詩を書くということ
Posted at 07/04/20 PermaLink» Trackback(1)» Tweet
詩を書くことは自分にとってどういうことなのだろうという問いが、それはそういう言葉にはきちんとならない問いなのだが、ある。考えてみると、私はそういうきちんと言葉にはなっていない問いについて考えていることがよくある。言葉になっていない問いについて、言葉になっている答えを出してもいいのだろうか。答えも言葉にしないまま答えとして持っているほうがいい気がする。しかしどうしても思考は言葉で考えてしまうことが多いので、言葉が答えのようなふりをする。その言葉での答えを、多分ほんとうには信用していないのだけど、とりあえずそれもなくては困るような気がする。人に問われたときに、ことばでないものをことばでないまま答えるには、力不足だからだ。考えてみると、禅というのはそういうものかもしれない。達磨大師が「何故中国に来たのか」と問われて「庭の柏の木だ」と答えたという話は知られているが、その字面だけ追っていたのでは何がなんだかわからない。何がなんだかわからない詩のようなものだ。言葉にしてしまえば、柏の木が庭に自然に生えているように、そこで自然に生きているように、自分は自然に中国に来た、生命の自然のしからしむるところなのだ、というような意味だと思うのだが、(この説明自体が何言ってるのか分からないかもしれないが)まあ説明してしまうと、つまり言葉にしてしまうとほんとうには信用できない言葉になってしまうというようなものだ。まあそんなふうに考えてみると私が詩を書くというのも庭に柏の木が生えていたり達磨が東へ行ったりするのと同じことなのだ、ということになるのだが、まあ多分そんなふうに言っていいのだろうと思う。
私は詩をいつから書いていたのだろうかと思うが、どうもあまり思い出せない。おぼろげながら覚えているのは6年生のときに芭蕉祭で俳句を作ったこと。当時住んでいたのが松尾芭蕉の出身地だったのでそういう行事があり、全生徒が作らされたのだ。「秋の海ぽつんと灯台立っている」というのがその時の句だが、入選だか佳作だかに入った。今味わってみると作意とは違うところで荒涼とした感じがあって悪くはない。私がその時思い浮かべたのはちょっとマンガ的な風景なのだが、今は実録風に思い浮かべてみた。まあつまり、俳句というのは想像力の芸術なのだよな。まあこれは詩歌全体にいえることだが。
それが今言葉にできる(笑)最古の記憶なのだが、それ以前も行分け詩は手慰み程度に作っていた気がする。作文は好きで、先生に誉められて嬉しくなってどんどん書いていた。詩も「大阿蘇」(草野心平だったか?)とかがいいと思って真似して作ってはいたと思うのだが、どんな作品だったかはもう覚えていない。
中学一年のときに「ルナールの言葉」というのが国語の最初の教材で、警句、アフォリズムのようなものをはじめて習う。皆さんも作ってみましょう、ということで私もちょっと面白いと思っていろいろ作ってみたが、その時の作品も一つだけ覚えている。「人間は山の木を切って平らにし、家を作って木を植える」というものだ。細かいところは違っているかもしれないが、つまりは山を開発して森林を滅ぼしてから庭にこじんまりと木を植えて悦に入る、みたいなことを言いたい内容だが、これは同じような内容のマンガが手塚治虫にあり、(『不思議のメルモ』(題名の記憶がアヤシイ)だったと思う)それをまとめただけなのだが、先生に妙に感心されたので記憶に残っているのだ。やっぱり子供にとって誉められたり感心されたりすることは大事なんだなと思う。
そのあとも折に触れておもに自分のためにいろいろ詩や詩のようなものを書いていたが、今思い出してみるとどれも観念的でイメージの広がりに乏しい。今なら同じ内容でももっと違う表現をとるだろうと思うものがいろいろ思い出される。大学に入って芝居をはじめると詩から戯曲に行ったが、戯曲ははっきりしたドラマ性が必要だし、詩とはまた違う技術が要る。モノローグ(一人の長いセリフ)とダイヤローグ(二人の対話)は書けるがドラマがなかなか展開しない。なんと言うか私は世界をスタティックにとらえる面が強くて、ダイナミックさを要求される戯曲や小説のようなものはあまり得意ではないのだなと思う。ただ、戯曲は詩的な展開に近いものが可能なのでわりあい書きやすく、何作か上演は出来た。小説はいくつか書いてみたけれど、今に至るまで十分に満足したものは書けない。少なくとも日本的な意味での小説的散文というのはなかなか私には難しい。書くとしたら細部を批判的に詰めていかない造形的な作品、三島由紀夫や澁澤龍彦のような方向性だろうと思うが、こんな二人を挙げてしまうと山の峯が高すぎて途方に暮れたりはする。
なんだか日記を書くつもりでどうも違う方向性になってしまったが、詩のことについていろいろ考えていたのだった。考えてみると、最近詩の方向の人との交流が途絶えているなと思う。私がサイトをはじめたのはそもそもが詩のサイトだったので、1999-2000年にはずいぶんいろいろな人とメールのやり取りをしたり実際に詩の催しなどにもよく出かけたのだが、どうも私のやりたいことと一致している人を見出すことが出来ず、なんとなく熱が冷めて、日記や散文の方に行ってしまっていた。しかし最近またメルマガで詩を書き始めてなんとなく自然に力が入ってきている感じがあった。それはまあ、知っている人に私の詩について「いい」と言われたのでまたやる気が出てきたということもある。まあなんというかどうも私は周囲に左右されすぎるとは思う。詩は一番自分の書きたいことが書ける、というかもう最近では誰に理解されなくてもいい、という開き直りが出てきていることもあることもあって一番自由に書けるということはある。それでももちろん、というかそれだからこそなおいっそう、理解されたり「いい」と言われたりすると嬉しいものだ。詩というジャンルは身を立てていくことが極めて難しいジャンルで、だからこそ困ったなあと言うところがあるのだが、それでもなんでもとにかく作品を作っていかないことにはどうにもならないし、作品を読んでもらわないことにはどうにもならない。一般の人に広く読んでもらうことも大事だけど、詩を好きな人に読んでもらうこともまた大事なのだが、ここのところそういうことに対する意識がなかったなと思い当たったと言うわけだ。
で、実に長大な前振りになったが、きのうmixiの詩のコミュに参加してみた。参加してみると面白く、連歌や一行詩や題詠などなど、気楽に参加できるトピがたくさん立っていて、どんどん投稿してしまった。こういうのは作品制作上も刺激になるし、読んでもらえるということと人の作品を読めると言うことはとても楽しいと改めて思った。若い人が多いのも楽しいし、その中で自分と方向性があって高めあっていける人とであえるといいなと思う。
本題はこれだけらしい。
***
読むもののネタがきれたのでこちらにあるものに改めて目を通したりしていたが、齋藤孝の『理想の国語教科書』(文藝春秋、2002)、『理想の国語教科書・赤版』(文藝春秋、2003)を改めて読んでみるととても面白いと思った。特に翻訳ものがいい。小林秀雄の訳したモーツァルトの手紙とか、ヘレン・ケラー『私の生涯』の有名なwaterの場面、など。しかし今読み返してみると日本語でも、野口英世の母シカの手紙、『碑(いしぶみ)―広島二中一年生全滅の記録―』など、文章を磨く作家の作品でない、真情や真実の記録の方に心を動かされる。特に『碑』は国連総会の場所などでも朗読してもらいたい作品だ。
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あとはジョン=トッド・渡辺昇一訳『自分を鍛える!』(三笠書房、2000)も今読んでみるとそれなりに面白い。
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