『若草物語』:親が子に語る理想/簡潔で美しい話を書く
Posted at 07/05/21 PermaLink» Tweet
東京MXテレビで土日にやっている『談志・陳平の言いたい放題』という番組があるのだが、その中で立川談志は往年の名作映画をよく紹介している。日曜日の11時からの回の放送を見ていたら、1949年公開の『若草物語』を紹介していた。
紹介されていた場面は、スカートの後を焦がしたジョーとローリーが誰もいない部屋で踊る場面と、引っ込み思案のベスに隣の怖いおじいさんローレンス氏からピアノが贈られ、そのお礼をいいに行く場面。私も見ていていいなあと思ったが、談志師匠も絶賛の嵐。芸が素晴らしい、アステアなどの作品を絶賛することはよくあるが、こうした「親切」をテーマにした場面を手放しで誉めたりすることは珍しい。
談志師匠いわく、「これが500円で買えるんですからね、人生の中の2時間をこの映画を観るのに使ったって絶対罰は当たりませんよ」。
私も最近、高校生向けの英語教材でこの話をちらっと見たことがあって、質問されても読んでも見てもいないのでとんちんかんな反応をしたことがあったから、いい機会だから見てみようと思った。しかし、こういう廉価版DVDがどこで売っているのか最初は見当がつかなかったのだが、家の近くのTUTAYAで売っていることが分かり、早速購入した。
そういうわけで、『若草物語』(マーヴィン・ルロイ監督作品、MGM、1948)を見た。
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一言でいえば、非常に感動した。最初から最後まで、完璧な映画。122分間、どこにも傷がない。
長女らしい長女メグ、次女で主役の男勝りで勝気なジョー、三女で体の弱い内気なベス(映画では四女という設定になっていたようだ)、四女(同じく映画の中では三女のようだ)でわがままで気取り屋で食いしんぼ(で頭が空っぽ)のエイミー。一人一人のキャラクターがとてもよくかけていて、みながとても仲良く団結している感じが出ている。
ジョーとローリーが踊る場面、ベスがロレンス氏からピアノをもらう場面もよかった(談志師匠は貧しいマーチ家の娘にピアノを贈るときにスリッパを作ってもらってお礼になくなった孫娘のピアノを贈る、といった「親切する側の気遣い」について絶賛していた)が、私がとてもよいと思ったのはジョーが寝る前に母親と交わす会話だ。
舞踏会でローリー(金持ちだ)に相手にされなかった娘とその母親が腹立ち紛れに、マーチ夫人(四姉妹の母親)は娘を使って金持ちに取り入る、作戦がうまく行っている、などと侮辱し、それをベスとエイミーが立ち聞きして、ベスがショックを受けたため、パーティーの最中に四人は帰ってきてしまう。
このことは母親には言わない、と約束した四人だったが、ジョーは就寝の挨拶のあと、母親に尋ねる。
――ママには作戦があるの?
――どんな?
――母親が娘に抱く理想。お金持ちと結婚させたいとか。
去りかけていた夫人はジョーの枕元に戻る。
――たくさんあるわ。
美しく教養のある善良な娘に育ってほしい。
人に好かれ、尊敬される娘に育ってほしい。
楽しく有意義な人生を送ってほしい。
悲しみも知ってほしい。
野心だってあるわ。
恋人がお金持ちなら嬉しいとも思う。私は普通の母親よ。
でも貧乏人の妻や上品な老嬢のほうが、自尊心をなくした女王よりいいわ。
これは本当に感動した。親というものは、子どもに向かってこういうことが言えなければならないと思う。もちろんそれは親自身の人生を反映していなければ意味が薄れはするけれども、奇麗ごとといわれようと何といわれようと、親は子どもに対して理想を、あるいは願いを語るべきなのだ。
登場人物の造形は、一人一人とても見事で素晴らしいのだが、主人公のジョーもいいけれども、「気取り屋で食いしんぼでわがまま(で頭が空っぽ)」なエイミーという造形がとてもいいなと思っていたら、何と若き日のエリザベス・テーラーだった。しかもベスを演じたマーガレット・オブライエンより、この映画の時点では格下だったのだという。オブライエンは戦時中から子役として一時代を築いていた。そういう話は全然疎いので、当時のハリウッドという世界も興味深いなあと改めて思った。
話の進行はどの場面もとてもよく、どの場面から見始めてどの場面でやめてもいい、という感じだ。集中してみるのもいいけれども、環境ビデオとして、いつも流し続けているというのもとてもいいのではないかと思った。今まで環境ビデオをよいと思ったことはあまりないのだけど、どの場面を見ても、またどの場面の音が流れてきても気持ちがいい映画というのはほとんど考えられない。全く稀有な作品だと思う。
もう一ついいなと思ったのは、ジョーがベアー教授から受けるアドバイス。
才能を開花させるには、周りの泥を払え。
そのためには真に書きたいことを綴る。
若い間は、簡潔で美しい話を書く。
これこそが本物のアドバイスだよな、と思った。特に、「若い間は、簡潔で美しい話を書く」というのがいい。若い間は、複雑でわけの分からない話を書きたいものなのだ。
この映画に出演している俳優たちは誰もみな後に大物になっていてそれも凄い。ローリーを演じたピーター・ローフォードはケネディ大統領の妹パトリシアと結婚していて、マリリン・モンロー死亡とも関わりがあるのではないかとも言われているらしい。これだけよく出来た作品なのに、この作品が代表作という俳優が誰もいないというのもすごい。当時のハリウッドがどれだけ充実していたかがよくわかる。
映画の中では病弱なベスが早くなくなってしまうが、2007年現在、存命なのはエリザベス・テーラーとベスを演じたマーガレット・オブライエンだけだ。映画は虚構だとは言え、いや虚構だからこそ、そういう逆の偶然にも感じてしまうものがある。
この映画の背景となったのは、1860年代の南北戦争だ。南北戦争といえば『風とともに去りぬ』だが、南軍の側が『風とともに去りぬ』で北軍の側が『若草物語』かと思うと、これも何だか思うところがある。ダンスの場面、勝気な主人公、渡欧のエピソード、重なる部分がいくつもある。アメリカにとっては、神話の時代だ。
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