テポドン発射/熱情と受難/『逆さまゲーム』
Posted at 06/07/05 PermaLink» Tweet
朝起きて、ネットのニュースを見てびっくり。驚愕した人は多いのではないか。イタリアがドイツに勝った。いやもちろんそうではない、韓国が竹島海域のEEZを侵犯しそうだ、いやそうでもなく、胡錦涛が小沢一郎を歓待した、いやこれは昨日のニュースだ、尖閣諸島に中国の調査船が来た、いやこれも大問題だが、海賊がマラッカ海峡で国連の船舶などを襲撃した。いやこうしてみてみると大事件がまさに「寝耳に水」のおきぬけの寝ぼけまなこにたくさん飛び込んできた。
北朝鮮がテポドン2号とされる弾道ミサイルを発射した。それに付随してスカッドミサイルやノドンミサイルも何発も発射したらしい。私が見た時点ではいろいろと情報が交錯して最新情報が常に変化している状態なのではっきりと書ききれないのだが、少なくとも6発、射程の違う3種類以上を発射したことは確からしい。帰郷しているときは原則的にテレビのニュースは夜しか見ないのだが、今朝はいろいろなチャンネルでいくつも見た。その中で神浦氏が解りやすく解説していたが、日本まで射程にしたノドンにスカッドミサイルをくっつけたものがテポドン1号で、98年はこれで人工衛星を打ち上げたと言っていた。テポドン2号はまったく新規の巨大なミサイルで、アメリカにまで届くという。その図示の説明がわかりやすかった。
人工衛星という表現に引っ掛かりを感じたのでネットで調べたが、北朝鮮が「光明星1号」だと主張する人工衛星との交信に「成功」した国は北朝鮮だけで、その他の世界中の国はその存在が未確認だという。それでも「人工衛星打ち上げ」という主張が多少の説得力を持つのは、打ち上げ方向が真東、すなわち地球の自転を利用した打ち上げ軌道と見られなくもないということであった、ということは神浦氏の説明でもその他のネットの説明でもなるほどと思った。
もちろん「弾道ミサイル」と「ロケット」は根本的に同じ技術である。第二次世界大戦中にロンドンを恐怖に陥れたドイツの弾道ミサイル「V2号」の開発者であるフォン・ブラウンは戦後アメリカに渡ってアポロ計画にも携わっている。だから適当に人工衛星と称するもの(核弾頭かもしれない)をセットして打ち上げて人工衛星だよ、と強弁することは不可能ではない。
しかし、今回の打ち上げ方向は明らかにアメリカ本土への着弾を狙ったと見られてもおかしくない北東方向で、人工衛星という主張は不可能だ。弾道ミサイルの発射実験であった、ということはほぼ確定的といってよいと思う。
問題はこれをどのように解釈し、対処するかである。金正日を「理性的な指導者」と考える向きは今回の実験に首をひねっているし、そう考えない向きはついにキレた、という観測もある。「瀬戸際外交」の範疇に収まる、つまり「理性的」な恫喝である、という評価は私の見た限りではない。明らかに中国や韓国の顔を潰し、日本だけでなくアメリカをも直接的に恫喝している。おりしも小樽には空母キティーホークが入港中だったというが、予定を早めて出航したらしい。沖縄からも無人偵察機などがかなり飛んでいるというし、北朝鮮がどこまで状況を見極めて行動しているのか、いまいちよく分からない。
これを機に北朝鮮の自壊が始まると見るむきもある。一方でアメリカは「差し迫った脅威ではない」と国内世論の沈静化に躍起といった印象である。
日本では少なくとも総裁選で安倍氏の追い風にこそなれ中国や北朝鮮の期待する指導者が政権をとることのプラスにならないことは確かだ。いろいろなことを考えても、北朝鮮がこれをやることのメリットはほとんど考えられない。
結局のところ、何を考えているのか、正気なのか正気でないのかも含めて解らない。解らないのが一番不気味だ、という効果を狙っているのだろうか。ヤケクソ、という解釈が一番妥当なのか。だったら日本はどうしたらいいのか。どちらにしても「何とかに刃物」的な状況であることにかわりはない。
***
昨日帰郷。特急の中では結構寝ていたが、マルグリット・デュラス『モデラート・カンタービレ』(河出文庫、1985)は読了した。読み終わって遅ればせながらようやく構造を理解したが、なるほどフランス小説というか、ストレートなようでいて手の込んでいる構造は面白いなと思う。晩餐会の描写はなんとなく『コックと泥棒、その妻と愛人』を思い出した。passionという言葉が「熱情」と「キリストの受難」の両方を表すという言語的な構造が、「熱情」に宗教的な、あるいは哲学的な深みを持たせている。「熱情」に対する受け取り方の日本とフランスの違いのようなものをテーマにして論じてみるといろいろと面白いだろうとは思う。「熱情」は原罪でもあり犠牲でもある。そういう意味で宿命的なものと受けとめられていると考えていいだろう。日本では多分それは克服すべきもののようにとらえられているだろうが、理趣経など密教系ではどのような解釈になるか。否定すべきか、肯定すべきか、宿命として受け入れるべきか、克服の対象とするべきか、まあ人間が人間として生きている以上、避けることの出来ないテーマであろうし、それがキリストという「神の受難」に結びついているところがキリスト教という宗教の性格を強く規定しているといっていいのだろうと思う。
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で、そのあとはアントニオ・タブッキ『逆さまゲーム』(白水uブックス、1998)を再び読み始めた。これは短編集で、表題作の「逆さまゲーム」と「ドローレス・イバルーリは苦い涙を流して」の二作を読んだ。これらの短編は物語の作り方、つまり設定の仕方やその展開の仕方についていろいろ教示してくれるものを感じる。「人に聞いた話を、いつもの手法で語りなおす」とか、「それまでこうに違いないと思っていたことがそうでないことに気づいた、その発見の驚きや怖れが端緒になっている」とかの言葉である。とにかく手法、スタイルといったものの確立がいかに大事であるか、それは特に短編においてそうだ、ということがよくわかる。
「逆さまゲーム」はイタリア人の男とポルトガル人の女の話で、端緒は独裁国家であったポルトガルに「同志の資金援助」のために連絡を取るように頼まれた主人公がポルトガルに行き、知り合ったその女性が亡くなった。その連絡を受けて会いに行くと、その女性は彼が思っていたような女性ではなかった、とその夫に告げられる、という話である。スパイものやミステリーのような構造逆転がいろいろな雰囲気の中で語られる。そしてどちらの姿が「本当の姿」であったか、ベラスケスの「ラス・メニーナス」を種に語られる。現実が夢か、夢が現実か。
「ドローレス・イバルーリ…」はスペイン市民戦争やフルシチョフのスターリン批判など30年代から60年代にかけてのヨーロッパ史を背景にしたある個人の物語なのだが、最後の落ちがよくわからない。年代的に「プラハの春」とかの絡みかもしれないのだが、イタリア人とそれがどのように関係するのか、わからないまま。須賀敦子の解説も各作品についてはほとんどの触れられておられず、こういうのは少し難しいなと思う。
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