本棚を整理して20年前を思い出す
Posted at 06/05/07 PermaLink» Tweet
昨日はだいぶかかって本の大移動。今においてあるメインの本棚二つに全て文学関係を移す。一番目立つところに大江健三郎『あいまいな日本の私』(岩波新書、1995)があるのは笑うが、ヒメネス『プラテーロとわたし』(理論社、1984)やブルトン『ナジャ』(現代思潮社、1980)があるのはわたしも昔はこういうのを読もうとしていた時期があるんだなあと少し感慨を覚える。学生時代のハイブロウの意識というのはわたしの場合、こういう方向性だった。映画でエイゼンシュタイン『戦艦ポチョムキン』をみたりブニュエル『欲望のあいまいな対象』を見たりね。今考えると脱構築とかポストモダンの時代だったのだけど、あまりそういうものに興味がなかったし大体『構造と力』とか読んでも何言ってるのか分からなかった。漠然と、「新しいもの」に憧れていた、しかし「同時代的なもの」に興味があるわけではなかった、そんな感じのメンタリティだったんだな、と思う。
だから私の場合の「新しさ」というのがどういうものを指していたのかというといまいち説明が難しい。当時は野口整体より野口体操の方に関心があったし、多分その方が「新しい」感じがしていたのだろうと思う。ピカソとかロートレックに関心を持ち出したころ。ルネサンスやバロックの絵画は見ても見所がよくわからなかった。4年のときにヨーロッパに一人旅して、そのときにプラド美術館で集中的にスペイン・バロックを見たのが古い時代のヨーロッパ絵画に関心を持った最初だったと思う。あのときの旅行でトレドに行ってエル・グレコの『オルガス伯の埋葬』を見たのだが、そのときはまだこの絵の何がいいんだか全然分からなかった。今思ったらもったいない。そうそう、ピカソがいいと思ったのもこの旅行でバルセロナのピカソ美術館に行ったときだった。ミロ美術館も行ったのだけどなんとなく失望して、ピカソを見てちょー感動した、という覚えがある。ちょーという言葉遣いは当時あったのかどうかもう思い出せないが。
今思っても、漠然と何かを求めていた、その何かが『プラテーロ』とか『ナジャ』(この二つは全然違うといえば全然違うのだが)とかの方向性にあったのだが、実はこの二つとも読了していない。つまり、雰囲気で買って雰囲気で読み始めたのだけどどうにもそれ以上突っ込めなかった、というものなのだった。多分、頭が求めているものと気持ちが必要としているもの、本質的にこういうものを作りたいというものが全てばらばらで、全然統一が取れていないというのが20代の自分の偽らざる実態だったし、だからこそその後もずっと試行錯誤が続いたのだ、と思う。
ただいまいろいろ考えてみると、この時代の試行錯誤はそのままで形になったものは無いのだけど、自分の中の何か物を見たり考えたりする枠組になっているところはとても多くて、なんだか人生無駄になることは無いんだなという気もする。今になってまた創造とか探求とか言う七面倒臭いことにかかずらわりだして、あのころいろいろなものに出会って理解できたりできなかったりしたことがとても大事なことだったなと思う。そういう経験があったからこそ今いろいろなことを感じたりいろいろなことを書けたりすることが出来るわけで、今まで文学に足を向けて寝ていたとは言ってもそんなに単純なものでもないのだということが少し分かった気がした。
昼食の買い物のついでに本屋に行って、『文学界』(文藝春秋)の6月号が出ていたので買う。文学界新人賞の発表と選考内容。あまりじっくり読んでないが、こういうストーリイのある話のほうが『文学界』では好まれるんだなと思った。『群像』とか『新潮』に比べて割と一般的というかオーソドックスというかある意味通俗的というか、まあ今では新しいものに迎合しようという方がむしろ通俗的だという逆説もあるから一概には言い切れないが、まあそんなところがあるんだなと思う。そこら辺はまだあまりきちんと読んでないけど、車谷長吉の「世界一周恐怖航海記」が完結していてこれは数ヶ月楽しませてもらったという感じ。ワークショップ「世界は村上春樹をどう読むか」もワークショップ1の方しかきちんと読んでいないが、村上春樹をめぐる世界の「気分」というようなものがなんとなく伝わってきて面白かった。
今日は雨降り。昨日は一日本を運んでいて腰が重い。腕もなんとなく筋肉が硬くて、日ごろいかに肉体労働をしていないかがよくわかる。ただ案外すっきりと本棚が片付き、今まで整理がつかずに積んであったいろいろな本が何とか納まった(雑誌はだいぶ紐でくくって資源ごみ化したが)ので充実した気分。やはり自分の中心にあるのは何かを作り出すことで、何かを調べたり考えたりすることじゃないんだなということがはっきりしてきた感じ。そっちの方が明らかに人生は大変なように見えはするのだが。
ランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いします。
人気blogランキングへ
カテゴリ
- Bookstore Review (17)
- からだ (237)
- ご報告 (2)
- アニメーション (211)
- アンジェラ・アキ (15)
- アート (431)
- イベント (7)
- コミュニケーション (2)
- テレビ番組など (70)
- ネット、ウェブ (139)
- ファッション (55)
- マンガ (840)
- 創作ノート (669)
- 大人 (53)
- 女性 (23)
- 小説習作 (4)
- 少年 (29)
- 散歩・街歩き (297)
- 文学 (262)
- 映画 (105)
- 時事・国内 (365)
- 時事・海外 (218)
- 歴史諸々 (254)
- 民話・神話・伝説 (31)
- 生け花 (27)
- 男性 (32)
- 私の考えていること (1052)
- 舞台・ステージ (54)
- 詩 (82)
- 読みたい言葉、書きたい言葉 (6)
- 読書ノート (1582)
- 野球 (36)
- 雑記 (2225)
- 音楽 (205)
月別アーカイブ
- 2023年09月 (19)
- 2023年08月 (31)
- 2023年07月 (32)
- 2023年06月 (31)
- 2023年05月 (31)
- 2023年04月 (29)
- 2023年03月 (30)
- 2023年02月 (28)
- 2023年01月 (31)
- 2022年12月 (32)
- 2022年11月 (30)
- 2022年10月 (32)
- 2022年09月 (31)
- 2022年08月 (32)
- 2022年07月 (31)
- 2022年06月 (30)
- 2022年05月 (31)
- 2022年04月 (31)
- 2022年03月 (31)
- 2022年02月 (27)
- 2022年01月 (30)
- 2021年12月 (30)
- 2021年11月 (29)
- 2021年10月 (15)
- 2021年09月 (12)
- 2021年08月 (9)
- 2021年07月 (18)
- 2021年06月 (18)
- 2021年05月 (20)
- 2021年04月 (16)
- 2021年03月 (25)
- 2021年02月 (24)
- 2021年01月 (23)
- 2020年12月 (20)
- 2020年11月 (12)
- 2020年10月 (13)
- 2020年09月 (17)
- 2020年08月 (15)
- 2020年07月 (27)
- 2020年06月 (31)
- 2020年05月 (22)
- 2020年03月 (4)
- 2020年02月 (1)
- 2020年01月 (1)
- 2019年12月 (3)
- 2019年11月 (24)
- 2019年10月 (28)
- 2019年09月 (24)
- 2019年08月 (17)
- 2019年07月 (18)
- 2019年06月 (27)
- 2019年05月 (32)
- 2019年04月 (33)
- 2019年03月 (32)
- 2019年02月 (29)
- 2019年01月 (18)
- 2018年12月 (12)
- 2018年11月 (13)
- 2018年10月 (13)
- 2018年07月 (27)
- 2018年06月 (8)
- 2018年05月 (12)
- 2018年04月 (7)
- 2018年03月 (3)
- 2018年02月 (6)
- 2018年01月 (12)
- 2017年12月 (26)
- 2017年11月 (1)
- 2017年10月 (5)
- 2017年09月 (14)
- 2017年08月 (9)
- 2017年07月 (6)
- 2017年06月 (15)
- 2017年05月 (12)
- 2017年04月 (10)
- 2017年03月 (2)
- 2017年01月 (3)
- 2016年12月 (2)
- 2016年11月 (1)
- 2016年08月 (9)
- 2016年07月 (25)
- 2016年06月 (17)
- 2016年04月 (4)
- 2016年03月 (2)
- 2016年02月 (5)
- 2016年01月 (2)
- 2015年10月 (1)
