上手い写真をとりたいということよりも、自分は文章をどちらかというと視覚的な印象に頼って書くほうだから、視覚の切り取り方のようなものが参考になるのではないかと思って買ってみた。これはそういう意味では「あたり」で、写真を撮る上での工夫は文章を書く上での考え方にすごく共通するものがあると思った。望遠レンズは距離感を圧縮するとか、よけいなものは切り捨てて表現したい対象をクローズアップする、あるいはトリミングするというような技術は、文章表現の上で実現するととても面白いのではないかと思った。デジカメによってフィルム代を気にせずによくなって写真がさまざまな実験を出来るようになったことが、写真の可能性を大胆に広げるかもしれないという話は興味深い。文章も、とにかく実験的に書くことによってまだまだ可能性があるだろうと思った。そんな意味で希望の一冊。一度読了したが、何度も断片的に読むことになるだろうと思う。
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もう一冊、麻生太郎『とてつもない日本』(新潮新書、2007)。最近麻生外務大臣が何冊か本を出しているが、ポスト安倍という意味もあるのかもしれない。安倍さんもそうだが麻生さんも育ちがいいせいかあんまり権力にがっついた感じがないことは好感が持てる。この本を読んで思ったことはいくつかある、といってもまだ読みかけなのだが、第一には麻生さんは「グレート・コミュニケーター」であるということ。グレート・コミュニケーターとはレーガン元米大統領に与えられた評価だが、麻生氏もレーガンのように自分の言葉で政策を直接国民に語り掛ける力を持っている、と思う。野党は政権批判の必要から社会の現状を批判的な、言葉を換えて言えば暗い言葉で語ることになるが、与党の政治家は明るい希望を国民に与える言葉をいう必要がある。というか、本来は野党でも明るいビジョンを示せる政治家こそが望まれるわけで、そういう意味で私は次期米大統領にはオバマーがいいと思うのだが、日本の民主党の政治家には未来の明るさを表現できる人が残念ながらいないと思う。
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自民党にもそういう人材はあまりいるとはいえないのだけど、この本を読んで麻生氏はそういう数少ない政治家の一人だなと思った。「常識の嘘」というか、日本を問題視することが知的であるような誤った風潮の中で、与党政治家は日本社会のよい点、優れている点を積極的に評価し、それを世界の中で位置付け、そして問題点を解決していく姿勢を持たなければならない。そういう意味で、日本は近代化の先駆けとしてある意味で他の国の近代化のモデルとなったことを押さえた上で日本の経験を他国の近代化にも生かせるようにふるまう、「ソート・リーダー」の地位に立つべきだという指摘は面白い。
またさまざまに議論される日米安全保障体制、あるいは日米同盟も、アジアにおける自動安定化装置、経済学でいうところのビルトインスタビライザーとして機能してきたし、これからも機能させるべきだという議論には非常に頷けるものがあった。単に日本あるいはアメリカの国益を守るためだけのものではなく、広くアジアにおける騒乱の防止のために機能する装置としてとらえることで、日米関係の世界における存在意義を明示してくれたことに私は非常に知的でクリアーな印象を受けた。
戦後の冷戦秩序と核状況というのは恐怖によるものとはいえ(つまり核抑止論)国際関係の安定化装置であって、朝鮮戦争やベトナム戦争などの例はあるけれども世界戦争にはならなかった。冷戦構造の崩壊というのはある意味不安定化であったということは認識しておく必要があるが、日本はアメリカと同盟することによってアメリカの軍事力の補完勢力として一極集中型の世界秩序の安定に貢献するという考え方は、好き嫌いは賛否は別にして、言いたいことはわかる。一極集中型の世界構造が多くの不満を招いて不安定になる可能性はもちろんあるが(というかある意味では現になっているのだけど)、だからと言って群雄割拠の蜂の巣をつついた状態になるのが望ましいかどうかは別の問題だ。アメリカの覇権はやがて別のものになっていくだろうけれど、その変化をハードランディングで実現するか(アルカイダなどはそれを望んでいるだろう)、ソフトランディングに持っていくかということを考えれば、日本のような基本的に非武装の国家はソフトランディングを目指さざるを得ないということになるかもしれない。個人としてはいろいろな可能性が追求できても、現状の国家のあり方としてはそれ以外の方法は見つけにくいだろうとは思う。
