女道楽/『東アジアの不安定要因』
Posted at 06/05/20 PermaLink» Tweet
昨日は荒れ模様、今朝は蒸し蒸ししていたが、午後はだんだん暑くなってきた。昨日帰京し、なんとなく疲れが残っていて馬力が出ない。教育テレビの能狂言入門が面白く、能・狂言の「構え」というものを野村萬斎の解説で始めて認識した。…と地震だ。(1時58分)結構揺れている。でもこれ以上大きくならないようだ。膝を少し前に出し、腰を引き、胸を張り、顎を引く。「く」の字の連続のような形で、そこから少し前傾になる。これはデューク更家のウォーキングのメソットにも共通するものがあるような気がする。ちょっと興味深い。千葉県南部で震度3、津波の心配はなし。この姿勢は腹、特に腹直筋に力が入らないと維持できない。腰が痛くなるのは腹に力が入らないからだ、というが、この姿勢を保っていたらそういうこともなさそうだ。
特急の車内で志賀直哉『小僧の神様・城の崎にて』読了。直哉の女道楽関係の短編が4作並んでいてふーんと思う。この時代の女道楽というのはこういうものだったんだなと、まあそういう史料的な感慨である。『志賀直哉はなぜ名文か』で取り上げられていたフレーズがいくつも出てきて、そういう意味でも結構楽しめた。いろいろと制作に苦労しているのは分かるが、結局はやはり「ミューズ」が到来しないと書けない、というタイプの作家なのだろうと思う。長編中篇もいくつか読んで見ないとまだ分からないことは多いが。
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『マエストロに乾杯』。コロ、アライサ、シュライヤー、ベーア、ハンプソン、アレン、ロストロポーヴィチ、とあまりよく知らない声楽家や指揮者が続いたあとでメニューイン、ショルティ、ヨーヨー・マとまあ知らなくも無い人が続き、パーソンズ、朝比奈隆、テレサ・ベルガンサ、東京カルテット、インバルまで読んだ。なんというか、クリエイターが何をテーマに、何を考えながら物を作っているかという話は読んでいて非常に刺激される。やはりわたしにもどこかにものつくりの魂のようなものがあるようで、単に人の作品の批評とかしているだけでは物足りないものがあるんだなと思う。NHKのFMで『私の名盤コレクション』という番組があるけれども、これも面白いなと思って聞くことが多い。聞く余裕のない時も多いのだが。
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急に暑くなって体調がいまいちだ。やるべきことを進めないと前にいけないぞと言い聞かせつつ。
***
書こうと思っていたことを思い出した。韓国のノムヒョン大統領がマハティールか誰かとの会談で日本は東アジアの不安定要因だと発言したらしいが、自分のところは棚に上げてすごいことを言うなとちょっと感心した=呆れた。
しかし、実際のところ、「東アジアの不安定要因」はどこだろうと思うと、短期的には北朝鮮かもしれないが、長期的にはもちろん中国だろう。急激な軍拡や環境破壊、格差拡大が一党独裁体制のもとで進行しているというのはいずれ何かが起こらないはずがないと誰でも思うだろう。しかしマハティールのマレーシアを始め、アジアの国々が比較的中国を指示し、好意的に見ているのは、アメリカに対してもっと「アンチ」として勢力を築き上げそうなのが中国だ、ということにあるのだと思う。「アンチ」の魅力である。
19世紀的な帝国主義体制が崩れたのは結局帝国主義国間の抗争、すなわち第一次世界大戦だったわけだが、その後成立したヴェルサイユ体制はいくつものアンチを生み出した。もっとも注目されるのがナチス・ドイツで、それとの関連から日本も注目されてしまうが、実際には国家社会主義的な枢軸国だけでなく、マルクスレーニン主義のソ連もアンチだったのであり、自らヴェルサイユ体制の外からの影響力を持とうとしたアメリカもある種のアンチであっただろう。ヒトラーの動機はヴェルサイユ体制の打破だったが、アンチ勢力の中でも日本と同盟してソ連を敵に回し、日本はドイツと同盟してアメリカを敵に回したためにヴェルサイユ体制そのものは結局第二世界大戦のテーマから転げ落ちてしまった。
戦前の日本が大東亜共栄圏を唱え大東亜会議を開いたりしたのはやはり日本の存在が西欧諸国に対するアンチとして期待されていたからこそのことであり、日本はもちろん日本なりの期待も持ちつつ東南アジア諸国を援助した。その構図は現代の中国のやり方と似ていて、敵視しているはずの戦前日本の戦略を彼ら自身が実行しているように思われる。
現代のアメリカ一人勝ち体制への「アンチ」たらんとしているのは国家としては中国とロシアであろう。アメリカも失策続きで地盤沈下が著しいし、この機会にプレゼンスの拡大を図っているのは明々白々なのだが、しかしどう見ても中国やロシアには「世界戦略」があるようには見えない。アメリカなどはえげつないくらい自国に都合のよい世界の構築を追及してきたわけだが、中国やロシアに世界をどう構築しなおすかというほどの構想があるとは思えず、そういう意味では「アンチ」であるからこそ勢力を伸ばしえているだけで、「リーダー」にはとてもなれそうにない。
これを招いたのは、小泉政権下における日本のアメリカへの急接近が大きいだろう。日本も常に潜在的なアメリカへのアンチではあり得たのが、その期待がほとんど失われたように思われる。国連など数がものをいう場での外交では、そうした「期待値の向上」は重要な戦略であるはずなのだが、自分たちだけがアメリカの保護下に入って安全を確保しようとしている、と露骨に見られ始めたのではないかという気がする。
中国は国内統一も反日反米のアンチ路線でやってきた経緯があり、それがかなり広い範囲で通用しているのでそう簡単に路線変更は出来ないし、日本が変に接近したところで無礼な扱いを受けるのは目に見えていることで、別に無理に接近することもない。ただ親米や反中だけでない独自の外交ビジョンを提示できなければ、日本のプレゼンスは低下する一方になるだろう。
ただ最近の、いろいろな意味で国内的にも国際的にも責任を回避しようとする傾向ばかり強い日本の現状がある限り、「自立」志向なんてことが世論の主流になることは無いのかもしれないと思う。なんていうか、きわめて情けないことだと思うが、みんなあんまりそう思っていないようで、よくわからない。
思想の時代から立身出世・蓄財興業の明治20年代へ進みつつある。肉体言語などというのも遠い過去の話になりつつあるんだろうなあと思う。
しかし、油断なく牙を研いでいる国が周辺にはあるわけで、待ったなしでそれに晒されたときにいったいどういう対応を取るつもりなんだろう。現代は、明治20年代の日本と中国と、所を替えて歴史が繰り返しているのかもしれない。明治278年には日清戦争が起こったわけだが。
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