小池栄子/オルハン・パムク『父のトランク』/明治神宮の森
Posted at 07/06/12 PermaLink» Tweet
昨日。家にいると書いているものから頭が離れなくなるので、オルハン・パムク『父のトランク』を持って出かけることにした。午後3時過ぎ。地下鉄で大手町に出、丸の内線に乗り換え、新宿三丁目で下り、紀伊国屋の地下を抜けてトップスビルのカフェユイットに行った。もう窓際の席は埋まっていて、カウンター近くの少し暗い席に座る。真ん中あたりの席も空いていたのだが、隣の人が煙草を吸っていたので避けたのだ。パムクを読もうと思ったのだがユイットに行くと置いてある本が読みたくなる。渡辺昇一とか(笑)日本カメラ・アサヒカメラとか、中国の少数民族の女性たちの写真集とか、がよかった。日本カメラかアサヒカメラか忘れたが、篠山紀信が小池栄子を撮ったのがあって、胸が大きいから少し下がり気味に写っているのだけど、それが返って自然な魅力を見せているように思った。(ヌードではない)↓こんな感じといったらいいか。
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しばらくいろいろ読んでから『父のトランク』に取り掛かる。印象に残ったところはいくつもある。というか、この人の小説に対する考え方って私にとってはとても分かりやすい。
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イーザーという評論家が、本は読まれることによってその表現しようとした意味が完成する、ということをいっていて、その想定されている読者のことを「内包された読者」と表現しているのだが、パムクはある物語を思いついたときに、それがいつでも小説になるわけではなく、その「内包された作者」に自分がなれたときにのみ、書くことが出来る、と言っているのが面白いと思った。
また小説の特徴は、自分の物語をあたかも他人の物語のように語ること(読み手が自分の物語のように読むこと)と、他人の物語をあたかも自分の物語のように書くことだ、と言っているのも興味深かった。
作家の政治性について、小説家の政治性は小説を書くものが自分を他の者の立場に置く想像力から生まれる、といっているのも面白い。そういう意味では小説家は必然的に政治性を帯びざるをえなくなる。
パムクはイスタンブールの欧化したブルジョア家庭に生まれ、西欧化を志向しているために深いところで自らの文化・伝統を否定せざるを得ないという矛盾を抱えている、という話はわれわれにとっても人事ではないと思った。多くの日本人が日本のことに無関心であることと、それはつながっている。逆に日本に関心を持つことは否定の否定であって、ある種の決意が必要なことなのだ。それをなるべく穏やかに自然にやることが非西欧社会にとってはどこも必要なことなんだろうと思う。
パムクは小説は音楽や絵画とともに、ヨーロッパをヨーロッパたらしめ、ヨーロッパとは何であるかを説明するものだという。そういう視点は今まで持ったことがなかったが、文化から西欧に憧れた非西欧社会の知識階級にとってはとても重要なことだろう。小林秀雄などに見られる旧制高校文化とも、根本的に共通している。そのように見られるヨーロッパは、やはり幸せな国々ではある。
アメリカではそうは行かないだろう。自由とお金の国、という感じか。日本はどうか。アニメとビジュアル系の国か。ウサギ小屋に住む働き中毒か。中国は四千年の歴史だが、共産主義の教義はその歴史そのものを否定せざるをえないから、アイデンティティが観念化してしまっているだろう。自己像と他者から見た像が一致する幸せな国は、そうたくさんはないように思われる。
45分ほどユイットにいて外に出、靖国通りを西に行ってガード下をくぐる。新宿はほんと雑然としていて相変わらず面白いな。普段歩く日本橋や神田や銀座に比べて歩いている人が若々しいし、断然カジュアルだ。何のかんの言っても私の精神は結局はフォーマルよりはカジュアルに近いから、こういうところのほうが活性化するのは当然なんだろうと思う。西口に出て小滝橋通りをまた歩こうかと思ったけれど、まずはこの通りを南の端まで行ってみようと思い、西口をずっと歩いて甲州街道を渡り、坂を下っていった。ここもまた、新宿なのに既に東京のどこにでもあるような町並みになっていて、やっぱり面白い。小田急の踏切を渡ったり、いくつかの専門学校や予備校の前を通って代々木に出、さらに南下。明治神宮に突き当たったので北参道から神宮の杜に入る。
守衛がいたのでもう閉まるのかと思ったが何も声をかけられなかったのでてくてく歩く。鬱蒼とした森の中の広い砂利道は太陽の光が十分に届かないためか昼までに降った雨が十分に乾いていない。森林浴というけれど、本当に気持ちがよくて、こっちに歩いてよかったと思った。本殿で参拝するが、参拝客は大学生くらいの若い人と外国人ばかり。何だか変な感じだと思ったが、本殿の門を出るとおばさんたちが厄年の表の前でなにやら検討していた。
原宿駅に出る出口から出て明治神宮前駅で千代田線に乗り、大手町で乗り換えて帰宅。充実した。
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