『竹槍と原爆』:グーグルの30万台のサーバー/銀座の食器屋と洋服屋
Posted at 06/10/16 PermaLink» Trackback(1)» Tweet
昨日。一日中ウェブ作業をしていた感じ。以前やっていたときも思ったが、これは本当に時間がかかる。よくわからないことの試行錯誤も多い。一度分かってしまったらノープロブレムなのに、その解答にたどりつくのが一苦労で、分かってみたら灯台下暗しだったりする。以前良く使っていたシステムでも大幅なシステム変更があったりして、なかなか手ごわい。
昼ごろ友人から電話がかかってきてしばらく話す。携帯アフィリエイトの話などをしていたのだが、最近ウェブ作業も結構やっているので以前に比べて全然ちんぷんかんぷんということはなくなった。ネットの世界の変化は本当に激しい。
梅田望夫『ウェブ進化論』読了。最近日本政府が日本製の検索エンジンの開発に力を入れていること、そしてこれはどうやらフランスの動きに刺激されたこと、であるらしい。そんなことに何の意味があるのかと思っていたが、この本を読むとおぼろげながらどういう趣旨のことであるかが分かるような気がする。
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昨日も書いたように、この本は「Web2.0時代の到来」を鼓吹する進軍ラッパ的な印象が強く、そこに少々反発を感じたのだが、どうもそのあたりの表現はそういう反発からこの本を読まそうというひとつの戦略であったのかもしれないという気がしてきた。基本的に、著者がウェブの進化というものに楽観的であることはもちろんそのとおりなのだが、いろいろな意味でそうシンプルな主張をぶつけるという類のものではない。現状はこうであるということをまず認識させ、それに対してどう考えるべきかということはひとつの見解として述べられている。「現状認識」と「対処戦略」がこの本の骨子である。
現状認識に関して、私が一番具体的なショックを受けたのは、グーグルが30万台のサーバーを駆使して世界中のウェブの解析を続けているということ。この圧倒的な物量は、もちろん書中にも述べられている「チープ革命」があって初めて成し遂げられたという側面はあるにしても、敗戦後にアメリカのあまりの豊かさにショックを受けた終戦直後の日本人の気持ちが分かる、という気分にさせられた。そしてその圧倒的な物理的なインフラストラクチャーの上に、ベストアンドブライテストの5000人が開かれた共同作業を行い、「世界政府があるとしたらそれに必要な情報インフラ」をミッションとして構築していくという企業理念である。いわば荒唐無稽な企業理念だが、それを支えるだけの破格の物理的なインフラをきちんと保持しているところがグーグルの凄さであるし、それを生み出したアメリカ、あるいはシリコンバレーの凄さである。それが凄いことなのだ、ということは十分に認識しておかなくてはならない。「竹槍と原爆」というたとえがすぐ思い浮かんでしまうが、相手はいかなる分野においても物量では圧倒的に世界一の国であるということは、忘れがちではあるが忘れてはならないだろう。
もうひとつ重要なことだと思ったのは、そうした企業理念をすべて人の差配や按配で行わず、すべてテクノロジー自身の手によって実現するべきだと主張し、そしてそれを実行しているということである。ヤフーはメディアであるがグーグルはテクノロジーだ、という言葉が最も分かりやすく、グーグルはつまり完全な「理系的パラダイス」なのだ、ということである。われわれ文弱の徒の割り込む場所などゼロである。私などは特に文章を書くためのツール以上にネットやPCを考えていないから、そういう事実はつい忘れがちになる。テクノロジーが土台を用意してくれたら、そのコンテンツを充実させるのは自分たち文系の仕事だ、とどうしても思ってしまうわけで、テクノロジーよりコンテンツに価値がある、と考えがちなのである。しかしグーグルのやり方は完全にコンテンツをテクノロジーに従属させるやりかたなわけで、ある種のコペルニクス的転回でさえある。コペルニクス以前は惑星の運動は形而上学の範疇の問題であったのが、彼以後はサイエンスの問題になってしまった、というような。まあ実はコペルニクスはネオプラトニズム的な観点から地動説を主張した面が強いらしく、ティコ・ブラーエの研究成果やガリレオの主張が表れるまで厳密には科学的ではないと学んだ覚えがあるが。
