加齢臭の魅力?/『考えないヒント』/21世紀の表現の新しいステージ
Posted at 06/12/27 PermaLink» Tweet
昨日帰郷。『自由論』のようなハードな古典を読むと、その反動か現代の新書のようなものが読みたくなり、昨日のうちに小山薫堂『考えないヒント』(幻冬舎新書、2006)と山川健一『「書ける人」になるブログ文章教室』(ソフトバンク新書、2006)の二冊を読了した。ついでに特急の車内では『ビックコミック』の最新号も読了したのですごいスピードで読みまくったことになる。というか『自由論』で頭を使うペースでこういう本を読むと、必然的にものすごく早くなってしまうのだ。やはりときどきは古典で頭を鍛えた方が人間の能力を伸ばすことになるなと思う。
昼ご飯は東京駅で買ったしめ鯖の皮を焼いたのを押し寿司にしたような弁当を食べたがけっこう美味しかった。実家に帰ると近所の人が焼いてくれたアップルパイがあり、これもまた美味しくいただく。
『ビックコミック』では最近、小林よしのりの「遅咲きじじい」が面白い。「美人で巨乳で知的」な「ミキータ」(三木谷優)が出てくる話はどうも面白い。小林もノリノリで書いている感じがする。ミキータというとフルシチョフを思い出してしまうが。あれはニキータか。小林も「ゴーマニズム宣言」が始まってからは物語的なものがあまり描けなくなっていた感じがするが、この作品は「老人」とか「老い」というものをテーマにギャグマンガを描いているところが斬新だし、変な意味で魅力的な老人(ミキータは主人公の加齢臭にひきつけられている)を出してくる話のデフォルマシオンが小林の骨頂だなと思う。東大一直線なども実はペーソス的な要素が大きかったのだけど、この話ではその部分がかなりフィーチャーされていて、なかなか面白い。
小山薫堂『考えないヒント』はすごく面白かった。読んでいて思ったのは、この著者の傾向というのは非常に私に似ているということだった。いつも「何か面白いこと」を探し、それを見つけて形にしていく。レストランなどに行ってメニューを見ても「こんな風に書けばもっといい」とか「こういうメニューはぼくなら入れない」とか頭の中で「勝手にテコ入れ」しているというくだりには笑った。「勝手にテコ入れ」というのは面白い言葉だが、実は私もいつでもそんなことばかり考えている。それを「勝手にテコ入れ」と名づけるところがセンスなんだなと思う。
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サービスに感動するくだりで、書き物をするときに旅館の部屋に机を入れてくれるように頼んだら、畳が痛まないように絨毯が敷かれていて、電気スタンドと広辞苑が机上にあったのだという。このエピソードには私も感動してしまった。「それがサービスだよな」と独り言を言ってページをめくったら「うわ、これだな。サービスってこういうことだよな。」と思った、と書いてあってうひゃあと思ったが。
また著者は笠智衆に書いてもらった字を名刺に使っているのだという。これも微妙に優れたアイデアだなと感心した。笠智衆は今となっては知る人ぞ知る名優だが、書家に書いてもらうのでなくそういう人に書いてもらうというのがアイディアだ。確かに上手い字だが癖もある。書家に書いてもらった字なら上手いですね、で話は終わりだが、笠智衆に書いてもらった、となるとそこから話が展開していく可能性がある。面白いことを考えるものだと思う。
ものごとを勝手によい方向に考えるという考え方も、私もやることが多いので非常に共感した。悪いことがあっても、これはもっと悪いことが起こらないように神様がしてくれたのだ、とか。全部良い方に考えればなんだか自分は世界で一番幸せなんじゃないかと思えてくるわけだ。私もそういう考えをする方なのだが、結構周りから顰蹙を買うこともあるし他にそういう人がいないのでそういうことをやめていたのだが、この本を読んで大いに力を得た。自分と似たような人がその個性そのままで上手く成功しているというのはとても励みになる。今までけっこう自分の個性をいかに曲げるかということばかり考えてきて苦闘していた面があるから、この本にはほんとうに救われた思いがする。
アイデアに困ったときに水の中にもぐり、神さまになった気持ちで「今おまえには二つの選択肢がある。このまま苦しんで死ぬか、あるいはいいアイデアを思いつくか。さあどっちがいい」「うー、いいアイデアを思いつく方です。だから、お助けください」と会話する、というくだりにはあまりのゆるさ爆発に笑ってしまった。下手をすると私もこういうことをやりかねないのだが、さすがに今まで字にしたことはなかった。この人は偉いなあと思う。
そのほか非常に、頭ではなく感覚的に「わかるわかるわかる!」ということが実に多い。「考えないヒント」というより、私にとっては「自分らしく生きるヒント」が満ち満ちた本だった。読了。
『「書ける人」になるブログ文章教室』も面白かった。なんというか梅田望夫の文学版というか、ウェブの可能性や21世紀的な文学の可能性というものについて多岐にわたって書いてあり、とても参考になる。
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「19世紀は神の世紀だった。20世紀は自意識の時代だった。そして21世紀の今、表現のステージは全く新しいところに踏み出そうとしているのではないだろうか。」と著者は言う。「いわゆる純文学は、あるいは芸術というものはとことん問い詰めていくせいで、ネガティブな結論になりがちだ。・・・それは20世紀という過去の表現ではないだろうか。ぼくらはすでに新しい時代を生き始めている今、神や自意識に変わる何か新しいものが、僕らの表現のコアには必要なのだ。」というのだ。
そして「それをぼくなりに考えてみると、『温かな無意識』というものではないかと思うのだ」と著者は言う。そしてそれがブログに代表されるネットにおける表現が実現しうるものであり、日本的な日記、随筆などの文学の延長線上に「近代文学」を飛び越えて接続するものなのではないかと著者は言うわけである。
このあたりの考察をどうとらえるかはいろいろ評価がありえようが、そういうコンセプトのだしかたはありだなと思う。著者は作家であり、そして編集者としていろいろなブログを本として出版するアメーバブックスの編集長もしているのだというが、こういうコンセプトの出し方は大変興味深いと思う。
今日書いた二つの本に付いて書くことは、おそらく自分自身の考えを進めることとかなりの部分で重なってくるので、今簡単に受け取ったものすべてを書きる、ということは出来ないなと思う。出来ないし、今の時点で終わりにすることは、とてももったいないと思う。
考えてみると、今までこういう楽観的なものは避けてきた傾向があった。しかし、割と抵抗なくこういうものを読めるのは『ウェブ進化論』などの楽観性の影響もあるが、短期的にはミルの『自由論』の影響だなと思う。楽観的に考えても、十分哲学的、思考的足りえ、得られた結論に満足することが許されることがありうるのだ、という希望を『自由論』は与えてくれたような気がする。
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