お金をめぐる語りと哲学/現金信仰とメシア(高金利)渇望/イランの困難とアメリカの聖痕
Posted at 07/01/29 PermaLink» Trackback(3)» Tweet
金曜日に帰京。土日と更新しなかったのは本を読んだりいろいろと考え事をしていたからだが、何か書いていないとこの日に何をやったのか、目の前にある本をいつどういうふうにして買ったのか思い出せなくなって困るので、記録しておこうと思う。
金曜日は、午後から夜まで仕事して最終で帰京。松本の仕事の事後処理の書類を一応もってきたのだがまだ期限があるのであまり手をつけていない。金曜日のうちに『金持ち父さんのキャッシュフロー・クワドラント』は読み終えていて、列車の中では『金持ち父さんの投資ガイド入門編』を読んでいた。この本のほうを先に買ったのだけど、出版順に読んだほうがいいかなと思って『キャッシュフロー・クワドラント』の方を先に読んだのだが、まあやはりそれで良かったかなと思う。
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基本的には、著者のキヨサキの体験談を元に「金持ちになるための心構えと実践」に関していろいろ語るというスタイルは変わらない。『キャッシュフロー・クワドラント』は1985年に彼らがホームレスだった、というところから話を始め、そこからお金に関する教育のビジネスを作り上げていったこと、またそのほかのビジネス体験を織り交ぜながら書いている。『投資ガイド入門』は1973年、ベトナム戦争で海兵隊員として従軍したあとハワイに帰国し、再スタートを切ろうとしたときに思いがけなく「金持ち父さん」に申し出を断られる、という話から始まる。キヨサキの語りのスタイルは、こういう自分のビジネスと人生に関する体験を語ることをメインにしてまるで小説のように読む人の興味を集め、そこでいろいろなお金に関する「哲学」を開陳する、というやりかただ。
読んでいるうちに、登場人物の人生にそのつど必要になるさまざまな「哲学」について、その人生経験を味わっているうちにその「哲学」について考え始め、よく考えたり想像したりしながら自然にそれが理解されていくというパターンを取っていて、なるほどこのての本のやりかたとしてはとてもうまいものだなと思う。ベトナム戦争や、ホームレスや、ハワイの別荘、税制の変更、そのほか同時代のアメリカ人が共有している人生に起こったさまざまな出来事への対処を通じて作者への共感と哲学への関心を呼び覚ますというのは、小説家と教師あるいは哲学者の両方の役割をする、おそらくはルソーの『エミール』やニーチェの『ツァラトゥストラ』以来のフィクショナルな哲学書の伝統を引いているといっていいのだろうと思う。
現在ネット上でさまざまな体験談を元に売り込もうとしている情報商材や、書店にあふれている企業本、成功譚本なども『金持ち父さん』の二番煎じ的なものが実はかなり多いということに気がついた。しかし、類書の中でもこの本が群を抜いているのは、やはり『経験の厚さ』ということだろう。もちろん20代の日本人の若者のした経験が、ハワイの日系4世の60近い人の経験と同等ということはありえないが、何というか腹式呼吸と胸式呼吸の違いというか、息の深さが違う感じがするのはまあ仕方がないことなのだろう。
実際、『投資ガイド入門編』を昨日ようやく読み終えたのだが、気がついたらこのシリーズをもう4冊読了したことになっていた。翻訳のビジネス書をこんなに読むというのはちょっと考えられないのだが、まだまだ読みたいという感じがする。まあしかしさすがに疲れたのでちょっとインターバルを置こうと思ってはいるが。
***
金曜日は新宿駅のキヨスクで『SAPIO』を買った。夜は朝生をほんのちょっとだけ見ながら3時ごろ就寝。土曜日は朝から換気扇の点検の人が来て、ampmで朝食を買ったときに『コミック乱』を買う。午後から丸善に行って本を物色して永野良佑『プロが絶対買わない金融商品』(扶桑社、2006)を買う。Blue Bleuetで好きな色のマフラーがあったので買った。
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『プロが絶対買わない金融商品』は読みかけだが、いろいろと面白い。プロの反対は、つまり「個人」で、個人が割に合わない金融商品をいろいろつかまされている、という話だ。たとえば基本的に「毎月分配型」とか「毎月利払い型」という形のものは年金の連想でかなり売れ行きの良い商品になっているそうだが、税制上も投資効率上も本質的にあまり得でないものであるらしい。やはりこういうことは誰かに聞かないと分からないことなのだが、なぜそうなるのかということに関していえば、つまりは「現金信仰」を利用しているということになる。
