村上春樹『スプートニクの恋人』とかコダーイとかダルフールとか
Posted at 06/04/16 PermaLink» Tweet
吸収期に入っている。
この時期はとにかく何でもかんでも吸収してしまう。何でもかんでも幅広く興味を覚えてしまう。今回は特に、今まで自分に禁止していたものが本当はとても興味深いと言うことに気付く例が多く、どんどんものを買ってしまう。吸収期というのは経済的には結構困る。しかし今吸収しておかないと創作期のストックが底をついてしまう。半ば義務的に欲しいものを買ってしまう。義務を課さないとお金を使わない部分が、自分にはある。
昨日買ったのは村上春樹『スプートニクの恋人』(講談社文庫、2001)と『スーパージャンプ』9号。スージャンと言うのはなんだか女体盛のようなコミック雑誌だが、案外面白い。大河原遁「王様の仕立て屋」が読みたいから買ったのだけど、長友健篩「バーテンダー」、渡辺獏人「死神監察官雷堂」、たなかじゅん「ナッちゃん」などいろいろ面白いのがある。
「王様の仕立て屋」はヴィレッダの「もう暫く様子を見ましょう」という台詞とポーズが横山光輝『三国志』の諸葛孔明のパロディーだと言うことを悟ったときは可笑しくてしょうがなかった。最後に「美女は命を削るカンナとか申します」という台詞があってこれはホントに全くその通りと感心したのだが、ウェブで調べると命を削るカンナなのは「酒」か「溜息」らしい。しかし美女とは全くそういうものだなとこれも妙にウケた。
『スプートニクの恋人』は、何か村上の長編を読もうと思っていくつか物色したのだが、題名がいいなと思って買ったのがこれだった。まだ120ページ目くらいを読んでいるが、これもなかなか面白い。好きかと言われると微妙だが、村上と言う作家は読者が作品を「好きであること」を要求しない作家だ、という気がする。プーシキンなどは、はっきりいって好きでないと読めないと思う。スコットもそういうところがあった。プーシキンは本当に好きだったからいくらでも読めたが、スコットはすげえ好きでもないけど付き合ってる女の子、みたいな好きにならなきゃいけないんじゃないかという軽い義務感が負担になるような部分が無いでもなかった。一冊は読みきったが二冊目はちょっと時間を起きたい、みたいな。まあ本だからいいけど女の子だとこれから付き合っていけるかどうかちょっと途方にくれたりするような感じ。村上は、好きになる必要は無いよ、といってるようでこちらが気楽だし、どこから読み始めてどこで終わりにしてもいい読みやすさがある。
「記号と象徴の違いを説明できる?」という台詞があって、そういう方面には暗いのでGoogleってみたら検索結果がほとんど『スプートニクの恋人』について書いているもので笑った。それだけみんな読んでるんだね。
並行して『陰陽師』も読み直していて、今はようやく12巻の冒頭まで来たが、最初から通読してくると内容の深まりが非常に鮮明に見えてきてしみじみよかったなあと思う。11巻に「かげくらき月の光をたよりにてしずかにたどれのべのほそみち」という和歌が出てくるのだが、誰の作かは知らないが異様にいい歌だと思った。人生ってこんなもんだよなと思う。「ひとりにひとつずつ 各々のための人跡未踏の小径(プロセス)が用意されている」という言葉もいいなあと思った。
昼ごろ友人から電話がかかってきてだいぶいろいろ話す。出掛けたのは3時過ぎていた。道を歩いていてふとスコットの『アイヴァンホー』が実は知っている構造だなと考えていたのだが、実は芝居をやっていた頃によくやっていた唐十郎の戯曲の構造と同じなのだと言うことに気がついた。男女の主人公がいて、女の方が危機に陥る。『アイヴァンホー』ではユダヤ人の少女レベッカが魔女裁判にかけられるのだが、唐の戯曲でも『海の牙』や『鉄仮面』などよく裁判シーンが出てくる。男は何らかの理由で役に立たないのだが、肝心なところで目覚めて女の危機を救う、と言うような形だ。バリエーションはあるのだが。高校生の頃にスコットを読んでいたら大学のときに状況劇場の芝居を見てもすぐスコットの構造を借りていることに気付いただろうにと思うと、なんだか悔しい感じがする。
図書館で「UP」と未読のスコットを返却し、地下鉄で日本橋に出る。運動不足なので中央通を銀座に向かって歩く。本屋に立ち寄り、村上がどれくらいあるか確認しながら行く。教文館で村上春樹『蛍・納屋を焼く・その他の短編』(新潮文庫、1987)を買う。よく読んだら「めくらやなぎと眠る女」が収められているのだが、これは『レキシントンの幽霊』所収のものの短くされて無いバージョンのようだ。4階に上がってスパニッシュケーキを食べコーヒーを飲みながら『スプートニクの恋人』を少し読む。テーブルの上にカサブランカの巨大な白い花が生けてある花瓶があって、強い匂いを放っていた。百合の花ってどうしてこんなに雌蕊(つまり生殖器)が長いんだろうとなんだか不思議な気がした。
2階に戻って美術書を何冊か立ち読みしたあと何気なく外国文学の棚の本を立ち読みしたらどうしても欲しくなってしまい、イタロ・カルヴィーノ(米川良夫訳)『木のぼり男爵』(白水uブックス、1995)、アントニオ・タブッキ(須賀敦子訳)『逆さまゲーム』(白水uブックス、1998)の2冊も買ってしまった。そのあと山野楽器でCDを見ていたらコダーイ『「7つのピアノ小品」「ドビュッシーのモチーフによる瞑想曲」「9つのピアノ小品」』を見つけ、これも欲しくなって買ってしまった。散財だ。しかしやむを得ぬ。
コレドの地下で夕食の買い物をし、家に帰って夕食を済ましたあと、コダーイを聞きながらこれを書いている。コダーイはいい。どうして今まであまり聞かなかったのだろうと思うくらいだ。
***
ダルフールの反政府勢力をめぐって、スーダンとチャドが国交断絶したという。スーダン西部のダルフールは虐殺が問題化しているが、ここにはスーダンに対する反政府勢力もチャドに対する反政府勢力もいて相当面倒なことになっているらしい。チャドは首都でまで戦闘が行われて政権中枢まで相当やばかったらしく、スーダンに対して本気で怒っている感じがする。アフリカ中北部の覇権をかけての現代のファショダ事件のような感じだ。
中国の山東省の使節団の団員が路上で女子高生に猥褻な行為をして起訴されたと言う。こういうことは中国でもちゃんと報道してもらいたいものだ。
森前首相は森派内部で安倍・福田の総裁候補を一本化しようとしているようだが、これは事実上の安倍下ろしだろう。しかし安倍もここは引き下がらないだろう。時代の歯車は回せるときに回さないと回らない。外交関係を考えても、数年間は首相に在任し続けるのが必要な時期だと思うし、アジア外交が腰砕けにならないためには安倍でなければならないと思う。
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