「耽美派の急進派」としての三島由紀夫/「無神論」という問題
Posted at 06/08/24 PermaLink» Tweet
昨日。午前中は松本まで出かける。だいぶ夏の疲れが出ているようだ。もう楽になるとは言われたが。帰りに塩尻の農協直販店と知り合いの家に寄って帰る。あの直販店は何もかもべらぼうに安くて驚く。
午後は秋からの仕事の準備、また別の仕事。それなりに忙しい。
三島由紀夫『金閣寺』(新潮文庫、1960)を読み始める。金閣寺炎上という実在の事件を扱っているということで、今まであまり興味を持っていなかったのだが、『福田和也の「文章教室」』(講談社、2006)で取り上げられていて読んでみる気になった。まだ1割も読んでいないが、豊富なエピソードが溢れていて、三島というのは才能のある作家だと改めて舌を巻く。海軍兵学校に入った凛々しい先輩の美しい軍刀の鞘を傷つけるエピソード。海軍の脱走兵を匿った有為子という女性が銃撃戦の末に二人とも滅びてしまうエピソード。
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三島は耽美的な作家だと思ってはいたが、それだけではないのはどこなのだろうと思ったのだけど、今確認のために福田の『文章教室』をちらっと読むと、「滅亡するからこそ美は成り立つ」というのが彼の美学だ、ということを書いてあって、積極的に美に関わろうとすることは美を滅ぼすこと、あるいは美を陵辱することに他ならないということを言いたいのだと理解した。しかし、考えてみたら自ら手を下さなくてもいずれ美しいものは滅びるわけで、そこにも確かに美は現前するはずなのだが、三島は自ら手を下して美を陵辱することを選択する。それは、天国はハルマゲドンの後に実現するという『黙示録』を逆読みし、ハルマゲドンを起こすことで天国の実現を早めようというアメリカのエヴァンジェリストやオウム真理教と似た発想が感じられ、そこに「テロリズム」=「至高の存在のための破壊」という等式が成り立つことになる。三島は最終的にそれに殉じて死んだわけだが、耽美派の穏健派とか急進派とか言うのがあるとしたら、三島は耽美派の急進派、あるいは過激派の走りなのかもしれないと思った。少なくとも日本右翼に三島は美的なヴィジュアルを持ち込んだといえ、「滅亡するからこそ美は成り立つ」というある種の観念論が保守派全体を支配することになるとそれはそれで危険だなあとは思う。
まあしかしそういう政治的なことを離れて三島の文章やそれが生み出す世界が美しいことは間違いない。それも太宰のようにいつ崩れてしまうかわからない、不確かなおぼろげなものではなく、確信に満ちた美であり、確かにその「美という意思」がその存在を全うするためには「完全なる崩壊劇」が必要だという主張は非常に納得できるものがある。その崩壊劇を全うしきることができるほど、人間は強くないのではないかという予感はあるが。意思と意思との戦いという点で、三島の小説の構造は非常に西欧的であると思う。
なんとなく、朝セブンイレブンまで歩いて『SUPER JUMP』を買いがてら散歩しているときに、「無神論」あるいは「日本的無神論」についてつらつら考えた。考えてみたら私はこの重大な問題を今までろくに考えたことがないのは確かだ。肌合いが合わないから避けてきたといえばそれまでだが、現実問題として相当蔓延しているこの問題について考えておかなければ、宗教の絡む問題はもちろん個人、社会、国家、それぞれの問題についても現代的な妥当性が不十分になる。これはおそらく取り組むべき相当大きな問題だ。
朝方は曇っていたのだがだんだん晴れてきた。朝夕は秋を感じさせるのだが、昼は今日も気温が上がりそうだ。
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