『スプートニクの恋人』の距離感/『陰陽師』とドラゴンクエスト/鯨と流木

Posted at 06/04/17

『スプートニクの恋人』読み進める。作り方としてなかなか巧妙な話だなと思いながら読む。今150ページくらい。女と女の、(いまのところ)プラトニックな恋愛と言うのは昔は多分かなり抵抗があったと思うが、今では返ってすっきりした感じのものとして読むことが出来る。貧乏臭いヘビースモーカーの文学少女がハイソサエティ的な開花をするところなどはピグマリオンだが、単なる語り手としてのみ存在するのかと思っていた「ぼく」が年上の人妻と不倫を繰り返していたりして妙に肉体的だ。生活感のようなものはほとんど出てこないのだけど、肉体的な感触のみは妙に残って、そういう意味で適度に(たぶん現代では)刺激的だ。

ずっと読んでいて思うのだが、村上は共同幻想といったら大げさだが、我々の時代の想像力のようなものを適度に刺激してそれを活性化させ、物語世界に同化させる手練に長けている。つまり想像の範囲内で想定の範囲外の事象を次々と繰り出し、物語を華やかにしながら、我々自身の想像力にも相当依拠していると言うことだ。もちろんフィクションである以上は当たり前なのだが。

しかし当たり前と書いたが本当に当たり前かというとそうでもないかも知れない。しばらく19世紀初頭の外国文学ばかり読んでいたから、彼我の「想像の範囲内」と言うものが相当違うと言うことを強く意識しながら読んでいた。実際には、同じ時代の同じ日本人であったとて想像の範囲というのはかなり違うはずなのだが、結構同じと言う共同幻想を抱かせるのがうまい。翻訳を意識して書いているというのも、そういう世界的な共同性(普遍性とは言うまい)をうまくつかんでいるという面がある。

しかし、その共同性の範囲はどのくらいのものなのか。ダルフールの難民は、村上に共感を覚えるのか。パレスチナの石を投げる少年は、ペルーのフジモリを支持する貧困層は。それらは現代においてはある種の極端なものではあるが、時代をさかのぼればそのギャップはどんどん大きくなるだろう。

私はフランス革命前後の歴史をやっていて、結局フランス人というのは理解できない、という結論に達した苦い覚えがある。それは私自身の色々な意味での能力不足ということが大きいのだと思うが、人間同士のお互いに理解できない部分の大きさというものを思い知らされたので、想像力で理解の範囲を拡大できるというテーゼに対してはかなり否定的になっていた。だから村上を読みながら、想像力で何とかなる世界がそこに展開しているのに、ちょっと違和感と不満を覚えていることを、銀座一丁目を京橋の方に歩きながら感じていた。

しかしそれは距離感の問題であって、人間は何も絶対的に孤独でなければならないということもない。遠いから孤独であるというだけでなく、近くても孤独だということはいくらでもあるし、その逆もまたある。ただいまはまだ距離感を測りかねているだけに過ぎないのだろう。慣れて来れば、ゴルファーが自分の3番アイアンは170ヤード飛ぶ、というくらいの距離感は生まれてくるのだろうと思う。

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『陰陽師』13巻まで再読了。発行されるたびにそれぞれの巻毎に読んでいたから、1巻から通して読んだのは初めてかもしれない。この漫画は最初から最後まで読み通さないと、それもしっかりと時間をかけて読まないと、そのよさも言わんとしていることもわからない。読み終えて一番感じたのはギュスターヴ・ドレ作画の『神曲』にとても近いものがあるということだった。最後で妖しい道士だと思われていた道満が豊受の大神であることが判明するというどんでん返しは驚いたが、前半のこまごまとした話の連鎖を地獄編と言うのは一寸何だが、雨乞いのあたりから煉獄編に入り、13巻最後の数章が天国編という感じになっている。

源博雅がある種のヴェルギリウスで、あとはドラクエのように同伴者がだんだん増えていき、見鬼で晴明の妻になる真葛、兄弟子で晴明にトラウマを刻印した賀茂保憲、駄洒落の王様藤原兼家などを引き連れつつ煉獄を巡って苦闘する。博雅が都の果ての五箇所で五芒星を描くように弓矢を放つ場面など、ぞくぞくする。

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トッピーが衝突したのは鯨でなく流木である可能性が高まったらしい。どうも鯨と決め付けて過熱する報道に違和感があったので、もしや北朝鮮か中国の工作潜水艇ではと邪推を働かせていたりしたのだが、流木というのが多分真実なんだろうという気がする。事実は案外平凡だ。しかし、要するにこれはロープのかけ方の甘いトラックが高速道路で荷崩れを起こして材木が散乱するのと同じことが海の上で起きているわけで、海上保安部ではよっぽど注意を喚起しなければならないだろう。外国船の荷崩れを取り締まるのも現在では難しかろうし、国際的な対処が望まれる。

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