「いい奴だったのになあ」/機会主義者の悲しい真実
Posted at 06/06/10 PermaLink» Tweet
今朝は晴れているが、日の光が弱い。薄い雲がかかっている。今日は暑くなると言うことだが、どうも私自身の調子は今ひとつだ。仕事がかなり疲れたということかと思う。
昨日は前半は雨が降り、後半は上がっていた。創作を進めた時間が長かった。が、とにかく読みきろうと思って佐藤優『自壊する帝国』を読み進め、仕事が終わったあとの夜半過ぎに読了。
読み終わった後の感触から言うと、佐藤の旧ソ連人インテリゲンツィアとの心の交流、というのが主題と言う感じだが、政治の季節に反体制の急先鋒だった人物が資本主義に改宗したり、共産党保守派の人物が虚無主義に改宗してジリノフスキーの片腕になったりしているさまは、そういう例が多いことは今までいくつも聞いてはいるけれどもやはり唖然とする。オウムがロシアで布教に成功したりしたのも、こういう精神的に多くの損害を被った時代の産物なのだと言うことがよくわかるが、彼らインテリが基本的には良心的であるだけに、痛々しい感じがする。
佐藤という人は自分を取り巻く状況についてはきわめて冷徹に把握し分析することのできる人物だと言う印象があったが、自分自身のことについてはあまり語ってこなかったように思う。しかしこういう友情を通したロシア人との付き合いになると、彼個人のパーソナリティーもかなり語られて印象深い。ただその語りが基本的にシャイであることに変わりはないのだが。
印象に残ったことをいくつか。
p.276。グルジアの赤ワインに「キンズマラウリ」「フバンチカラ」という銘柄があり、静脈からとった献血用の血液のように少し濁っているのだという。スターリンはかつての同志を銃殺した晩に必ず宴会を開いて「いい奴だったのになあ」といって粛清した同志を偲んでこれらのワインを飲んだと言う。スターリンらしさがよくあらわれた「伝説」だと思う。
p.280。またスターリン。モスクワ大学やレニングラードホテルなどの摩天楼は「スターリンゴシック」と言われているそうだ。
p.306。「KGBには精神病院への通院歴があるものを協力者に雇用してはならないという規定がある。」なるほど、ちょっと意外だがそういわれたらそういうものかという気がする。スパイなどの情報活動というものは、情報提供者がどういう人間かはかなり厳しい基準があると言えるわけだ。ということは、逆に極めて普通の人物が情報提供者として有用であるということもいえるわけで、人間不信になりそうな社会だったのだと言うことはよくわかる。
p.357。ビチェスラフ・ポローシンについて。「ビチェスラフは中国人百人分くらい狡いの。」ロシア人の中国人観がわかって可笑しい。
p.359。ロシア共産党元幹部イリインとの会話。
「あんな重要な秘密を、僕みたいな西側の、それも下っ端の外交官に教えてくれた理由はなんですか。」
「人間は生き死にに関わる状況になると誰かに本当のことを伝えておきたくなるんだよ。真実を伝えたいという欲望なんだ。」
「なぜ僕にそう話そうと思ったのですか」
「信念を大切にする人と信念を方便として使う人がいる。君は信念を大切にする人だからだ。周囲にそういう人が見当たらなかった。」
かなりデリケートな会話だ。人間は信用しうるか。信念を大切にする人は大切にする人どうし、理解しあえるし信頼しあえる。信念を方便として使う人は、一見良心的にブログで怒ったりしている人の中にもずいぶんいるように感じられる。そのように考えてくると、機会主義者との友情はいつかは壊れる、というのが佐藤の作品のテーマであるような気もしてきた。逆に、機会主義者にもまあいわば「悲しい真実」みたいなものはあるわけであり、そのことについての佐藤の自問自答も感じられ、そのあたりにこの作品を読んだときのなんとも割り切りきれない読後感があるのかもしれない。
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空は曇っている。今日は夜までこちらで仕事をして、夜帰郷の予定。ワールドカップが始まったが、まだ日本オーストラリア戦が始まるまで私自身はそんなに盛り上がりそうでもない。
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