街を歩くと楽しいのはなぜか/『アニー・ホ-ル』:「自信を失った時代のアメリカ」の魅力
Posted at 07/06/05 PermaLink» Tweet
銀座を散策。こうして街を歩くとどうして気持ちが晴れるのだろう、といつも思うのだが、なぜだろうかと考えて見た。自宅にいれば、自分の買ったもの、つまり自分の好きなものに囲まれているわけだから外に出かけるより楽しくてもよさそうなものなのだが。
しかし、本当に満足の行く自宅を作り上げている人はともかく、あんまり考えていなかったりあるいはさまざまな(主に経済的な)理由で自分の満足のいく住宅内環境を整備できていないことも往々にしてあるだろう。だいたい、蛍光灯が一つ点滅しだしただけで相当イヤになる。しかし、今現在の住宅内環境はすべてが自分が買ったりおいたり飾ったりしたもので占められているわけだから、つまりは自分の選択ミスやら見識のなさやらセンスの悪さやら片付けのできなさやら、自宅にいると言うことはそういうこと、自分自身の足りなさを見せ付けられると言う側面もあり、それでだんだん気詰まりになってきてしまうということはあるだろう。
本棚を見ても、すべてが自分が買うと決断して買った本ばかりで、つまりは私自身に対して「私を読んで」というオーラを発している。よいオーラもあれば「君はとりあえず今は居なくていいよ」と思いながら「何で?何で?」とすりよってくる感覚もあり、家中に自分に対する呼びかけがみちているようで気詰まりになってくる。外出するということは、そういうものから一時的に離れると言う意味もあり、解放感がある。まあ家にいる間中何だか突き詰めすぎていると言うことなんだろうとも思うが。
銀座に出かけて山野楽器でCDを何枚も試聴したり、教文館で本を立ち読みしたりしていると、ちょっと聞いたりちょっと読んだりして「これは買わない」という決断を繰り返すと言うことになり、そこにある種の爽快感があるのだなと思った。ウィンドーショッピングをしていても、「これは買わない」「あれも買わない」という軽い決断を連続して行っているわけで、これはある種気持ちいい。欲しいものがでてきてしまったらその爽快感は中絶するが、それはそれで選択の楽しみもまたある。家の中の選択済みを増やすことにはなってしまうけれども。
中央通りを北に歩いて、京橋のオフィスデポで東京都ごみ袋を買い、日本橋まで歩いて山本山で煎茶と番茶を買い、コレドの地下で夕食の買い物をして帰宅。
***
瀬戸内寂聴『秘花』。この本思ったよりずっと面白い。特に二条良基が東大寺尊勝院にあてて書いた手紙で世阿弥を絶賛しているものが載せられているのだが、最初この手紙が瀬戸内が創作したものかと思ってしまってその出来のすごさに血の気が引くほど驚いた。しかしよく考えてみたらそんなことはないだろうと思い、ネットで調べてみたら良基自身の文章であることを知ってちょっと安心した。「北朝いちばんの政治家」とかいうちょっと当時の人なら言うとは思えない不用意な台詞もあるくらいだからそんな室町時代の粋人の手紙を贋作するなんてさすがに無理だよなあ。でもついそう思ってしまうくらいにはすぱっと文章にはまっていた。作家の創作力の魔力とでも言うべきか。読書中。
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夜は前の日に買ったビデオを二本見る。
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ホアン・ルイス・ブニュエル監督。ルイス・ブニュエル監督の子息だと言う。フェルナンド・レイやらドヌーヴやらブニュエル作品の常連が出ているのでこれもそうかと思ったら違っていたらしい。しかし作風はよく似てるなと思う。好き勝手なことをやっていて、私はこういう映画は好きだ。しかしカトリーヌ・ドヌーヴって本気で綺麗だな。金髪は目の覚めるような美しさだし。筋書きは書くとあまりに陳腐なので書けない。芸術家嫌いの大富豪というのが出てくるのだが、これは何かの批判とか言明とかになるんだろうか。何というか、こういう筋書きで映画的な技巧をさんざんに凝らして、ドヌーヴの美しさを堪能させて、で、なんなの?と放り出す。ブニュエル的。場面的には大林監督の『セーラー服と機関銃』を思わせるような場面があったり、『ノスタルジア』を思わせるような場面があったり。私は好きだが、評価はどうだろう。
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ウッディ・アレン監督、主演。1970年代、アメリカが最も自信を失っていた時代のコメディ。この頃のアメリカって、こんなに感じがよかったんだなと改めて驚く。弱いがゆえに魅力のあるアメリカ。
ほとんど音楽が入らず、喋り捲られる会話。次々に展開していくシーン。むかしの自主制作だとか前衛的な映画でこういう手法のものがよくあったなと思う。
ストーリーは恋愛ものなのだが、若い女の子を育て、才能を引き出して、結局女の子の方は巣立っていってしまう。そういうストーリー。自分は何度もそのパターンの恋愛をしたのでこれには相当身につまされた。彼女を磨き上げることに一生懸命になって、自分の方は疎かになってしまう。そういうミスを一体何度したことか。高校生の頃の映画だが、あの頃に見ていたら多少は人生変わっただろうか、と自問自答してしまう。
それにしてもこれに描かれたニューヨークは魅力がある。太陽一杯のロサンゼルスが大嫌いというのも可笑しい。インテリジェントだが古くて固いニューヨークと、新しくて健康的で新しい思想があって開放的なカリフォルニア、という二項対立が分かりやすい。
この映画はアカデミー作品賞を取り、主演のダイアン・キートンとアレンはしばらく同居していたが、結局離れて行ったということだ。こんな映画がアカデミー賞をとった時代があったのだなと思う。
この神経症的な、自信のないアメリカに比べて、現代のシンプルで力強く、チープな「強いアメリカ」の神話に満ち満ちた現代のアメリカがいかに魅力なく見えることか。しかしでもこういう幻想の国に旅立ってしまうのは、「アニー・ホール」だけではないのは哀しい話だ。
「弟は自分をメンドリだと思っている」「病院に入れたらどうだ」「でも卵がほしいからね」というジョークが出てくるが、男女関係もこの卵をほしがっているのだ、という指摘は何だかシュールだが納得してしまう。お互いにないものねだりをしてしまうと言うことなんだろうな、哀しいけど。
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