自説に固執するわけ/アメリカと石油の関係

Posted at 07/02/10

昨日。仕事の片付け延々と。夜までかかって何とか一段落。最終の特急で東京へ。帰京してからまたPCをいじり、何とか9分通り仕上げた。あとは清書というところ。早く自分の手を離すに越したことはない。

特急の中ではリチャード・クー『「陰」と「陽」の経済学』を読み進める。「経済学者の世界」というのが分かってある意味面白い。自分の学説が不適当だということが分かってもなかなかそれを認められないのは、大学で学生に教えていたことを否定することになるからだ、という指摘はなるほどそういうものか、と腑に落ちた。普通の、というか私の考えている学問のイメージだと新しい事実、新しい心理、新しい証明が発見されたら今までの学説に変更を迫られることは当たり前だと思うし、認めていかざるを得ないものだと思う。しかし経済学は少なくともそういうものではないらしい。(もちろんそういう態度を取る人はどの分野にでもいるが)

「陰」と「陽」の経済学―我々はどのような不況と戦ってきたのか

東洋経済新報社

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経済学というのは政策科学であるから、その金融政策・財政政策が政府によって実施されると巨大な影響力を持つ。だから一度やったことを間違っていたと認めることが困難だということはあるだろう。実効力のない学説は結局は見捨てられていくわけで、マルクス経済学の失墜など経済学の世界での栄枯盛衰は確かに激しい。特に学者の世界では学閥というものもあるわけだし、一度ある学者の学説が間違っているということになってしまったらその弟子たちも「職が危ない」ということになる。学派が団結して他の学派と艦砲射撃の打ち合いのような論戦になるのもある意味そんなところなんだろうと思う。

そういう意味ではマルクス主義でなくても、経済学説というのは教条(ドグマ)であるということなのだ。確かに「こうすれば経済は良くなる!」という「学説」は「こうすれば儲かる!」というのとある意味似ている。絶対的な経済学というものが存在しない以上(もし存在するなら経済問題など起きないはずだ)、やってみてうまく行くか行かないかしかない。

そういう点は医学と似ているな、と思う。ただ医学の場合は、どんどん新しい方法論や技術が開発されて日進月歩の様相だから、昨日までの「正しい方法」が今日は既に古くなっているということに一線の医師はあまり抵抗がないのではないかと思う。経済学もそんなふうに身軽にやれればいいのだが、事例がたくさんある医学と国家の数しかあり得ようのないマクロ経済学とでは、また人類の発生とともに、ある種の体系化を経てからも数千年の歴史がある医学と資本主義の発生以来まだ数百年の歴史しかない経済学とではそんな簡単な比較は出来ないのだけれども。

p.292以降の石油価格とドルの関係というのもなるほどと非常に腑に落ちたのだが、石油の国際価格はドルで取引されているので、極端なことを言えばアメリカはドル紙幣を印刷すれば石油が買えるのだ。だから逆にアメリカはドルの価値を維持することに神経を使う必要がある。もしドルが暴落するようなことがあれば産油国は大損害なので、そうなったら取引通貨をたとえばユーロに変更するかもしれない。もしそうなったら、アメリカは石油を輸出するためにはドルを大量にユーロに両替せねばならず、そうなればユーロは暴騰、ドルは暴落ということになる。アメリカは現在の石油取引において非常に有利な地位を持っているのだということがよくわかったが、逆に言えばその地位を失うとアメリカは危機に陥る。石油価格の安いアメリカでは一般国民の生活が安い石油価格によって支えられているからだ。それは政治的にも非常に深刻な影響を持つことになる。

考えてみれば当たり前のことだが、アメリカにとって石油の持つ政治的経済的な意味は深刻なのだ。もちろん日本だってそうだけれども、「ドル=石油関係というアキレス腱」(クー)を持つ深刻さはアメリカの方が上だろう。彼らの石油に関する異常な関心の強さはただ石油メジャーの儲け主義というだけではないのだ。

これまでの日本の発展のモデルというのは「いい物を作ってアメリカで売る」ということであり、台湾や韓国、そして中国も結局そのモデルで発展しているわけで、市場や消費に関しては完全にアメリカ頼みであることは間違いない。そのモデルがもう有効ではなくなりつつあるのではないかというクーの指摘は、やはり考えておかなければならないことだろう。そのほか中国の経済官僚の優秀さの話とか、現在はドイツが世界最大の貿易黒字国になっていることとか、面白いと感じたところはたくさんあった。読了。

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