戦後国風文化の崩壊とイングリッシュガーデン
Posted at 07/05/13 PermaLink» Tweet
昨日は友人の娘が駒場の7号館でライブに出るということで聞きに出かけた。駒場は何年ぶりか分からないが、独法化してからは初めてだろう。ライブは懐かしい感じで自分たちの学生時代と比較して子どもっぽいとは思ったが技術的には優れているグループもあった。友人の娘にはこれからの可能性を強く感じて楽しみに思った。
銀杏並木を北寮前に向かって歩き、そこに巨大なコミュニケーションプラザなるものが出現していて驚いた。北寮明寮間ぐらいのところに生協の購買部と書籍部が出来ていた。私の住んでいたあたりは、ちょうどテラスとか通路とかの感じになっていて、古くは寮雨降りしきる空間が明るく無害な廃墟と化していたのは実にすっきりした感じだ。
寮食や駒場小劇場のあった辺りを歩くとイングリッシュガーデン。裏に回ると、自動車部がまだあるのが往時の名残をとどめていた。矢内原公園にあがると芝居をやっていたテント小屋を立てたあたりが舗装されて黒い策のついた散歩道と化していて、落ち葉の堆肥実験などやっていて、実に無害。矢内原門のところのトイレだけ古いまま残っているのが奇妙な感じ。一研のあたりがカフェテラスになっていて仰天した。再び旧北寮前にもどり、そこからカフェテラスに入る。寮の卓球場だったり駒祭の時には「駒バー」と化していたあたりに何とイタリアントマトが出来ているのは今昔の感というのでは済まされない。
イタトマのオープンカフェテラスで明るい午後の木漏れ日を浴びながらくつろいだひと時を過ごしていると友人の娘がやってきて感想を聞くのでひとしきりそういう話をする。明るい平和な午後。
線路を渡って駒場の町に出、菱田屋が今でも営業していたのが懐かしかった。内装は変わっていたけれど。
駒場は明るい無害なキャンパスになり、カントやショーペンハウエルの亡霊や、70年闘争や、劇団や政治やロックや何やら間やら渾然一体となったわけの分からない空間はどこかへ立ち去ってしまった。あるのは明るい午後のカフェテラスとイングリッシュガーデンのみ。これがグローバリズムというものなのだろう。ここではこれからきっと、明るく無害で優秀なエリートが量産されていくのだろう。
戦後レジームの解体というのはさまざまな角度から必要ではあったが、その主導思想はけっきょくはグローバリズムが勝利し、そして跡形もないほどすべてを消し去った。戦後はおろかもはや80年代も、おそらくは既に90年代ももう姿を消している。
敗戦はすべてを消したわけではなく、アメリカの表面的な影響を受けながらも戦後の新しい日本的な文化を作り上げてきた、そういうものが今消え去ろうとしていて、あちこちにそういう遺跡が生じている。反戦平和とかの妙な思想に代表される戦後的な国風文化というものは妙であるがゆえに日本的でさまざまなものを生み出してきたけれども、冷戦終結とネオリベラリズムによって退場しようとしている。これは一つの文化の消滅なのだ。
戦後の焼け跡は「何もない青い空」と表現されたが、今の駒場はまさに同じ「明るい廃墟」だ。もちろん多くの人が、こうした明るい無害な清潔さを求めているからなのだろう。暗くじめじめしたしかし異様にがっちりした洞窟のような寮が消えてみると、ここがこんなに明るかったのかと目を疑う光景になる。
戦後のレジームを解体したいという思いはあったが、こうなってみると呆然とするものがある。自分が年をとっていくことは認識していたけれど、ぼやぼやしていると世界が変わってしまうのだとせわしい思いに駆られた。少しでも、自分のいたい世界にしたいのなら、自分が何かを変え、何かを作り上げていくしかない。
イギリスの大学やアメリカの大学と同じような大学が駒場にも出来た。きっとバンガロールにもヨハネスブルクにもやがては北京にさえも出来ていくのだろう。世界が再び違う形に変形し始めるまでは。
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