やはり私などでもそうだけど、証券というものは恐い感じがする。というのは、よく理解できていないということもあるけれども、つまりはなんとなく自然に反した人工的な、何に根拠があるのかよく分からないものだということがあるのだろうと思う。考えてみれば現金だって紙切れで、戦後には「新円切り替え」で事実上紙切れになったことだってあるのだし、あんまりこだわっても仕方がないと考えられなくもないが、やはり日常性に依拠して「現金なら大丈夫」という感覚が広く行き渡っているのは確かだろう。銀行さえ「信用できない」と、タンスに置いている人だってたくさんいるわけだから、ましてや金融商品などいくら得だといわれてもそんなわけの分からないものは結構、と思う人がたくさんいるのは当然だと思う。
つまり毎月配分型、という形式は、「得はしたいが現金を見ないと安心できない」という心理をうまく利用したものだということになる。毎月必ず現金をもらえる、ということの安心感は何物にも変えがたく、また現金をもらえることによって投資信託等の最終的な成績への期待も高まるし、また多少振るわなくても「まあ毎月配分があったし」ということで納得できるということになる。しかし現実は…というのは、まあこの本を読んでいただいてということになるのだろうか。
日本人の間で強いのは「現金信仰」のほかには「高金利信仰」だろう。「高金利」への思いは信仰というよりむしろ「渇望」、メシアを求める感覚に近いような気もする。私も多少の金融商品を保有しているので、証券会社からときどき案内が送られてくるが、「南アフリカランド債8.6%」というような日本では考えられないような金利がつくものがある。まあ何というか、南アフリカの政情を考えればちょっと私などはそういうものに投資する気にはならないのだが、金利で惹かれる人も多いだろう。実際、アルゼンチンのようにデフォルト(債務不履行宣言)をかますということはそうはないからリスクはバンジージャンプ並みなのかもしれないが、もちろん綱が切れる危険はゼロではない。
だから高金利ということはそれだけリスクがあるということで、それをきちんと踏まえずにそういうものを購入している人が多い、あるいはきちんとした説明がどれだけされているかということに危惧がある、ということを著者は言っているわけだが、私は読んでいるうちにむしろ、多くの日本人のいじましいほどの高金利への願望の方が何だか切ない気持ちがしてきてしまった。
健全な金利がどれくらいなのかということは私は金融の専門家ではないしよくわからないが、やはり5%から10%くらいではないかと思う。好景気で10%、不景気で5%というのが普通なのではないかと私は思うのだがどんなものか。現在のような極端な低金利はやはり異常だし、それでもって経済がこれだけ振るわないというのはむしろ産業構造に問題があると考えた方がいいのだろうと思う。だから人々は「あるはずの5%」を求めて荒野を彷徨っているイスラエル人というか、そこに「いい話があるんですよ」という人が来たら結構いちころかもしれないなという気はする。
何というか本当は、金利生活者が一定以上いるような国だったらこの金利は絶対になしえないような数値なんだろうと思うが、やはり日本は産業優先の国だからこういうことが可能なんだろう。そう考えてみると19世紀末のイギリスのような産業立国であり金利生活者も多い国あるいは時代の、そして大不況の時代の金利がどのくらいだったのかということは興味があるが、どうだったのかな。(経済史の文献を紐解けばすぐわかることなんだろうか)
なんてことを考えたり、また、高度成長を支えたのが欧米並みに追いつくための設備投資だった、ということを考えるとITへの設備投資が今の景気を支えるということはないんだろうかと考えたり(それがITバブルだったのかな)、何だか経済の現状のことも興味が湧くというか知らないことが多いなと改めて思ったりする。
産業構造に問題がある、ということを考えるとすると、つまり産業時代から情報時代に移りつつあるといわれる(本当にそうなのかもあまりぴんと来てなかったりするんだが)昨今、まあその言説が本当なら「価値」なり「利益」を産むのは産業ではなく情報だ、ということになろう。その中で「やはり日本はものつくり」、ということがどういうことを意味するのか。日本の「もの」の中にだけある隠された「情報」というか「付加価値」みたいなものを求めていく、というだけではちょっと間に合わないんだろうし、国を挙げて情報の産業化を推し進めていている、というわけでもないし、何だかきっと私だけでなくみんなぴんと来てないんだろうなとは思う。
