『ノモンハンの戦い』/世界文学三つの定義
Posted at 06/04/13 PermaLink» Tweet
昨日は午後から夜にかけて仕事。それなりに忙しいが、来客がいくつかあったからで、本来の業務がもう少し忙しいとよいのだが。
『ノモンハンの戦い』を読む。ノモンハンという言葉はモンゴル語だが、ノモン(ノム)とはギリシャ語のノモスに由来する言葉で法(仏法)を表し、ハンとはチンギスハンなどと同じ王を表すのだという。したがって、ノモンハンとは「法王」を意味する言葉であり、峠の水の湧き出す所にある種の聖地があってそれをブルド・オボーと言って、ノモンハーネイ・ブルド・オボーという場所がハルハ川から60キロほどのところにあり、そことハルハ川の間が満州・モンゴルのどちらに属するのかという争いが「ノモンハン事件(モンゴル側ではハルハ川戦争)」だったという解説はなるほどと思う。
民族的にはモンゴル世界なのだが、バルガと呼ばれるツングース系の人々も住むところで、まさにモンゴル世界とツングース世界の境界線上の争いということになる。こうした遊牧あるいは狩猟を生業とする民族の間の境界争いというのは難しいが、モンゴル帝国時代以後はモンゴルが、清朝時代はツングースが優勢だっただろうけれども、帝国主義時代になるとロシア・ソ連の影響力が圧倒的に大きくなった。そこに日本が進出してきたために起こった争いということになるが、このあたりを史上初めて漢民族が支配したのは中共政権になってからと考えて間違いはないだろう。その意味では台湾以上に「非中国的」な地域である。
いずれにしてもいまだに論争の絶えない「事件=戦争」であるが、ソ連側の記録の日本語訳というのはもちろんそうした論争の進展にも寄与するだろうし、そうしたことに一石を投じるための企画であることに間違いはない。しかし私自身としてはソ連=ロシア側の物の見方というものがうかがえるところがこの本の面白さではないかと思っている。昨日も書いたがはっきり言ってでたらめなところもあちこちにあるが、それも含めてロシア=ソ連側の見方ということである。
『陰陽師』の6巻を再読了。細かい内容はもうだいぶ忘れていた。奥付を見ると9年前の作品で発行元は今はなきスコラ。私はこの作品は好きだし全巻揃えたのだが、読み返そうという気持ちにあまりなったことはなかった。今読み返してみると、特に1巻からずっと通して読み返してみると改めてきわめて魅力的な作品だと思った。特に源博雅というキャラクターは実にほのぼのする。演奏家としては鬼神をも涙せしめる天才なのであるが。
『プーシキン全集』1巻を読み直す。抒情詩を読んでいると、やはりロシア語で自分なりに味わい、またそれを自分の言葉で訳してみたいという思いに駆られる。ロシア語の書籍を少し探してみようかと思う。
沼野充義「世界(文学)とは何か」。ダムロッシュのいう世界文学の三つの定義。1.世界文学は諸「国民文学」を楕円状に屈折させたものである。(国民文学というひとつの中心を持たず、外国文化というもうひとつの焦点を持つために、円でなく楕円になる、という意味らしい。そういう意味では日本文学は奈良時代から世界文学というべきだと思う)2.世界文学とは翻訳を通じて価値を増す作品である。(このテーゼは大きな可能性を持ちうる。「原書で読まないと本当の価値はわからない」という主張が翻訳を「必要悪」という位置付けにしてきたが、翻訳という行為を文学上に正当に位置付ける理論になりえる、可能性を持った主張だと思う。3.世界文学はカノン(文学全書的な目録)ではなく、モード(読み方)であり、さまざまな民族文学世界にある距離感を持ちながら関わっていくことである。(単なる多様性の肯定ではなく、読み手において求心力を持ちうる読み方が「世界文学」であり、「フランス文学」「ロシア文学」etcでなく「文学そのもの」に分け入る可能性を持つ、ということらしい。こうしたテーゼに基づく「世界文学科」の新設が沼野の意図なのかもしれない。)
今日は曇っているがだいぶ暖かい。ライブドア株が今日を持って上場廃止。教育基本法改正案のいわゆる「愛国心条項」の内容が固まったらしい。穏当な表現だと思うが、今日までそして明日から、どのような思惑が交錯しどのような論理が展開されて議論が進んでいくのか。
ランキングに参加しています。よろしければクリックをお願いします。
人気blogランキングへ
カテゴリ
- Bookstore Review (17)
- からだ (237)