- 2015年08月 (1)
- 2015年06月 (3)
- 2015年05月 (2)
- 2015年04月 (2)
- 2015年03月 (5)
- 2014年12月 (5)
- 2014年11月 (1)
- 2014年10月 (1)
- 2014年09月 (6)
- 2014年08月 (2)
- 2014年07月 (9)
- 2014年06月 (3)
- 2014年05月 (11)
- 2014年04月 (12)
- 2014年03月 (34)
- 2014年02月 (35)
- 2014年01月 (36)
- 2013年12月 (28)
- 2013年11月 (25)
- 2013年10月 (28)
- 2013年09月 (23)
- 2013年08月 (21)
- 2013年07月 (29)
- 2013年06月 (18)
- 2013年05月 (10)
- 2013年04月 (16)
- 2013年03月 (21)
- 2013年02月 (21)
- 2013年01月 (21)
- 2012年12月 (17)
- 2012年11月 (21)
- 2012年10月 (23)
- 2012年09月 (16)
- 2012年08月 (26)
- 2012年07月 (26)
- 2012年06月 (19)
- 2012年05月 (13)
- 2012年04月 (19)
- 2012年03月 (28)
- 2012年02月 (25)
- 2012年01月 (21)
- 2011年12月 (31)
- 2011年11月 (28)
- 2011年10月 (29)
- 2011年09月 (25)
- 2011年08月 (30)
- 2011年07月 (31)
- 2011年06月 (29)
- 2011年05月 (32)
- 2011年04月 (27)
- 2011年03月 (22)
- 2011年02月 (25)
- 2011年01月 (32)
- 2010年12月 (33)
- 2010年11月 (29)
- 2010年10月 (30)
- 2010年09月 (30)
- 2010年08月 (28)
- 2010年07月 (24)
- 2010年06月 (26)
- 2010年05月 (30)
- 2010年04月 (30)
- 2010年03月 (30)
- 2010年02月 (29)
- 2010年01月 (30)
- 2009年12月 (27)
- 2009年11月 (28)
- 2009年10月 (31)
- 2009年09月 (31)
- 2009年08月 (31)
- 2009年07月 (28)
- 2009年06月 (28)
- 2009年05月 (32)
- 2009年04月 (28)
- 2009年03月 (31)
- 2009年02月 (28)
- 2009年01月 (32)
- 2008年12月 (31)
- 2008年11月 (29)
- 2008年10月 (30)
- 2008年09月 (31)
- 2008年08月 (27)
- 2008年07月 (33)
- 2008年06月 (30)
- 2008年05月 (32)
- 2008年04月 (29)
- 2008年03月 (30)
- 2008年02月 (26)
- 2008年01月 (24)
- 2007年12月 (23)
- 2007年11月 (25)
- 2007年10月 (30)
- 2007年09月 (35)
- 2007年08月 (37)
- 2007年07月 (42)
- 2007年06月 (36)
- 2007年05月 (45)
- 2007年04月 (40)
- 2007年03月 (41)
- 2007年02月 (37)
- 2007年01月 (32)
- 2006年12月 (43)
- 2006年11月 (36)
- 2006年10月 (43)
- 2006年09月 (42)
- 2006年08月 (32)
- 2006年07月 (40)
- 2006年06月 (43)
- 2006年05月 (30)
- 2006年04月 (32)
- 2006年03月 (40)
- 2006年02月 (33)
- 2006年01月 (40)
- 2005年12月 (37)
- 2005年11月 (40)
- 2005年10月 (34)
- 2005年09月 (39)
- 2005年08月 (46)
- 2005年07月 (49)
- 2005年06月 (21)
フィード
Powered by Movable Type
Template by MTテンプレートDB
Supported by Movable Type入門