村上隆『芸術起業論』
Posted at 06/09/27 PermaLink» Trackback(3)» Tweet
関東の方はだいぶ風雨がきつくなっているようだ。私が昨日の11時前に家を出たときもちょっと嵐っぽくなっていたのでバスに乗って出かけた。なかなかバスが来なくて困ったのだけど。こういう時はバスは遅れれば遅れるほど込んでいると言う鉄則があるので嫌だなあと思っていたら、案外込んでいなかったのだけど。日曹橋の交差点で曲がってから順調に進んで、駅前のバスレーンを見たら一台だけハザードランプをつけて止まっている車がいて、おかげでバスは何度も信号に引っかかり、到着が遅れた。ああいうのはバスに乗っているとおおーい、と思うのだが、とめる方はあんまり考えていないんだろうなあと思う。
ずっと村上隆『芸術起業論』(幻冬舎、2006)を読んでいて、新宿で特急に乗ってからも読みつづけ、車中で読了したのだが、読了してからもう一度読み直している。それだけこの本の言っていることはものすごく自分にとってはインパクトがある。誰にでも、とは思わないが、「私自身」にとってこれだけインパクトのある本と言うのは本当に滅多にない。アートだけでなく、日本のアカデミズムとか学校産業の問題についてこれだけ共感できる指摘と議論を展開している本はなかなかない。
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FMで『私の名盤コレクション』が始まった。きょうはゲストが川平慈英。おー、アース・ウィンド・アンド・ファイヤーだ。超懐かしい。昔はよく聞いたなあ。
村上の絵や作品も、最初はものすごく違和感があったのだが、ずっと本を読んで作者の意図のようなものを理解してくると、非常に面白いものに見えてくるからふしぎだ。
「村上の絵は単なるマンガのマイナー・コピーのように見えるが、そこには単なる戦略だけではない、死への眼差しにも似た、アートの根源としか言いようのないものが含まれている。等身大フィギュアの圧迫感や、「ロンサムカウボーイ」「ヒロポン」と言った作品も、オタクの純粋な欲望の対象である「べき」フィギュアが、それ自身が欲望する主体になると言う逆転が表現されていて、ただ熱愛の対象を求めているオタクからは憎悪の対象にならざるを得ない。そこの屈折に闘いがあり、そこが面白いと思う。
村上の絵も一見してなんだかよくわからないが、だんだん見ているうちに西欧美術の一つの主流たるダリやキリコの作品を背景として使っているのではないかと見えてくる。極日本的ないかがわしくさえある「かわいい」キャラクターが西欧美術のコンセプトの中に図々しく、あるいはまがまがしく現れていて、これはダリの信奉者などからすればある種の悪夢感があるのではないかと思う。ダリやキリコに登場する超越的なキャラクターがマンガ的な笑顔のヒマワリになっている邪悪さがある。」
読みながらそういうメモを書いていた。一見しただけできちんと美術史的な分析をしているわけではないのだが、描き方はダリ・キリコ的であると同時に歌舞伎の舞台的でもあり、浮世絵的でもある。この人は相当たくらみの深い人だから、まだ幾らでも仕掛けがあって、今書いていることなど後で読んだら恥ずかしいようなものかもしれないのだが、作品に(しかも写真で)触れてから何日もしないのにそれだけいろいろなことが浮かんでくると言うのは凄いなと思う。
なんというか、中途半端に禁欲的な世界観とでもいうか、そういうものがかなり転回させられた感じがする。やりたいことを持ち、やりたいことをやるためのたたかい。やりたいことが欲望なのであり、欲望と言うのは邪悪なものかもしれない。その邪悪なものを正当化していくための論理が、アートなのだと言ってもいい。正当化のためにはソフィスティケートが必要だったり、ぎりぎりまで妥協なしで表現し尽くす根性が必要だったり、それにサブタイトルをつけたり説明をでっち上げたりするプロデュース能力が必要だったりする。その中でも心底邪悪なものを本当に心底邪悪なまま政治的に表現したりするとヒトラーになってしまうし、行動に移したら犯罪者になってしまうが、そこまで行かないまでも欲望と言うものは常にそういう通路を持っている。そういう意味ではアーティストいうのはろくでもない連中なのだが、そのろくでもなさとまともに向き合うと言うことはおそらく普通の人間には仕切れないことであって、それを変わりに引き受ける破目になるという業の深さをアーチストというものは持っている。だからこそ、と言うと非常に逆説的だが、だからこそアートが人を感動させるのである。感動が深い分だけ、ほんとうは業が深いのだ。作る側も、見る側も。
まあそういうアートの基本とも言うべきことがこの本には徹底的に述べられていて、しかもそれを商売にして何億円も売り上げていくという離れ業の実践が語られているというのは。
この本は何度も読み返すことになるだろう。いや、何度も読み返さなければならない。自分のやるべきことの羅針盤に、この本はなると思う。
朝からストーブをたいていたのだが、だいぶ温かくなってきたのでストーブを消して、窓を開けて空気を入れ替えた。鳥の声がする。コスモスが咲いている。
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