塩野七生『男の肖像』/同性のために死ぬという行為
Posted at 06/06/04 PermaLink» Tweet
昨日は午後少し疲れが出て寝てしまい、夜になってからいろいろなことをはじめた。気分転換に塩野七生『男の肖像』(1992、文春文庫)を読み返すと、面白いところもあり、少し古くなったなという感のところもあり。
北条時宗を高く評価しているのだけど大河ドラマの主人公にもならないのは残念だ、と書いているのは既にあの和泉元弥主演で実現しているのでちょっと古いのだが、あれはどちらかというと鎌倉における権力闘争が大きく取り上げられていたけれども、世界に売り出すならモンゴルとの係わり合いをもっと出した方がよかっただろうなと思う。考えてみたら鎌倉幕府は東国(つまり大陸から遠い奥地)から全国を支配した最初の政権(まあ正確にいえばニュアンスはいろいろあるにしても)であったわけで、そういう政権のときにモンゴルの侵攻があったというのも歴史の偶然だろうか。もし九州に本拠を置く政権だったら、どんな展開になっていたことか。
信長評のところで面白いのは、以下の部分。
「士は己を知る者のために死す、のだそうである。そして「己を知る者」という表現は、合理的に解釈すると、己の能力を認めてそれを活用してくれる者となってしまう。だが、それだけであろうか。そのような理性的判断によるものだけであろうか。
だけではないと、人はすぐ、カリスマ性うんぬんで片づけてしまうが、カリスマ性とは何であろう。私には、それが、愛情と言い換えてもよい、官能的なまでの感情であるような気がしてならない。ひっきょう、男の集団を動かす原動力は、官能的なまでの、この不合理によるのではないだろうか。これが、女だけの集団が力をもちえない原因につながる。
女は神を男に求めるが、男は、神を男同士に求める。女は、いかに自分の才能を認め活用してくれようが、女のためには絶対に死なない。」
これは判る気がする。「同性のために死ぬ」というのは、非常に「男性的な行為」である気がする。女がその人のために死ねる女、というのはどんな女性だろう。ちょっとあんまり見当がつかないが、そういう人もいるのだろうか。生身の人間に「神を求める」というタイプの人間は確かにいるし、そういう人間のために(いや結局は自分のためなのだが)神になろう、あるいは演じようという人間もいる。でまあ人間は神にはなれないわけだが、ことがうまく運ぶと伝説くらいにはなれる。2ちゃんではしょっちゅう神は降臨しているが。
人間は鬼にはなれるが神にはなれない、というのが桜井章一を扱った漫画のテーマだった気がするが、それが問題になるのはそういう人たちがいるからで、そういう姿の原型はなるほど織田信長と彼の家来たちにあったのかもしれない。
もうひとつ面白いと思ったのは西郷隆盛評だが、「忘れてはならないことだが、人間の願望の最たるものは、安らかな死、につきる。この人の許で死ぬならば、死さえも甘く変わるとなればどうだろう。」というのは、いや、言われてしまったなあという感じ。「一日西郷に接すれば、一日の愛生ず。三日接すれば、三日の愛生ず。親愛日に加わり、今は去るべくもあらず。ただ、死生をともにせんのみ。」という増田宋太郎の言葉からこの表現がでているのだが、まあこれも同じようなものである。信長も西郷も「神」に近い存在であり、タイプは違うが多くの男たちをひきつけた。しかしいずれも非業の死を遂げているところは、日本ではこのタイプの人間は生をまっとうできないと言うことなんだろうと思う。
しかし大カトーのところ述べているが、大スキピオを冷遇した当時のローマに関して、「国家に功績ある人物に対して忘恩行為で報いる現象は、強大な民族になる証である」という言葉があるそうで、光秀や大久保のやったことはある意味での忘恩行為であるから、当時の日本が上がり調子であったことの証明になるのかもしれない。逆に小泉首相が終わりを全うしそうな現在は、日本が相当調子が悪いことの証明なのかもしれない。
以前アメリカの道路網をネットで調べていたら何の拍子か女装サイトに行き着いてしまい、「女装した男」と女性を見分けられるかどうか、というテストをしてしまった。"HeMale or SheMale"というサイトだが、ネットを見るのに疲れたら箸休めにでもどうぞ。わたしは80パーセント以上は分かったが、だからといって女装趣味の友人がいるわけではありません。
だいぶ話は脱線したが、人間いろいろなタイプはあろうが、インテリはなかなか「死は己を知るもののために死す」とはなかなかならないだろうなあと思った。でも本当にすごいと思う人間、ある意味(いろいろなタイプがあり得るが)神に近い人間だと感じたらそういうのも分からないのかなあとも思う。さてどうでしょう。
これも脱線だが、神になりたがる男が嫌味であるのと同様、神になりたがる女はちょっと見ていられないほど痛々しい感じがする。しかし、神になっちゃった女性(天理教の中山みきとか大本の出口直とか)はまたどんなにヒステリックでもまた神様ってこういう存在なんだろうなという気が(いろいろ読んでいる限りでは)する。それに近い女性は、うーん、結構いるのかな、最近。神様でなく偶像(アイドルってことだね)は掃いて捨てるほどいるのはもちろんなんだけど。
「神に近い男」と「神様になっっちゃった女性」ではちょっと話の筋が違いすぎるか。日本語の言葉の類縁関係は難しいところが多い。神に近い男は必ずしも宗教的センスが必要ない(信長が神仏を信じていたかどうか)が、「神様になっちゃった女性」はどう考えても宗教的センスが他の能力を圧して存在していなければ無理だろうしね。
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