幸福な状態を描くことの難しさ/『その時歴史が動いた』
Posted at 06/08/31 PermaLink» Tweet
朝方寒くて目が覚めた。郷里にいるときは夏掛けで寝ていても寒くなってもいいように掛け布団を横に置いて寝るのだが、今朝も途中で布団を掛けた。今朝はどうもそれでも寒く感じ、いよいよ本格的な秋になってきたようだ。窓を開けると虫の声がする。今朝は仕事があって6時に起きたので、いっそうそれを感じたのかもしれない。今は7時20分過ぎだが、外はだいぶ明るくなり、日も差してきて、日中はまだまだ暑くなる雰囲気が漂っている。コスモスはすでに満開に近い。
『ローマ人の物語』25巻読了。ハドリアヌス時代の途中。ハドリアヌスが治世のかなりの部分を費やして全国を巡行し、防衛体制を再構築しているということは初めて知った。またローマ法の集成も彼の時代に行われているということも。塩野によればハドリアヌスはローマ帝国の再構築=「リストラクション」を成し遂げた皇帝ということになるが、なるほどと思う。ディオクレティアヌスのような末期症状の中での再構築でなく、全盛期に再構築を行ったというのがなるほどと思われる。王安石の新法のようなドラスチックなリストラクションではなく、問題点を洗い出し本来の機能が回復するような手当てをするというやり方だからリストラクションというよりはメンテナンスと言った方がいいのかもしれない。
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しかしハドリアヌスはトライアヌスに比べれば面白いと言えば面白いが、やはりハールーン・アッラシードというか、全盛期の君主であって彼自身の物語性には乏しい。五賢帝時代を「人類史上最も幸福な時代」といったのはギボンだったか、「幸福な人々はみな似ているが、不幸な人はそれぞれ違う」とトルストイも言うように、アンナ・カレーニナが幸福であったら物語にはなりにくいということだろう。私は読みながら『源氏物語』の光源氏の絶頂期のあたりを思い出していたのだが、その時期が話として面白くなっているところが源氏の物語としての凄さなのだろうと思ったことがある。塩野の叙述法では勝手なフィクションを挟むわけには行かないが、皇帝の個性だけでなく同時代の文芸等にももっと触れることによって「全盛期のローマ」を描き出すことは可能だったのではないかという感想も持った。
クッツェー『少年時代』を少し読む。相変わらずこの著者の形容し難い斜に構えた記述は変にこちらに訴えかけるものがある。この人はある意味天才なんだろうな、多分。あと未読のものは『海辺のカフカ』だが、読み出すとそっちに関心が奪われそうなので仕事が一段落するまで封印した方がいい気がしている。秋からの仕事の準備はそれなりにすらすら進み、その日の仕事もそれなりに忙しく進む。
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夜は『その時歴史が動いた』で「寛大な講和」を目指す吉田茂の戦略、というようなことをやっていたが、冷戦が激化する前に講和条約が結ばれ日本が主権を回復していたらどのようになったかと思った。当時は賠償をなるべく少なくするというのが吉田の課題だったというけれども、賠償を支払うことで心理的な負い目のようなものを払拭しておいた方が後々変にこじれなかったのではないかという気がする。冷戦を利用して安全保障上の日本の地理的条件をアメリカに高く売るという戦略もあまり共感できるものではない。
もちろんそういうことは後知恵に過ぎず、吉田の戦略によって戦後日本が成立してしまった以上取り返せない部分が大きいし、もし賠償の足枷が重く、共産圏に対抗する再軍備の必要を自力でやらなければならなかったら経済がどのような状態になったかは想像できないが、その「よき敗者」であるとか「戦争で負けて外交で勝つ」といった考え方にやはり浅薄な部分があったのではないかという思いは拭いきれない。
番組全体としては中ソ同盟が日本を仮想敵国にしたこと、米ソ対立が講和の成立を長引かせたこと、池田ミッションが米軍の日本駐留を申し出るものだったことなど、戦後の日米関係の構図の起源を上手く説明していたと思う。吉田の評価が高すぎるのがどうかと思ったが、最初に「む。」と思ったけれど最後まで見て収穫があった番組ではあった。
空は秋の雲だ。
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