解き得ぬ謎/GoogleよりYahoo!の方が優れているのではないか
Posted at 07/03/18 PermaLink» Tweet
インターネットラジオ「Feel in my bones in らじろぐ」更新しました。
土曜日の未明に帰ってきてから、とにかく喋りたかったのだろう、らじろぐを既に三回更新している。おしゃべりの内容はそんなたいしたことではないが、朗読したものは『八木重吉詩集』、知里幸恵『アイヌ神謡集』、オマル・ハイヤーム『ルバイヤート』だ。詳細は『詩の本のお店』を参照されたい。
喋る、という行為はコミュニケーションの役割がもちろん大きいが、それだけではない。ある種の呪術的な役割をも持つ。日常の世界から、言葉の世界、ある種の「悪場所」に引きずり込む行為でもある。それを組織立てたのが演劇であり、また朗読であるのだが、最近の日本では演劇はそれなりの隆盛をしているものの、朗読はあまり行われていないようだ。
しかし、ナチスの元女看守と少年の心(と体)の交流を描いた『朗読者』はもとより、昨年大変話題になったカズオ・イシグロ『わたしを離さないで』の中でも朗読シーンは大変よく出てくる。お母さんが子どもに本を読み聞かせることの延長線上に、本来は朗読というものはあるのかもしれない。喋るものと聞くものの距離が近いところでの朗読は、ある種直接的なコミュニケーションであるといえるのかもしれない。
朗読はしかし、人が人に読むためのものだけではなく、人が神に対して告げるものでもあった。リグ=ヴェーダの詩人たちは同時に神官でもあり、バラモン階級の支配者でもあった。我が国の『古今集』仮名序の例を挙げるまでもなく、言葉は神異さえも動かす力を持ったものだった。
ラジオでしゃべるという行為は誰が聞いているのかわからないので、ある意味で神に喋っているような感じがすることがある。詩人の言葉は、神に向かって喋ることのできる、選ばれた言葉だと思う。現代の人はなぜ詩をあまり読まないのか、それはある種ふしぎなことでもあるのだが、その事が現代人と言葉との間に目に見えない乖離を生じさせ、人と神、あるいは自然との間にも深刻な溝を刻んでしまっていることと関係のないことではない気がする。詩を読むことは、その力を回復するためには必要なことだ。何者かに向かって詩を読んでいると、そんな気がしてくる。
***
何を読もうか何を喋ろうかと考えていると、次々と詩人の名が頭に浮かんでくるのはふしぎなことだ。いろいろな「解き得ぬ謎」(ルバイヤート)がある。青空文庫を見ると分かるが、名の知れた詩人たちもかなりの人たちが没後50年以上たっていて、著作権に関わらず彼らの詩を朗読することが可能になっているのは嬉しいことだ。私の放送を聞いて、ひとりでも詩に関心を持っていただける人が出たら、こんなにうれしいことはない。言葉の力を回復することが、ほんの少しだけでも、日本を自然の姿に、あるべき姿に戻すことに役立つのではないかと思う。
***
昨日はそんなふうに、ネットの作業をしたり録音をしたりしてなんとなく一日が過ぎてしまった。あんまりに何をやっているのか覚えていないので、どうも何だなと思い今朝はノートに作業内容をつけるようにしてみたら、かなり膨大な作業をやっている(しかもほとんどルーチンで)ことに気がつき唖然とする。まあ仕方ない、確かにたくさんのことをやっていることは確かだ。目が疲れたり腰が疲れたりするのも当然なのだが、自分で考えているほど作業がはかどらないので、つい悲観的な気持ちになってしまう。ちゃんとノートをつけてみることでどれだけの作業をしたかが分かるし、やっていることを無駄な部分も含めて客観的に見ることが出来るのでこれはいい方法だと思った。
夕方書店に出かけけてSAPIOの新しい号など立ち読みしたが、結局『YAHOO ! Internet Guide (ヤフー・インターネット・ガイド) 2007年 04月号』を買って帰った。いろいろ考えて買ったのだが、よく考えてみたら「インターネット」というものに関する雑誌というものの中ではこれが一番メジャーかもしれない。こういうものを読んでみるといつも思うのは、ネットをやっているだけでは見えてこないものがこういうものから見えてくることが多いということだ。というのは、自分がネットでいろいろ見ていても、自分の見たいものしか見ていないから、今ネットで何がはやっているかとか、何が問題になっているかとかは、関心がないと見逃してしまう。しかし雑誌なら必然的に目に入ることになるから、ネットというものを観察する上では、雑誌というものの役割はかなりあるように思う。
YAHOO ! Internet Guide (ヤフー・インターネット・ガイド) 2007年 04月号 [雑誌]
それと関連してだが、最近実はGoogleよりもYahoo!の方が「優れている」のではないかという気がしてきた。Googleはweb2.0の代表のように言われ、一方のYahoo!はweb1.0の代表のように言われるが、GoogleとYahoo!の性格の違いは、そのトップページのインタフェースに端的に現れている。Googleのそっけないまでのシンプルさに最初はかなり引かれたものだ。饒舌なYahoo!Japanのトップページに飽き飽きしていたということもある。どこかの日記を読んでGoogleが日本語のベータ版で紹介されたときに、さっさとGoogleに乗り換えてしまい、以来Yahoo!の方は相当必要があるときでなければ見ないようになっていた。
しかし、上にも書いたようにネットで起こっていることに最近とみに疎くなっている気がする。特定の分野について詳しいということはよくあっても、全体像が見えなくなってきている。それはGoogleで興味のあるところだけ検索する習慣が身についたことの弊害だといえるのではないか。Yahoo!では興味のないものも目に入ってきてそれは確かにうざったいことなのだが、そういうのが案外重要なのではないかという気がしてきたのだ。
もちろんYahoo!のコンテンツもどんどん膨大になってきていて、とてもすべてを追っかけることは出来ない。Googleのサービスも想像もつかないようなものをどんどん実現していて、それも確かにすごいことだとは思う。ただ検索に関していえば、Googleというのはつまり電子辞書のようなもので、調べたい単語のことしか分からない。もちろんそれに集中できて気がそらされないからデジタルにそれを把握することが可能だ。Yahoo!の検索(つまりカテゴリとかが表示されること)はどちらかというと紙の辞書のようなもので、周辺の関係あるんだかないんだか分からない情報が結構混じってくる。目指す単語にようやく行き着いたら該当するものはない、なんてこともよくある。そういう意味で、いわばアナログな、人力検索的な部分がYahoo!には残っているということだ。
そしてわたしは実は電子辞書は使わない。ペーパーの辞書を愛好している。よく言われるように、周辺情報が入ってくることで、その言葉が立体的に感じられることがよくあるからだ。デジタルにその言葉だけに迫ると、遠近感とか微妙なひだとかが見えず、平板な印象になってしまう気がする。その部分が、実は重要なのではないかという気がするのだ。
もちろんどちらもいくらでも使えるのだからその特性を生かして使えばいいことで、優劣を論じるようなはなしではないかもしれない。しかし自分の傾向として、アナログな潤いというか――男女の出会いに例えるとちょっと微妙なことになるが、出会いはアナログだからこそいいのだろうと思う――そういう微妙なものが欲しい気がしてきていることは事実だ。そして多分、そういうものが必要だと思う人はわたしだけではないのではないかという気がする。ネットを調べるときにはきっと潤滑油のように無駄に見える情報が本当は必要なのではないか、という気がする。
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