ケータイサイトとジョータイサイト
Posted at 07/05/03 PermaLink» Tweet
ケータイサイトとジョータイサイト、といってもモバイルの話ではなく、文体の話。このブログは常体で書いているのだが、1999-2000年頃、つまりサイトを始めたころは基本的にすべて敬体で書いていた。日記も毎日敬体で書いていて、あの頃は誰が読むかわからないから失礼のないように、あるいは変な突込みを受けないように、ということを考えていたのかなと思う。今となってはよく思い出せないのだけど。
それを常体に変えたのは、敬体だとどうも「自分の中にあることを素直に書くことができない」、という感じを持つようになったからだと思う。つまり自分の中で、「自分の中にあることを書き出す」ということが日記あるいはブログのメインの目的になった、ということなのだろう。
私が参加しているテキストリンク集『テキスト庵』でランキング上位のサイトを見てみると常体・敬体がほぼ半々といったところか。
まあしかしいろいろ読んでいると、敬体とか常体とかいう以前に口語表現や体言止め、その他さまざまな文末表現を取り混ぜて渾然一体となっている文章が案外多い。これは実際、頭の中にあることをそのまま表現しようとするとそうなってきちゃうんだよな、と思う。常体だけで書いていると、何だかどんどん硬苦しい感じになっていってしまうし、敬体だけで書いていると妙に慇懃無礼な感じになることもある。だからといって口語表現だけではあまりに馬鹿っぽい。そうなると、自分が穏和でそこそこ教養のある控えめな中産階級(死語か)で、しかも世の中の面白いことも年代の違う人のこともちょっとは分かるんだよ、と演出するためには渾然一体表現に必然的になってくるのだろう。
私もあまり完成されすぎた文章はブログには似合わないし(という以前に書けるのかという問題もあるが)、完成というより変に堂に入ったような文章は自分自身が反発を持ってしまうので、なんていうかちょっと小難しいことを書いても案外スイッと入っていくような、フレンドリーな文体にしたいとは思っている。
ただ、それでも結局は常体メインの方がやっぱり書きやすいのは、数十年にわたって常体で文章を書いてきたからなんだろうと思う。
文章は常体の方が格調が高い、という観念があるということもあるかもしれない。である調、漢文調の方がですます調より格調が高い、という気がする。もちろん、基本的には文体より中身の問題で、昭和初期の雑誌などを見ているとですます調でも偉く格調の高いものもあるのだが。大学生の頃はですます調は『赤旗』の文体、という印象があって、揉み手をしながら若者に近づいてくる大人には警戒しろ、というのと同じような感じがあった。それに世の中、当時はそんなにですます体の文章というものがなかった気がする。(まあ『赤旗』だからですますはダメだというのも馬鹿な話で、それじゃあ『聖教新聞』だから総ルビはダメだという話になる。総ルビに関しては私はもっと推進すべきだと思うんだよな。子どもが漢字を覚えるのに、絶対役に立つし、総ルビにすれば少々難しい漢字でも気兼ねなく使える)
じゃあいつごろから敬体の文章が世の中にあふれ出したかというと、やっぱりネットの影響が大きいかなという気がする。つまり、プロが書いた印刷物の文章は常体でも、素人が書いたネットの文章は敬体になるのだ。メールは相当親しい相手でなければやはり敬体だろうし、その延長のホームページやブログにしても常体ではなんか高飛車な感じになるとみんな思ったのではないだろうか。
最初っから常体でがんがん書いている人もいなくはなかろうが、なんとなく普通の市民感覚から言うと、つまり普段から文体に関して研ぎ澄まされた感覚を持っていない一般人にとっては、やっぱり敬体の方が無難なのだ。だからネットには敬体の文章が溢れ、ネットを読む機会の多い人は、世の中に敬体の文章が増えたなという感覚を持つのだろうと思う。
実際読む側にとってはどうなんだろう。敬体の方がソフトな印象があるのはもちろんだが、実際にはけっこう辛辣なことを言っている場合も多い。書き手にとっては辛辣な印象を強めるためにはむしろ敬体の方がいいのかもしれない。文章の美しさを感じるのはやはり常体の方が多いかな。しかし練れていないというか、この人、人に何かを伝えようという気があるのかな、と思う文章は常体の方に多いということもいえる。
文章の練度、という点では敬体の方が練れているものが多い気がする。それはまず敬体にすると言う時点で、読み手のことを相当意識せざるをえないからだ。素人が関係性を持ちえる文章、人に訴える力を持つ文章を書こうとするなら、そういう意味では敬体の方がよいのかもしれない。常体の文章は自分の気持ちに素直になりやすく、言葉を変えていえば一人よがりになりやすい。「こう思うから、こうなんだ」で話が終わってしまう。読むほうは「え、何で?」と思うが、結局「そうだから、そうなんだなあ」と思うしかない。
読み手のことを計算に入れて文章を書くということは、敬体の方がやりやすいのかな、と最近思うわけだ。ただ計算しすぎると自分の中の文章の発想が出てこなくなったりもするので何だか難しいんだけど。今日から文体を敬体に変えてやれ、と実は思っていたのだが、その前にちょっとこの問題について考えるところを書き出してみたら長大になってしまった。でも敬体で文章を書けるようになることは、自分自身にとっては意味のあることだろうと思っていて、そのうち敬体になるかもしれませんが、何分よろしく。
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