- ご報告 (2)
- アニメーション (211)
- アンジェラ・アキ (15)
- アート (431)
- イベント (7)
- コミュニケーション (2)
- テレビ番組など (70)
- ネット、ウェブ (139)
- ファッション (55)
- マンガ (840)
- 創作ノート (669)
- 大人 (53)
- 女性 (23)
- 小説習作 (4)
- 少年 (29)
- 散歩・街歩き (297)
- 文学 (262)
- 映画 (105)
- 時事・国内 (365)
- 時事・海外 (218)
- 歴史諸々 (254)
- 民話・神話・伝説 (31)
- 生け花 (27)
- 男性 (32)
- 私の考えていること (1052)
- 舞台・ステージ (54)
- 詩 (82)
- 読みたい言葉、書きたい言葉 (6)
- 読書ノート (1582)
- 野球 (36)
- 雑記 (2225)
- 音楽 (205)
月別アーカイブ
- 2023年09月 (19)
- 2023年08月 (31)
- 2023年07月 (32)
- 2023年06月 (31)
- 2023年05月 (31)
- 2023年04月 (29)
- 2023年03月 (30)
- 2023年02月 (28)
- 2023年01月 (31)
- 2022年12月 (32)
- 2022年11月 (30)
- 2022年10月 (32)
- 2022年09月 (31)
- 2022年08月 (32)
- 2022年07月 (31)
- 2022年06月 (30)
- 2022年05月 (31)
- 2022年04月 (31)
- 2022年03月 (31)
- 2022年02月 (27)
- 2022年01月 (30)
- 2021年12月 (30)
- 2021年11月 (29)
- 2021年10月 (15)
- 2021年09月 (12)
- 2021年08月 (9)
- 2021年07月 (18)
- 2021年06月 (18)
- 2021年05月 (20)
- 2021年04月 (16)
- 2021年03月 (25)
- 2021年02月 (24)
- 2021年01月 (23)
- 2020年12月 (20)
- 2020年11月 (12)
- 2020年10月 (13)
- 2020年09月 (17)
- 2020年08月 (15)
- 2020年07月 (27)
- 2020年06月 (31)
- 2020年05月 (22)
- 2020年03月 (4)
- 2020年02月 (1)
- 2020年01月 (1)
- 2019年12月 (3)
- 2019年11月 (24)
- 2019年10月 (28)
- 2019年09月 (24)
- 2019年08月 (17)
- 2019年07月 (18)
- 2019年06月 (27)
- 2019年05月 (32)
- 2019年04月 (33)
- 2019年03月 (32)
- 2019年02月 (29)
- 2019年01月 (18)
- 2018年12月 (12)
- 2018年11月 (13)
- 2018年10月 (13)
- 2018年07月 (27)
- 2018年06月 (8)
- 2018年05月 (12)
- 2018年04月 (7)
- 2018年03月 (3)
- 2018年02月 (6)
- 2018年01月 (12)
- 2017年12月 (26)
- 2017年11月 (1)
- 2017年10月 (5)
- 2017年09月 (14)
- 2017年08月 (9)
- 2017年07月 (6)
- 2017年06月 (15)
- 2017年05月 (12)
- 2017年04月 (10)
- 2017年03月 (2)
- 2017年01月 (3)
- 2016年12月 (2)
- 2016年11月 (1)
- 2016年08月 (9)
- 2016年07月 (25)
- 2016年06月 (17)
- 2016年04月 (4)
- 2016年03月 (2)
- 2016年02月 (5)
- 2016年01月 (2)
- 2015年10月 (1)
- 2015年08月 (1)
- 2015年06月 (3)
- 2015年05月 (2)
- 2015年04月 (2)
- 2015年03月 (5)
- 2014年12月 (5)
