「ギムレットを飲むには、少し早すぎるね」/「トモダチ」
Posted at 07/03/17 PermaLink» Tweet
昨日帰京。夕方から夜まで仕事。少し忙しかった。最終の特急で上京するが、首都圏の人身事故とか信号故障とかが重なってかなり遅れて到着し、新宿に着いたときには40分くらい遅れていた。車内は結構込んでいて窓際の席はもうなかった。駅の弁当も売り切れ。近くの山崎デイリーまで行ってコンビニ弁当になってしまった。
車内で食事を終えるとチャンドラー・村上春樹訳『ロング・グッドバイ』の続きを読み始める。ほかにやることがないので集中して読み進める。思いもかけない展開。なるほど、探偵ものというのはこういう展開をするんだな。そういえば、小学校の頃は探偵が好きだった。
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「ギムレットを飲むには、少し早すぎるね」の台詞のでてくる展開では、さすがにやられたと思った。ネタばれになるので書かないが、この展開がでてくるだけでこの長編を読む価値がある、という感じになるだろう。「さよならをいうのは、少しだけ死ぬことだ」という台詞があるが、これはまあその通りだと思うけれども、そんなにすごいかなあとは思う。
列車が40分遅れてくれたおかげで車内で読み終えることが出来た。その後に村上の長い訳者あとがきがあるのだが、これは読み終えた直後に読むものではなかったなという気がする。余韻のために読むようなこういう小説の後で、余韻を最初から打ち消すようなあとがきは少し気が利かない。が、仕方ない、読み始めてしまったので最後まで読む。読み終えたのはもう家についた後だったが。特急が遅れたおかげで午前様になってしまった。
読み終えていろいろなことを考える。確かにこれは精緻な文章芸術で、多分そのつど読み返しても面白いところがあるに違いないと思う。村上の批評が頭の中にあるせいで、自分自身の感想が素直に出てこないところがあんまりよくない。村上の感じ方と私自身の感じ方にはかなりの隔てがある気がする。多分、私の感じ方の方が特殊なんだろうと思うが。
読み終えて、この中の誰が自分に一番近いか、と問いかけてみると、フィリップ・マーロウではないことは確かだ。では誰かというと、テリー・レノックスかも知れない、と思う。そのほかの男の登場人物は、みなタフかタフを気取っているか萎れているか、あるいは萎れているふりをしているか、何だかある意味戯画的な感じがする。キャラクターだ、という感じだ。テリー・レノックスもある種戯画化されているかもしれないが、戯画化しきれない何かがある。マーロウは村上の言う仮説としての人格、という主張は分かる気がする。マーロウもある種の戯画のような気もしてしまうのは、チャンドラーのエピゴーネンが余りにたくさん存在するせいだろう。
女性像でいうと、一番魅かれるのはやはりアイリーンだ。こういう造形の女性に引かれるという自分自身に何か問題がないとはいえないが、リンダはやや日常性がある。村上が言うように男の造形には技術を尽くしているチャンドラーだが女性の描き方はややロマンチックに傾きすぎるがために平板になっているということは事実だろう。しかし、これだけ暑苦しい男たちがたくさん出てくる話の中で、女性まで暑苦しい造形がされていたらちょっと耐えられないだろう。ロマンに流れているのがむしろ救いなのではないかという気がする。その中でも、アイリーンはつき抜けたものがその造形にはあるといえるだろう。
フィッツジェラルドがニューヨークを描いたように、チャンドラーはロサンジェルスを描いたと村上は言うが、そうかもしれない。二人ともアイルランド系だというが、シカゴで生まれたチャンドラーは父がアイルランド系でクエーカーでアルコール依存症だった、というのは相当複雑な何重にもねじれた業のようなものを持って生まれてきたということが分かる。クエーカーの酒飲みなど初めて聞いたし、アイルランド系のクエーカーというのも始めて聞いた。もちろんそういう人もいるのだろうが、あまりにも規範から外れている。アメリカとはいえ、いやアメリカだからこそ、そういう規範から外れた人間の生き難さというものは想像を絶するものだったのではないかと思う。チャンドラー自身も離婚した母とイギリスに渡り、パブリックスクールに通っている。何重にも捻じれた骨が捻じれたままつなぎ合わされたような人生だ。チャンドラーが小説を書き始めたのが45歳を過ぎていたとか、(最初の刊行本「大いなる眠り」は50歳のときらしい)チャンドラーの妻は18歳年上で、84歳で妻が死んだときは大きなショックを受け、自殺まで企てているという。
チャンドラーという人間は今でも自分の中でうまく像を結ばない。マーロウにしてもそうだ。やはり人格が仮説だといわれてしまえば途方にくれてしまうのかもしれない。感銘を受けたことは確かなのだが、一体その感銘の正体が何なのか、どうもうまくかけないもどかしさがある。
読み終えた真夜中、らじろぐを更新。最初は村上の話をしようと思っていたのだが、どうもうまくまとまらず、話を変えた。手元にあった八木重吉の詩集を読んだ。冷蔵庫を探したらライムジュースとジンがあったのでギムレットを飲むことにした。午前2時を過ぎていたし、ギムレットを飲むのに早すぎるということはなかっただろう。しかし、へまなことに氷を切らしていて、ライムジュースとジンをメジャーカップで量って氷を入れずにシェイカーに入れ、少し揺すってグラスに注いだ。十分に冷えてはいたが、やはり氷がないとまざりが悪い気がした。
朝起きてぼおっとしていたらファックスが入って古典文法の「らむ」とか「死にてんげる」とかについて質問された。資料も参考書もろくに持っていないので手元の古語辞典をくってなんとか答える羽目に。
久しぶりに「PCゲームもりぃもりぃ」のサイトをのぞいていたらショックウェーブの「トモダチ」というゲームが紹介されていた。ちょっとやってみたら面白いのだが、コワイ。音量を大きめにしてやってみると、何がコワイのかはよくわかると思う。
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