志賀直哉/『右翼・行動の論理』/立花隆
Posted at 06/05/11 PermaLink» Trackback(1)» Tweet
雨が降ったり止んだり。信州では初夏の新緑が始まるときは、まだ春の花が残っている。朝6時前にセブンイレブンに出かけるために傘をさして古い町並みの道を歩いていくと、蘇芳や藤が背景が洗浄された絵のように鮮やかにみずみずしく花を咲かせていた。四つ角のはなみずきも、生気がよみがえったかのような鮮やかさだった。ここのところ少し暑い日が続いていたから、雨が降って気温が下がり、人も花たちも生気の通路を取り戻したのかもしれない。骨董屋の角を左に曲がり、橋を渡ると信号の向うに造り酒屋の古い木塀が見える。この時間はまだ店は開いていない。セブンイレブンでボルビックとビックコミックを買い、甲州街道を渡って道を戻ろうとすると路地に藤が咲いているのが見えて、道を変えてそちらの方に行く。藤はいい。藤棚で華やかに咲き誇るのもいいが、こういう路地で塀からはみ出るように、庭先から通りすがりに笑いかけるように咲いている藤はもっといい。路地づたいに家に戻る。保育園の裏側に出たのでその三方を回って橋に出、山寺に向かう古い道を登る。阿夫利神社の祠があり、手を合わせる。
昨日は文を少し書き次ぎ、志賀直哉を読みつづけた。「いたずら」「夫婦」「白い線」「八手の花」と読み、最後の「盲亀浮木」にかかっている。「盲亀の浮木、優曇華の、花の咲いたる、心地して」である。以前さる方に勧められて読んだのだが、その時は余り志賀直哉に惹かれはしなかったのだけど、今となっては日本文学には志賀直哉しかいなかったんじゃないかという気がするくらい強く惹かれるものがある。本当に、その時その時の人間の求めているもの、必要なものしか人間には目に入らないのだと思う。
ただ読んでいると時々そのあまりに緊密な文章世界に読んでいる自分が硬直していくような感じがあり、気分を変えて猪野健治編『右翼・行動の論理』(ちくま文庫、2006)を読む。内容は当然ハードなのだが、文章の緊密さと言う点で言えば志賀直哉の方がずっと硬質で、右翼の人たちのロマンチシズムや「信念」と言ったものがわりあい素直に理解できて面白いことだなと思った。いろいろ考えることはもちろんあるのだが、立花隆が戦前からの右翼運動家の水戸の愛郷塾・橘孝三郎の親戚だということを知ってへえと思った。書中では甥、と書いてあったがネットで調べると父の従兄弟と言うことらしい。立花も本名は橘隆志だそうで、確かにそう書くと民族色が強くなる感じがする。立花という人はジャーナリストとしては面白いなと昔は思っていて、かなりいろいろ読んだのだが、最近は左翼色が全面に出すぎて関心を失っていたのだが、そういう背景を持つ人だということを知ると、そうしたことに関する言説を読むときにまた別の見方が出来る。『天皇と東大』とかちょっと読む気がしなかったのだが、読んでもいいかなと思いネットで調べると高い本なので図書館で借りようとチェックしてみたら自分が使える図書館は全冊貸し出し中だった。
ビックコミックは「中春こまわり君」が印象に残ったが、他は少しマンネリ気味かなという感じ。ちょうどそういう号だったのかもしれないが。
窓から白いはなみずきが見える。電信柱の向うに見える山は霧に白く閉ざされている。朝はそうでもなかったがだんだん寒くなってきて、ストーブをつけた。
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