鎮魂で始まり祈りで終わる
Posted at 06/12/01 PermaLink» Trackback(2)» Tweet
フィッツジェラルド・村上春樹訳『グレート・ギャツビー』読了。すばらしい作品だった。村上春樹が「最も影響を受けた作品」と断言するのも十分な理由がある。描写力もすごいが、後半部分の息をもつかせぬ展開もすばらしいし、人間洞察の深さもおそらくはフィッツジェラルド本人も意識していないくらい深いところまで及んでいるように思う。ある意味これは存在が不可能な作品だ。それが幻のようにこの世に現れている。そんな気がしてならない。
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『グレート・ギャツビー』は鎮魂で始まり、祈りで終わる。その鎮魂の意味が、最初はわからなかった。しかしその思いがけない深さも、ギャツビーの野望、いや野望というより悲願ともいうべき悲しい「野望」なのだが、が成就しかけて綻び、破綻し、あらゆる人間の不運を背負う結末に至る、そしてその展開の壮大さも、私の想像の域をはるかに越えていた。
「ぼく」がギャツビーに抱く友情もまた、ほとんど信じ難いほどの純粋さで、その美しさが心を震わせる。それは当たり前の友情ではない、おそらくは、「ぼく」はギャツビーの人生を肯定する部分がほとんどないだろうからだ。しかし、そのたましいのありようにだけは、そのたましいの最も深いところで揺さぶられているのだ。
私はギャツビーの人間像よりも、もちろんその描き方もすばらしいのだが、その「ぼく」の存在、友情、鎮魂、祈りというものに、深く感動せざるを得ない。これだけ深みのある作品を読んだことは初めてかもしれないと思う。読んでいて最後の方ではマーラーの9番の4楽章を思い出していた。
もちろんその成功は、村上の訳が寄与しているところが非常に大きいと思う。この小説は、単なる風俗小説として訳すこともでき、その場合はこういう深みは単なる色付け的に片付けられる可能性が多分にあるからだ。映画などを見ていても、一番肝心なところが批評などではひどくあっさりと片付けられていることがよくあり、何を見ているんだろうなあと思うことがよくあった。村上は少なくとも、私と同じ物を見ている、もちろん村上の方がもっとそれを強く見て、それを「翻訳することへの畏れ」を非常に強く感じてきたことは、あとがきに印象的に述べられている。最初とラストを翻訳する自信がないために今までずっとそれをしないで来た、翻訳し終えても、それが出来たとは言えない、自分はただ「全力を尽くした」としかいえない、と。この村上のおそるべき謙虚な言も、決して誇張ではない、そこに村上自身の祈りがあり、おそらくは作者フィッツジェラルドへの ――この作品は彼の存命中に正当な評価を受けたとはいえないし、彼の晩年はそのためもあって大変不遇だった―― 鎮魂があるからだと思う。
最初とラストはできれば原文で読んでみたいと思う。そして村上がどのように苦労して、この部分を「翻訳」したかを追体験してみたいと思う。それだけのことを思わせるものがこの作品にはあるし、この翻訳にはある。
この作品を村上の最高傑作だ、といってしまえばさすがに意地の悪い表現になるだろう。しかし思わずそういってしまいたくなるだけの出来が、この作品にはある。それを村上は必ずしも悪意であるとは受け取らないのではないかという気もする。もちろん根本的に翻訳と小説は別物であり、フィッツジェラルドと村上は別の作家である。ただこの二人の最高のコラボレートがここに実現したのを見るとき、最高のサックスプレイヤーと最高のピアニストのセッションがその二人の最高傑作だというのと同じような意味で、そのようにいいたくなるのである。
フィッツジェラルドが28歳で到達したところに、やはり村上はいくつになっても行き着きはしないだろうし、それは村上とフィッツジェラルドの道が同じではないからで、ある意味あたりまえのことなのだろう。ただこの高みを私が垣間見ることが出来たのは何をどういっても村上のおかげであって、それを考えるといくら感謝しても足りない、いくら賞賛しても足りない感じがするのである。
余韻はいつまでもおさまりそうにない。
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『グレート・ギャツビー』フィッツジェラルド/村上春樹訳 ~ギャッツビーは如何にグレートであるか~
from モグラのあくび at 07/01/12
{{{ 「『グレート・ギャツビイ』を三回読む男なら俺と友だちになれそうだな」と彼は自分に言いきかせるように言った。そして我々は友だちになった。十月のことだった」(村上春樹『ノルウェイの森』) }}} 『グレート・ギャツビー』の翻訳本は、すでに5人の訳者 ...
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人気作家が翻訳する名作 スコット・フィッツジェラルド著 村上春樹訳 「グレート・ギャツビー」
from 本読め 東雲(しののめ) 読書の日々 at 07/02/28
子供の頃は、ほとんど本を読まなかったもので、名作と呼ばれる作品をあまり読んでいません。 恥ずかしながら・・・。 もちろん、このフィッツジェラルドの作品も今回、初めて読みました。 でも、それでよかった
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