靖国神社、若者の保守化、左翼の低潮化、とか。
Posted at 06/08/20 PermaLink» Trackback(1)» Tweet
昨日は調子を崩し、これということもしないまま一日が過ぎていった。暑い暑い一日。調子がいいときはこういう日も割りと簡単に乗り切れるのだが、調子の悪いときには辛い。そういう意味では、この調子の悪さも夏バテの一種なのかもしれない。短い夏だが、まだしばらくこういう気候は続くだろう。
靖国「問題」から加藤氏宅放火問題。今日の日曜朝の番組をちらちら見ていても、なんだかあまり本質的な議論に踏み込まず、単なる政争のネタに陥れられていて、全然見る気がしなかった。小泉首相・安倍官房長官は「夏休み」ということでほとんど表に出てこず、小沢・加藤・谷垣といった脇役の人たちがちょこちょこ言いたいことを言っているという感じだが、どれもこれも迫力なし。麻生外相も、この際一気にモスクワに飛んでプーチンに漁船乗組員帰還を申し入れるくらいのことをしたら気合が入るだろうに。山中さんも国後まで行ったのに漁船員に事情聴取をしなかった(したけど伏せているのかもしれないが)のはどんなものなんだろう。
ジョンベネ殺害、容疑者の妄想説まで出てきていてわけがわからない。相変わらずアメリカというのは変な国だ。テレビ局が狂想曲を演じているのは日本とあまり変わらないが、なんとなくその性質も日本とは違っていて、セーラムの魔女の話をなんとなく連想した。集団ヒステリーというのも国民性が現れるんだなという感じ。
大相撲台湾巡業の盛り上がりが凄い。どこでも女性ファンに囲まれたり、奥さんと店から出て来たところを激写されて不倫疑惑になったり、大騒ぎ。良くも悪くも日本が好きなんだなあと言う感じ。
***
いろいろな人々のコメントに刺激されて靖国「問題」についていろいろ書いてきたが、うさたろうさんに話に付き合っていただいて、結構普段問題として取り上げられにくい、つまりタコツボ的にそれぞれのサークルで語られている問題について見解が出し合えたのは収穫だったと思う。ただ、こういう問題が普段語られにくいのは、それぞれのサークルの中では自明のことであるからで、違うサークルに対して改めてサークル外にも通じる一般的な言葉で語ることは結構難しく、瑣末な事実についてぶつけ合い、挙句の果てには非難中傷合戦になるということを避けて真摯に語り合うという機会はあまりにない。私は右系の集会にも左系の集会にも出たことはあるが、こりゃお互いに立場の違う人には受け入れられないなと感じる言説ばかりが飛び交う。
よくそれを自慰的というけれども、結局異種格闘技戦というのはルール自体の設定が大変だから成り立ちにくい。日本国憲法をどう位置づけるか、というのはそれを戦後社会で当たり前のように受け入れてきた我々の世代にとって、完全に相対化してその是非を論じるのは相当の荒業である。相対化すること自体も難しいが、枠組内にいる人たちに対してその議論を理解してもらうことは福音派クリスチャンに仏教の悟りについて説明するようなものだ。
それでも靖国「問題」というのはその対立がわかりやすく現出する「問題」であるので、ある意味リーズナブルなのかもしれないという気がした。これは南京事件をめぐる対立などと違い、事実をめぐる争いではない。あまりに捏造と虚偽とが溢れ返って何が真実なのかちっとも分からない「戦場の真実」よりも、もっと思想的な次元での議論の方が、ある意味有意義であるように思った。
いわゆる「若者の保守化」の問題については私自身あまりよくわからない。まあ私の場合は無批判に「頼もしいこと」とみている面もあるが、ネット出現前の左翼言説が圧倒的だった時代とは違い、保守的な言説を自ら選び取れるようになっているという状況変化はあるだろう。もちろん冷戦構造崩壊による「理想としての社会主義」の消滅ということも大きい。「理想社会としてのソ連」という見本がなくなれば、中国も北朝鮮も「国家として目指すべき理想」とは程遠いことが明らかになってきていて、中国の存在も「ソ連とは違う真実の社会主義を目指す理想的な国家」ではなく、「日本を恫喝する危険な一党独裁大国」でしかなくなっている。
つまり、「社会主義国=理想国家」というバラ色のフィルターが跡形もなく消滅した今、左翼=社会主義と彼らが唱導するインタナショナリズム=平和主義とは単なる「お題目」に過ぎなくなっていて、説得力の根拠を失っているということがあるだろう。「平和勢力であるはずの北朝鮮」が実は「中学生を拉致する非道な破綻国家」であったという衝撃は、左翼陣営の人が考えている以上に強烈なインパクトを日本人に与えたのではないか。この事実が動かせない以上、左翼が若者を吸収できないのは当然だと思うし、「若者の保守化」は要するに敵失によって受け皿のない層がなんとなくそっちに流れているに過ぎないのではないかという気もする。
