イリュージョンの暴走/アルゼンチン、ヒンギス、橋本龍太郎
Posted at 06/07/01 PermaLink» Tweet
7月になった。6月30日から7月1日の間に2006年の前半が終わり後半がスタートするわけだが、どうもその受け渡しが相当ぎくしゃくする展開になった。いや、自分の中での話しだが。
デュラス『これで、おしまい』。昨日はあまり印象が深くない、というようなことを書いたが、創作を始めたらこれがイリュージョンの導き手としてかなりの力を持っていることを発見。これに触発されながら書くと実にいろいろなイメージが浮かんでくる。そういう意味での名作だと考えを改める。
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しかしイリュージョンというのは想像力が勝手に暴走することでもあるので、論理の暴走と同様、かなり危険だ。論理が暴走して心が置いていかれると自分の心が切り刻まれて人間性が痛めつけられるということがよくあるが、想像力が暴走して心がついて行けなくなるとやはり人間は狂気に近いところに陥ってしまう。場合によっては本当の狂気に陥ることもあるだろう。イリュージョン系のものを書いているとときどきそういう「帰ってこられなくなりそう」な感覚に陥ることがある。立川談志がよくそういうことを言っていた。
そのためには心をしっかりと持つ必要がある。腹に力を入れて揺れに耐える、というような感覚だ。イリュージョンというのは体力を使うし、トリップすればいいというものではない。現世と「向こう側」を通行しうる能力が無ければ単純にあちらの世界の住人になってしまう。ギャグ漫画家が数年したら廃人同様になるという話があるけれども、そのあたりの加減を間違うと白いワニが来たり大変なのだと思う。『やし酒飲み』の作者など、いったいどこまで行ってしまったことだろうと思う。
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で、たまたま本棚に置きっぱなしだった羽生善治『決断力』を読むと、そのあたりが落ち着く感じがしてくる。将棋もある意味集中力の生み出すイリュージョンの世界で、あっちに行ってしまう人もいるらしい。羽生も恐怖を感じることがある、と書いていてそうだろうなあと思う。だからといって安全なところにいつもいてもいいものは出来ないし、うまく情勢を読みつつ自分を危険に晒すようなことをあえてせざるを得ないのだろうと思う。そういう意味では結局人間は体力なのだと思う。
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仕事を終えて東京に帰ってくる特急の中で『決断力』を読みながらそんなことを思う。なぜかふと、ニーチェ『ツァラトゥストゥラ』がイリュージョン系の小説として読むことが可能なのではないかという気がして帰ってから読み直してみようと思った。(いま読み直しているが、思想書として読むよりそちらの方が気がきいている気もしなくはない)
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地元の駅について、本屋に行って『キーボードマガジン』を買う。ピアノなどろくに弾けないが。8月号がアンジェラ・アキ特集なのだ。
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家に帰ってきていろいろやりながらテレビを見ると、アルゼンチンードイツ戦をやっていたので最後まで見てしまった。このレベルになると「サッカーを見ている」という感じがする。アルゼンチンはやや不完全燃焼のまま負けてしまった感じがして残念だったが、見ごたえがあった。イングランドとフォークランドをめぐる遺恨試合になると面白いと思ったのだがそうは行かなかった。ミュージカル『エヴィータ』の「アルゼンチンよ泣かないで」を聴く。
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終わるとウィンブルドンのセンターコートで杉山愛とマルチナ・ヒンギスの一戦。さすがに最後まで付き合えないから第1セットの第2ゲームまで見て寝る。朝起きたら杉山が勝っていて驚いた。一度は引退まで考えた30歳の彼女にとって、この勝利は嬉しいだろうなと思う。25歳の元女王は、まだまだ先があるだろう。
どうも寝不足は解消せず、体全体が重い。東京は蒸し暑いし、気圧が低くて空気が沈滞している。私自身の気の流れもどうもよくない。感情が急に強くなったり、妙な波が出来たりしている。イリュージョン系のものに取り組んでいることに対する体の反発かもしれない。
イリュージョンに閉ざされていかない一つの重要な手段は「笑い」ということで、芝居をやっているときも「笑い」というのは自分のありかを確認する重要な手段だった。「笑い」を離れてただイリュージョンの中に突っ込んでいくと本当に危ないことがよくある。それが現実世界に反映されると、「何であんなことをやってしまうのだろう」ということをやってしまうのだ。そういう意味では奈良の少年も自分のイリュージョンからのがれられなくなってしまったのだろうなと思う。ある意味ひとごとではない。
ふと寺山修司を思い出す。
まとまらないが、大体こういう話がまとまるはずもないのだ。
橋本龍太郎(元首相)が死んだ。ある意味90年代の混乱した日本を代表する政治家。ご冥福をお祈りしたい。あの時代の日本もともに。
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