つまり、「情報がいかにして価値を生み出すか」ということがまだ体系的に理解されてない、その全体像が分からないだけでなく、新しい価値をいかにして掘り出すかということもまだまだ研究不足というか、十分なスタートラインにもたっていないということなのではないかという気がする。それはやはり日本が産業時代に過適応した国家、民族性だということになるかもしれない。
しかしそうなると特定の環境に過適応したがゆえに滅亡した恐竜などと同じことになってしまうから、それは困る。日本人のよさや特性をいかしつつ、新しい時代にいかに適応していくのか、その文化面からの戦略を練る必要があるのではないかという気がする。
韓国や中国の躍進は、実際にはそういうところにあるのかもしれない。製造業の地位の低い士大夫文化の国である彼らは、むしろ「情報」こそが男子一生の仕事であるという認識が日本よりはるかに強い、と『東アジアイデオロギーを超えて』だったか何かに書いてあった。『知財革命』こそ自分たちの時代だという強い認識を彼らはもっているように思う。一見製造業が発展しているように見えるが、実際にはもっと超えたところのものを彼らは追求しているのだろうと思う。
ただ、そういう場合でも日本が対応できることはいくらでもあるはずで、現場からの知見のボトムアップとか、他国人が見過ごすような繊細な部分への対応などといった点で、ある意味日本人の独壇場というようなところはたくさんあると思う。それがイタリアのデザイン産業などと同じように一国一億人を支えるような産業になるかというと苦しいが、全体的なバランスを取りつつそういう部分を伸ばしていくことは絶対に必要だと思う。
っと、話がずれたが、つまり個人向けの金融商品というのは経済合理性というよりも、日本人一人一人の経済の現況に対する無意識の不満とか不安というものをうまく汲み上げて商品化しているものだということになるのだと思う。そういう意味でもっと合理的に考えろ、ということを著者は言っているわけだしもちろんそれはそれで正しいのだが、そこから見えてくる日本人の心性の現状というようなものから、国をただして行くべき進路のようなものが見えてくるのではないかと思ったのだった。
蛇足だが、この著者はFX(外国為替証拠金取引)を割りと勧めているのだが、最近FXについてはだいぶ関心が高まっているなあということを感じる。これについてはあまり理屈や方法が分かっていないところもあるので、また何か読んでみようと思っている。『プロが絶対買わない金融商品』もまだ読みかけなのだが。
***
だいぶ長くなったが、『サンデープロジェクト』のアメリカとイランの関係についての特集は面白かった、ということを書いておこう。アメリカのイラン敵視は1979年のアメリカ大使館占拠事件に始まる、ということは知っていたが、その原因はもともと改革派の学生たちが亡命したパーレビ国王の引渡しを求めて行ったものだ、ということは少なくとも理解していなかった。これは1953年にモサデク政権がCIAに倒されたということから危機感を感じたことがあったのだという。
イラン・イラク戦争開始後は改革派は保守派に弾圧され、イスラム革命が推進されたが、イラン革命自身にイスラム主義の流れと改革主義の流れが混在していたということはしっかり認識していなかった。単なる半近代主義的な革命だと思っていたのだ。
アメリカのイランに対する姿勢が難しいのは、シーア派の宗教指導者勢力やアフマディネジャド政権と対立しているだけでなく、「前科」のある改革派勢力もまた味方とはしにくい、ということにあるのだろう。もしアメリカがイラクのようにイランの政権を崩壊させることに成功したとしても、「改革派」果てを結ぶ相手とはなりえず、むしろ大使館占拠事件の犯人探しを始め、徹底的に報復するだろうことは想像に難くない。あの事件はアメリカに強いトラウマを残したし、逆に言えばあれこそがアメリカが「再び強くならなければならない」と感じさせられたある意味での「聖なる事件」「現代の神話」であるから、あの事件のアメリカでの位置づけが変化するということはボストン・ティーパーティーがろくでなしの仕業だという位置づけに変化することと同じくらい不可能に近いことだろうと思う。
しかしそれにしてもアメリカくらいこういう「神話」や「聖なる事件」の絶対的な位置づけが大きい国はほかにないだろうなと思う。「硫黄島」はようやく相対化が始まったようだが、しかし常に新しい「聖痕」は生み出されていく可能性は強い。そこがアメリカが若い国だということであるわけだし、思い込んだら誰にも止められないということろでもある。
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