どちらにしても、「日本をよい国にしよう」というアピールにおいて、今のところ保守の側の方が成功していることは事実だし、左翼の側もそれを正直に認めて、その矛盾を突くだけでなく、左翼的な観点からの「日本をよい国にしよう」というアピールをもっと練り上げて訴えていかなければならないのだと思う。ブレア労働党政権が「クール・ブリタニア」を訴えて成功した例もあり、それは不可能なことではないと思う。ヨーロッパにおいてこれだけ社会民主党勢力が力を持っているのに、日本ではこのような惨状を示しているということは、やはり左翼勢力内部の問題であることは絶対に自覚する必要がある。私は左翼勢力に与する気はないが、「健全な野党」としての社会民主主義勢力はあってしかるべきだと思うし、もし日本の保守が堕落している部分があるとしたらそういうものの欠落に由来しているのだと思う。
「小泉が内容のない言説で馬鹿な大衆を操っている」、といくら言ったところで大衆がついてくるはずがないではないか。ブレアがやったように、左翼自身の構造改革、意識改革が必要なのだ。
戦前に対する評価の対立は、まあ予想したことでもあるし、これ以上あまり書いても仕方がないと思うので多くは書かないが、考えるべきは「なぜ政府による言論統制が成功したか」という認識の問題だと思う。有体に言えば、「国民が支持したから」成功したのだ。いわゆる知識人たちの言説が現実と相当遊離していたのが大きな問題だろう。昭和10年前後の「文芸復興」というのは共産党壊滅によるプロレタリア文学の低潮化に伴って文学者が政治に縛られずに自由にものを書けるようになった、という安堵感の表れといってよいと思う。戦時色が濃くなるにつれて非常時であるという理由から言論統制が行われているが、これは別に日本だけのことではない。アメリカ議会で真珠湾攻撃の後、たった一人で宣戦布告の決議に反対したジャネット・ランキンに対して強い圧力がかけられたように、世界中どこでもそういうことはある。もちろんそれも程度問題ではあるが。
私としては、一概に「戦前=悪」と決め付ける硬直した思考ではなく、そこにどこか取るべき所はないか、現代がそんなに素晴らしい時代なのか、ということを読む方に逆説的に考えてもらうきっかけになればそれで十分である。
靖国神社に対する認識の違いももちろん予想通りなのであまり書いても仕方がない。私は観念上の議論というよりも、現実の靖国神社によくおまいりに行くので、そこで感じたことを元に書いている。もちろん靖国神社がある意図を持って作られた近代的な神社であることは間違いない。近代というのは「日本国民」自体を創設した時代なのだから、その必要によって「新たな伝統」として創出された神社であることはその通りである。中国や韓国が靖国神社の存在そのものに(いわゆるA級戦犯の合祀に関わらず)反対なのは、近代日本の存在そのものを否定しようとしているからである。それに付き合ってやる義理はない。明治維新そのものを否定し、徳川政権復活を願うなら話は違うかもしれないが。
まあそういう枠組的な話に行くとまた面倒なのでやめるが、その結果靖国神社が全国から参拝者を集め、慰霊の地になっているという現実が大事なのであって、あののんびりとした、北海道から沖縄までの方言が飛び交うゆったりとした雰囲気はほかに替えがたい物がある。日本には近代国家というものが必要であったのであって、そのために倒れた人々が確かにここに鎮まっているという、その感覚そのものが貴重なのだと思う。多分それは、行事のない時期に一週間連続して参拝し、境内を無目的的にぶらぶらすれば言いたい感じは分かっていただけると思う。いや、別にそうしろという訳ではない。
私が育った環境とうさたろうさんの育った環境というのは、似ている面もあれば似ていない面もあるという感じかな。今回伊賀伊勢に旅行してみて、あの地方は私の郷里の長野県に比べて、確かに保守的であるということは強く感じた。その地で小学校から高校まで育ったということが、私自身の自然な保守的な感覚のバックボーンになっているのではないかと感じたものである。高校3年のときに長野県に転校し、そこでは回りが相当進歩的・社会科学的な考えを持つ人が教師生徒を問わず多くて、ずいぶんモダンな感じがしたものだ。大学で東京に出てきても実際にゆるいけれどもセクト的な活動をしている人たちとも多く友達になったりしたので、左翼的な思想を面白がったりしていた時期も結構長い。
だから私にとっては現在の考え方は自覚的な保守回帰なのだと思うし、うさたろうさんもまた自覚的に現在の考え方を身につけられたのだと思う。相手の手の内がある程度わからないとこういう議論はあまり意味のあるものにならないが、表面的な意見のぶつけ合いに留まらずある程度咀嚼しながら議論できたのはよかったと思う。
なんというか、私としては、やはり日本がもっともっとよい国になってくれればいい。そのための議論であるならば、多少腹が痛くなっても頑張りたいと思う。
それにしても昨日は854ページヴューもあったらしい。4桁目指して頑張るか。
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from 玄倉川の岸辺 at 06/08/20
■ マニアは本質を語りたがる 一般人は演出が気になる 靖国マニアと反靖国マニアは「靖国問題の本質」について時に格調高く時に口角泡を飛ばして声高に主張する。 一般人は高邁な本質論を聞かされても良くわからないし、もっとはっきり言えば興味がない。むしろ ...
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