- 2014年11月 (1)
- 2014年10月 (1)
- 2014年09月 (6)
- 2014年08月 (2)
- 2014年07月 (9)
- 2014年06月 (3)
- 2014年05月 (11)
- 2014年04月 (12)
- 2014年03月 (34)
- 2014年02月 (35)
- 2014年01月 (36)
- 2013年12月 (28)
- 2013年11月 (25)
- 2013年10月 (28)
- 2013年09月 (23)
- 2013年08月 (21)
- 2013年07月 (29)
- 2013年06月 (18)
- 2013年05月 (10)
- 2013年04月 (16)
- 2013年03月 (21)
- 2013年02月 (21)
- 2013年01月 (21)
- 2012年12月 (17)
- 2012年11月 (21)
- 2012年10月 (23)
- 2012年09月 (16)
- 2012年08月 (26)
- 2012年07月 (26)
- 2012年06月 (19)
- 2012年05月 (13)
- 2012年04月 (19)
- 2012年03月 (28)
- 2012年02月 (25)
- 2012年01月 (21)
- 2011年12月 (31)
- 2011年11月 (28)
- 2011年10月 (29)
- 2011年09月 (25)
- 2011年08月 (30)
- 2011年07月 (31)
- 2011年06月 (29)
- 2011年05月 (32)
- 2011年04月 (27)
- 2011年03月 (22)
- 2011年02月 (25)
- 2011年01月 (32)
- 2010年12月 (33)
- 2010年11月 (29)
- 2010年10月 (30)
- 2010年09月 (30)
- 2010年08月 (28)
- 2010年07月 (24)
- 2010年06月 (26)
- 2010年05月 (30)
- 2010年04月 (30)
- 2010年03月 (30)
- 2010年02月 (29)
- 2010年01月 (30)
- 2009年12月 (27)
- 2009年11月 (28)
- 2009年10月 (31)
- 2009年09月 (31)
- 2009年08月 (31)
- 2009年07月 (28)
- 2009年06月 (28)
- 2009年05月 (32)
- 2009年04月 (28)
- 2009年03月 (31)
- 2009年02月 (28)
- 2009年01月 (32)
- 2008年12月 (31)
- 2008年11月 (29)
- 2008年10月 (30)
- 2008年09月 (31)
- 2008年08月 (27)
- 2008年07月 (33)
- 2008年06月 (30)
- 2008年05月 (32)
- 2008年04月 (29)
- 2008年03月 (30)
- 2008年02月 (26)
- 2008年01月 (24)
- 2007年12月 (23)
- 2007年11月 (25)
- 2007年10月 (30)
- 2007年09月 (35)
- 2007年08月 (37)
- 2007年07月 (42)
- 2007年06月 (36)
- 2007年05月 (45)
- 2007年04月 (40)
- 2007年03月 (41)
- 2007年02月 (37)
- 2007年01月 (32)
- 2006年12月 (43)
- 2006年11月 (36)
- 2006年10月 (43)
- 2006年09月 (42)
- 2006年08月 (32)
- 2006年07月 (40)
- 2006年06月 (43)
- 2006年05月 (30)
- 2006年04月 (32)
- 2006年03月 (40)
- 2006年02月 (33)
- 2006年01月 (40)
- 2005年12月 (37)
- 2005年11月 (40)
- 2005年10月 (34)
- 2005年09月 (39)
- 2005年08月 (46)
- 2005年07月 (49)
- 2005年06月 (21)
フィード
Powered by Movable Type
Template by MTテンプレートDB
Supported by Movable Type入門