天使のように純粋で、愛のように甘い/手相を自慢する菊池寛/本当の情熱
Posted at 07/04/17 PermaLink» Tweet
毛布を掛けると寝汗で目を覚ます季節になった。喉がからからなので、便所に行ったあと紅茶を沸かす。ステンレスの薬缶はすぐ唸る。リーフ模様のカップの中にピラミッドを吊り下げて、機嫌をとりながら薬缶を傾ける。シュッシュッとステンレスを冷やして熱湯は紅茶になる。窓に結露。暑いんだか寒いんだかわからない。今年初めてチノパンを穿く。春夏物の靴下を買わなきゃ。
しばらくネットを見て書き込みをして。メールをチェックしたあとのろのろと日記を書く。紅茶はもう飲み干していて、白いポットでコーヒーを入れる。悪魔のように黒く、地獄のように熱く。天使のように純粋で、愛のように甘い。タレイランのコーヒー賛歌だが、「天使のように純粋で、愛のように甘い」という訳はいい。
むかしは気恥ずかしく感じたものが、今は素直にいいと感じるものは多い。今でも気恥ずかしく感じるものは多いが、本当はいいと感じているものも多いのだと思う。まだまだ日常性の厚い皮膚を被っていて、ひりひりしたリアルに触れることは稀なんだなと思う。
昨日は午前中日本橋に出て本屋に行って昼食の買物。プレッセで食料品の買い物をしていたら、レジ待ちが一列に30メートルぐらいになっていて、盛り上がった。行列の最後尾についてもレジ自体は7台あるのでどんどん前に進んでいく。流れの速い行列は盛り上がる。スイカで改札内に入ったとたんにペーパーフィルターを買い忘れていることに気がついた。
昨日はほとんど銭天牛『すぐに役立つ銭流なるほど手相術』(棋苑図書、1989)を読んでいた。占いの本というのは読んでいて疲れる。結局は占いという相から人生を見ることだから。騙されていると分かっているのに悪い男に引かれていく女の話とか、読んでいるとやはり沈む。この人の個性がそうなのかもしれないが、占いで分かることは人生は不条理だということだという気がしてくる。占いに言われなくてもそんなことは分かっているはずなのだが。
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しかし、日笠雅水さんの話を読んでいても思うけど、占ってもらいに来る人というのはもともと不安を抱えている人が多いわけだから、あんまり明るい話が出てこないのも仕方のないことかもしれない。根拠のない楽観を与えるのが占いの仕事というわけではないし、現状に何か不安があるということは現実にも問題があることが多いのだから、どうしてもシビアな話になってしまうだろう。うまく行っている人の手相、自信に満ちた人の手相を見るということはそういう意味でも大事なんだと思う。
一代の文豪で文芸春秋社の創始者、菊池寛の掌も実に柔らかく肉が厚く、丘が発達していたそうです。 「菊池は自分の手相が得意でねエ、よく人に見せていたもんだよ。」 作家小島政二郎氏から直接お聞きした話です。小島先生ご自身の手相も、自慢してもいいものでしたが…。
『父帰る』の菊池寛が自分の手相を自慢していたという話は微笑ましい。菊池寛という人は幽霊を見たことがあるという話を確か白洲正子が書いていたが、そのとき菊池は岩波文庫の『祝詞・寿詞』を読んでいたという話も何だか可笑しい。それを読んでこの本を購入した私もどこかおかしい。
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夕方手相の話で友人と電話してずいぶん盛り上がった。
そのとき電話でも話したことなのだけど、「本当の情熱がないな」と思った。自分が本当に情熱を感じることではなくて、「これが面白いとみんなが思っているのではないか」とか「これが権威だとみんなが思っているのではないか」とか「これが好きだとみんなが思っているのではないか」とかそういうことばかり追いかけている、あるいは追いかけてきた気がした。そういうものを追いかけてみたのが結果的にプラスになっていることは多いのだけど、それはあくまで結果的に過ぎなくて、自分がほしいものをほしいという動機でゲットしたものがあるんだろうか、と思ったのだ。自分がほしいもの、自分がいいと思うものをみんながいいと思ってくれることはない、という気持ちは実は自分の中でとても強い。「詩はいいけど、評論はつまらない」と昨日の電話でも言われたが、詩はどうせ理解されないだろうし誰がどう思おうとどうでもいいと思って書いてるから見る人が見れば面白いんだと思う。評論はなるべく多くの人に受け入れられるようにと思って書いてるから自分の本当に面白いと思うことが書けてないということなのかもしれない。
でも自分がいいと思うもの、本当にほしいもの、本当に好きなもの、本当の情熱を感じるものについて書き、本当の情熱を感じることをしなければ、本当の情熱なんか出ないんだよな。でもまあ、そのときに指摘されたけど、これだけ膨大な本を読み、これだけ膨大なコンテンツを作り出しているのを自分で見てみれば、本当の情熱がないとはとても思えない。何というか疑り深いというか、まだまだ全然本当の情熱を発揮している気がしないんだよな。
まあしかし、人に合わせるのはやめよう。本当の情熱を感じることを書こう。そうして行かなきゃ、やっぱ本当の情熱を発揮することなんて出来ないんだよなと思う。
***
タレイランのコーヒー賛歌を確認しようとしてフランス語のサイトを見ていたら、僕はdoux comme l'amour(愛のように甘い)ではなく、amer comme l'amour (愛のように苦い)と言いたい、という言葉が出てきて、コーヒーは黒くて熱くて純粋で苦い、人生のように、なんて言ってて、「アメリカン、sans sucre(砂糖抜きで)、シルヴプレ」とか言ってて、かっこいいなチキショウ、と思った。
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