真の意味での作家性を持ったマンガ家
Posted at 06/12/04 PermaLink» Tweet
昨日。なんだか疲れていて変なことを書いたような気がするが、今朝は天気がよくてあまり寒くないから昨日のことは昨日のこととしておこう。
疲れていたというのはいろいろな意味で疲れていたのだが、どうも精神的な疲れが大きかったようだなあ。身体的にも頭の使いすぎというような意味でも疲れてはいたのだが、ちょっといわゆる「精神的に大変なこと」があってそのせいがかなり大きいのだなと今になって自覚している。まあ自分ではどうにも出来ないことなのでいろいろ考えても仕方のないことだ、と自分では割り切っていても、なかなかそうは行かない部分がある、ということはよくあることだ。
昼は切れ切れに福岡国際マラソンを見ていたりラグビーの早明戦を見ていたりしたがどっちも途中で見るのをやめた。夕方、少し気分転換をしようと思って出かけたら、まだ5時前なのにもうほとんど暗くなっていた。西の空に残っている雲がまだ明るく、空にも青みが残っていて、18世紀くらいのヨーロッパの風景画に出てくる古城や廃墟の上に浮かんでいるの雲のようだった。この季節には同じことをいつも感じる。
地元の書店でこれを買おう、と思ったものを丸の内の丸善に行って買う。業田良家『男の操・上』(小学館、2007)。もう奥付が2007年発行だ。3階のレジカウンターが長蛇の列で驚いたが、日曜の午後というのはそういうものかもしれない。
男の操 上 (1)小学館このアイテムの詳細を見る |
英検1級の問題を少し調べてみようと思って記憶では2階だった、と思ったのに実際は3階で、しまったまたあの長蛇の列に並ぶのか、とちょっとくらくらする。仕方がない。いろいろ旺文社等の参考書を見る。なんだかわけのわからん単語が並んでいて、確かに英検1級というのはレベルが高いんだなと自覚。いろいろ見た結果、尾崎哲夫『尾崎式英検1級』(三修社、2005)を購入。以前この著者の英語学習本を読んで面白いなと思ったことがあったので、ちょっと毛色は変わっているが買ってみた。読んでみると、最初が文法関係のことのせいか、易しい感じがする。きちんと覚えていない構文もあることは確かで、そういうのは押さえないといけないなとは思ったが。
尾崎式英検1級三修社このアイテムの詳細を見る |
夕食には早いしどうしようと思って丸善を出て、八重洲口までそぞろ歩き。最近あまりウィンドーショッピングをしていないと思い、大丸の紳士洋品の中をぶらぶら。イージーオーダーのようなものが結構あるなと思う。若い頃はいわゆるDCブランドのようなものしか見ていなかったが、最近は仕立ての味があるものの方が目に付く。年齢の変化もあるが、時代の変化もあるのだろう。そういう職人的な部分が評される方が、世の中としてはいい世の中だとは思う。
6階の三省堂書店をぶらぶら。ここは昔はもっと込んでいたが、昨日はかなり空いていた。競合の書店が増えたからだろう。立ち読みで司馬遼太郎の『十六の話』だったか、中公文庫の本を読んだが、結構面白いと思った。落ち着いて立ち読みできるくらいの混み具合の書店がやはりいいなと思う。大丸では結局何も買わなかったが、大丸のおかげで少し気が晴れた。
八重洲地下街をぶらぶらして、地上に上がって日本橋の丸善を物色し、コレドまで歩いて夕食の買い物。結局外食はやめた。パックの鮨に、サラダとデザート、それにシードルを買って帰る。シードルというのはアルコール度の低い酒だが、結構好きだ。まあほとんどジュース代わりだが。
帰ってきて『男の操』を読む。これは『ビックコミック』に連載されていたので途中からは読んでいるのだが、2003年から連載されていたらしく、そのあたりは初めて読む。こういう作品にはよくあることだが、最初の頃は少し後半のまとまりかけた頃のものと登場人物の絵柄やキャラクターが微妙に違う。途中からどんどんこなれていく。業田という作家が特にそういう作品を書いているうちに内容がどんどん深まっていくというタイプの漫画家なので、きっとそうなるだろうと期待していたのだが、案の定だった。
登場人物は、主人公の売れない演歌歌手、その娘、ビデオ映像で登場する亡くなった妻、芸能プロダクションの年齢不詳の女社長、歌手のアパートの隣に住む隠れファンの女性、といったところが主なものなのだが、最初は歌手の娘の健気なPR活動に焦点が当たり、娘が引っ張る感じがするのだが、だんだん女社長や隠れファンの存在が大きくなり、亡くなった妻と三者三様の主人公をめぐる思いの交錯になっていって、そのあたりが読みどころになっていく。じつに「日本的」な、「大人の物語」である。ことあるごとに「演歌の心」の話が出てきていて、連載中は何というか添え物的な感じで読んでいたが、作者はどうもそれをずいぶん考えていたんだろうなと単行本で読んでみて思う。
業田の作品は今までもいくつも読んでいる。代表作とされるのは『自虐の詩』で、これはとても深みのある作品で私も好きだ。そのほか、売れない現代詩人を主人公にした『詩人ケン』、売れない家人を主人公にした『歌男』という作品がある。
自虐の詩 (上)竹書房このアイテムの詳細を見る |
詩人ケン幻冬舎このアイテムの詳細を見る |
歌男集英社このアイテムの詳細を見る |
『男の操』は基本的にこれらの作品の延長線上にあるんだろうなと連載中から思っていたが、『男の操』はそういう観念的な部分がさらに目立たなくなってきていて、なんというのか日常との虚実皮膜の部分の可笑しさのようなものがずいぶん強くなり、つまりは円熟味を増している、ということなのだろうと思う。下巻は12月末の発売。その内容はすでにもう連載中に一度読んでいるのだが、それでも発売が待ち遠しい。一つ一つの作に「こめられたもの」が、単行本になることで初めて浮かび上がってくる、というようなものがこの作品にはあると思う。この人には何というか、非常に深みのある作家性があり、その味わいがとても重層的なのだ。この人は真の意味での独自の境地を持った作家なんだよなあと改めて思った。
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