日本を、祖父吉田茂の言葉を引用して「とてつもないエネルギーを持った国」と表現し、Jポップ・ジャパニメーション・Jファッションの3Jで日本が新たなソフトパワーとなるための可能性を「ニート」が握っているかもしれない、という期待を語り、ジダンやトッティがサッカーをはじめたきっかけは『キャプテン翼』だったとアニメ好きの本領を発揮して指摘し、イラクで活動する日本の給水車には「キャプテン翼」のロゴが張ってあったという(はじめて知った)ことも自衛隊任務の完遂に役立ったという話など、実に興味深いことをいろいろ書いている。(そういえばパレスチナの反イスラエルデモで涼宮ハルヒの絵が使われていたことを思いだした)
戦後の平等神話に疑問を呈し、蔓延する若さ至上主義を批判し、それらは近代工業化社会に適合した価値であったと指摘する。これにはちょっと目から鱗が落ちた。それならば脱工業化社会においてはどのような価値観が必要なのか、その希望をニート世代に見ている、ということなのだろう。これは非常に文明論的なスパンの長い議論で、凡百の格差論に比べて圧倒的に射程が長い。もちろん賛否両論はあろうが、そういうことを考え、著書に書けるだけでも麻生という人は全く侮れない人だと思った。教育論や靖国論においてはなかなかそれだけでは済まないだろうなと思うようなこともいってはいるが、とにかくほんとうに貴重な「ビジョンを出せる政治家」であることは間違いないと思う。
首相になったらもちろん得意でない分野でどういう成果をあげていくかということが問題になる。安倍さんは政策能力のみで攻めて松岡さんを農水大臣にし、残念なことになってしまったけれど、政治は政策だけではなく権力闘争でもある。その辺の手腕は未知数ではあるが、国民に語り掛ける能力を持っている麻生氏はそれを武器に権力を制御していくことは可能ではないかとも思う。
「秋葉原に集まるオタクの皆さん!」なんて(ふざけた)セリフは、確かに麻生氏にしかいえない。他の人が言ったらあまりにイヤミで滑稽だ。それだけに失言問題は続出しそうではあるが、21世紀の政治家に求められるであろう「広範なポピュラリティの獲得」という課題に十分答えられる人ではあるだろう。「変人として突っ走る」ことでそれを獲得した小泉前首相や「育ちのよさとまじめさ・誠実さ(拉致問題に対する対応などは誠実そのものだ)」で基本的な支持は得ている安部現首相に続いて、基本的に知的でユーモアを解する(時に行き過ぎることもありそうだが、その辺は吉田茂の血筋なのかな)「コミュニケーション能力」でそれを獲得しうる麻生氏が政権を握ると、なかなか面白いかもしれないとは思った。読みかけ。
ちょっと本の感想に先走った。新宿に出て特急に乗る。暑かったせいか冷房ががんがんでちょっと辛かった。車内で上記の二冊と、『父のトランク』を読む。こちらは読了。最後に『天使』『バルダザールの遍歴』の著者である佐藤亜紀との対談が掲載されていた。立ち読みしたときには二人の会話がどうもかみ合っていない印象を受けたが、ちゃんと読んでみるとそんなことはなかった。歴史小説を書くときに登場人物に世界がどのように見えていたかという問題は私もいつも感じるし、だからこそ歴史小説は書けないなという印象があるのだけど、そのあたりの専門性について二人が突っ込んで話し合っているのはとても面白かった。歴史小説を読んでいてしらけるのは登場人物が実に現代的な考え方をしていたりそんなせりふを言ったりする部分で、「そんなの私の自由でしょ!」とか飛鳥時代の人が言ったりするとシオシオのパーなのだが、二人は実に真摯にそういう問題に対処していて興味深い。塩野七生なども『ローマ人の物語』をあの文体で書いたのはそういう理由があると思ったり。その他私がいつも感じているような問題をすでに名を成している作家たちが議論しているのを読むと非常に面白いし刺激を受ける。この本は期待にたがわず、面白い本だった。
午後から夜にかけて仕事、夜は『プロフェッショナル』で宮大工の話。屋根の曲線の表現が棟梁に任されている、という話はへえっと思った。早めに就寝。朝は起きてからセブンイレブンでスーパージャンプとコミック乱ツインズを買ってくる。SJは相変わらずどれも面白い。「ニューズマン」が終わりになったのは残念だが、まあこれはここまでだろうな、でもこのテーマでよくここまで頑張ったと思う。単行本を買ってもいいと思った。あとは強いていえば「華(はん)なりと」か。舞妓の話が体育会的に展開していくところがなんともいえず可笑しいが、実際にこんなものなのかもしれないなとも思う。『ツインズ』はまだあまりちゃんと読んでないが「仕掛け人藤枝梅安」に久しぶりに剣士・小杉十五郎が出てきたのが嬉しい。やはり梅安と彦次郎だけでは華やかさに欠ける。あとは新撰組の子ども時代を描いた「多摩のバラガキ」が再び掲載されていることが嬉しい。
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