キプリング短編集/『近代の政治思想』
Posted at 06/07/26 PermaLink» Tweet
昨日帰郷。なんとなく雨っぽかったが、今日はからりと晴れている。晴れていると安心する。近くを流れる川も、先週はひどく濁って激流だったが、今日は深さ30センチくらい、そこまで透き通って見える。ただ、先週の雨で流されたのかコンクリートの波けしブロックのようなH字型の大きなやつがそこここの川床に引っかかっている。激しい流れがあったのだなあと改めて思う。
出かける前に東京駅の丸善で何か気分転換にできそうな本をと思い、『キプリング短編集』(岩波文庫、1995)を買った。少しだけ読んだが、まあ今の視点からすれば人種主義的だといわれかねないような主題や表現が目白押しでさすが帝国主義時代のイギリス作家だと妙に感心した。ストーリー・テラーとして優れているとは思ったが、この作家がなぜ文学史的に高く評価されいるのかはまだよくわからない。
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特急の中では主に福田歓一『近代の政治思想』(岩波新書、1970)を読む。そういえばこれは高校のときの世界史の先生に勧められた本である気がする。26年目にしてようやく読んでいるということになるか。私はその気になるまで時間がかかるということは往々にしてあることなのだが、26年はちょっと長い。
内容的には、啓蒙時代にいたる思想史的な背景を説明する「一 中世政治思想解体の諸相」「二 近代政治思想の現実的前提」の二章については、非常にわかりやすく、よく整理されているし、また構想も雄大で読んでいて気持ちがいい。現在の研究成果からすれば古いところもあるが、それを差し置いてもよく出来ていると思う。しかし、「三 近代政治思想の原理的構成」になるとどうも納得の行かないところが多い。なぜ人権思想が大事なのか、なぜ重視されるようになったのか、というテーマについて、社会が「個人」の集合体と考えられるようになったから個人のもつ「自由」が積極的な意味を持つようになった、という説明で、中世的世界像が転換し「個人の存在」の重視をもたらした、というのだが、それだけではどうも納得しにくい。いずれにしても、社会は「自然」でなく「人間」に属するからいかようにも変更可能だし、あらかじめあたえられたものでなくその時の構成員がいつでも変更を加えてよい、ということがポイントだと思われる。
このあたりはヴィーコとは全く逆で、ヴィーコは自然には科学的な「真実」があるが、人間社会には「本当らしい」ものしかない。人間はその「本当らしい」ものをそう簡単に変えてはいけない、という主張になる。ヴィーコは徹底的に反デカルトなので、全然折り合えないが、このあたりを読みながら私はヴィーコを読んだ時の感動を思い出していた。
もう一つ、ホッブズやロックのいう「自然状態」というのが歴史的な実在とはまったく無縁な思考実験だということが確認出来たのは良かった。あらゆる権力関係、身分関係、そういう社会関係がない状態を想定する、というのは思考実験でしかないのだが、そうなると「万人の万人に対する戦い」になるというホッブズも「勤勉かつ理性的」な人間は富の総量を増加させることにより争いを避けるというロックも、まあその思考に共鳴する人がどれだけいるか、というところから話は始まるわけで、つまりはイデオロギーである。
いずれにしてもまだ読了してない。しかしこのあたりが人権思想とか民主主義といかいうものが生まれてきた奥の院、秘儀的な部分であることは間違いないと思う。そのあたりのところがもう少し理解できるようになるといいなと思う。
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