ロングテール理論についても考えさせられた。私などは「今現在死蔵されている」ロングテール部分の掘り起こしに意味がある、と思っていたけれど、著者は「これから作られるロングテール」の部分に積極的な意味を見出す。それもかなり「目から鱗」的な主張で、いわれてみれば知の活性化という点ではそちらの方がより大きな意味がある。この本はさまざまな毀誉褒貶に晒されているが、批判者たちの見ていない部分で重要な部分はこういうところにあるのかもしれないと思う。
もうひとつ、日本でアドセンスやアフィリエイトで暮らしを立てることはなかなか現状では難しいけれども、同じ金額で英語圏の貧しい国ではかなりの収入になるということも「目から鱗が落ちる」思いだった。これは経済格差による途上国におけるメリットだが、ネットにアクセスできる途上国の貧しい才能にとっては画期的なことだろう。もちろん日本でも、サイト運営ができるほどの英語能力があれば日本語限定よりもより大きな収入につながるわけであり、英語という言語の持つメリットをより強く認識することになる。
オープンソース現象について。ネット上ではうまく行く(コストゼロだから)オープンソースも、リアルではコストがかさんでうまく行かない、というのはなるほどと思うけれども、途上国におけるコレラ撲滅の低コストプログラムがネット上であっという間に出来上がったという話は凄いことだと思った。コストがかからない研究空間としてのウェブというものの存在意義は大きいということだろう。
アマズレットほか、知らなかった新しいウェブ上の試みもいろいろ試してみて面白かった。
いろいろな形でウェブについて語られていて、私などにとっては驚くようなことが多かった。著者の楽観主義の危険性という問題については、すべてのテクノロジーや社会的な「進化」に常に付きまとう問題であるから、ある種の人間の業と考えるより仕方のない面もあるが、われわれのような年代になるとどうしても批判に傾きがちであるだけに、楽観主義の言葉にも耳を傾ける度量を常に持たないと、現状を見誤るということなのだと思う。
ファイアマンの言葉、「量子力学の世界は諸君が日常で接するどのようなものにも全く似ていない」ということばを、ウェブの世界にも当てはめて考えなければいけないと著者は言う。つまり、今までの既成概念や日常性の何かのアナロジーで理解しようとすると失敗する、ウェブの現状をウェブの現状としてそのままで理解しなければならないという主張はそれはその通りだと思う。テクノロジーというものは過去と全く断絶的な進化をもたらすものだ。30年前に現代の携帯文化について想像がついていた人間は全くゼロであるに決まっている。そこがテクノロジーの持つ恐さでもあるのだろうと思う。
***
しかし結構読むのに疲れる本で、気分転換に昨日の午後銀座に出かけた。教文館で本を見て小川洋子『深き心の底より』(PHP文庫、2006)を買う。これはエッセイ集だが、なんだかそういうものを読みたくなった。
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4階に上がってカフェでスパニッシュケーキとブレンド。二冊の本を少しずつ読む。藤城清治の光と影展をやっていた。知らなかったが、今日16日までだ。あまり何も考えずに見たのだけど。
銀座通りを見下ろす窓辺で向かい側のビルの4階に食器屋があるのが分かり、行ってみる。輸入用食器で、いいものであることは分かるが、とても手は出ない。そのあとしばらく銀座をぶらついて、洋服屋で一枚390円、3枚で980円という処分市みたいのをやっていた。イタリア製のセーターが中にあり、LLだからちょっと避けたがほかにもいいものがあると思って無理やり3枚買う。うちに帰って確かめてみると、どうもあまりよくなかったり。イタリア製というのはあれだけだったようだ。なんだか引っかかったような気もするが、久々に衣料品の買い物してしかも安かったからまあ嬉しかった。金が敵の世の中だ。
『読書三昧』にメリメ『カルメン』と和田哲哉『文房具を楽しく使う・筆記具編』を追加しました。
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