スコットとかアポリネールとか/瀬戸際外交の原点/回顧主義的な老人のアジアに対する不当な願望
Posted at 06/04/03 PermaLink» Tweet
昨日は一日雨風強く、ほとんど家の中にいた。午前中はまだ晴れ間もあり、何とか図書館に出かけてスコットを借りてきた。ウォルター・スコット・中野好夫訳『アイヴァンホー』(河出書房新社世界文学全集3-9、1966)、島村明訳『モントローズ綺譚』(松柏社、1977)。ついでに読みかけてるアポリネールも、ということでアポリネール『アルコール』(平凡社世界名詩集19、1968)も借りる。
スコットはちょっと読んでみたが、実に冗長ですごいものだ。現在の小説がどんどん長くなっているのはワープロ・パソコンの進歩によりいくらでも長いものが簡単に書けるようになったからだ、という説があるが、それに負けず劣らず冗長である。バルザックなどを読んでいると人物に直接関係のない描写が何ページも続いて痺れを切らせるが、スコットはそれどころではない。プーシキンがいかに簡潔な文章家だったかがよくわかる。プーシキンは詩人だから、と思っていたが、スコットだってもともとは詩人なので、それとは直接は関係ないようだ。
バルザックにしろスコットにしろなぜ長くなるかというと、背景説明が長大だと言うことにあるだろう。何しろ獅子心王の時代の話を始めるのにノルマン・コンケストからはじめるのでは大正時代の小作争議の話を始めるのに明治時代の地租改正から話を始めるようなもので、小説には当時はそういうお勉強的な、いわゆる「啓蒙的」な要素が強かったのだなとは思うが、こっちはもともと作り話だと思っているから最小限の雰囲気さえ分かればいいと思うので冗長に感じるのだろう。
そういう説明というのがうまく呑み込めたり興味をもてたりするとストーリイがはじまってからもうまく興に乗っていけるのだが、説明が全然つまらないと読む気をなくす。私がフランス小説が苦手なのはたぶんその辺だなと思いつつ読んだり投げたりしていた。
アポリネールの死の床で枕元にあったというローランサンの絵を見つける。ローランサンらしいが気持ちのよい絵だ。
『異端教祖株式会社』。題名からもそうだが、カトリック教会に絡むテーマの話が多い。特に聖体拝領のパンにこだわる話が多いのが印象的で、彼にとって信仰というのは相当重い問題だったのだなと思う。まだ三分の一ほど。
***
夜なんとなくテレビを見ていたらNHKスペシャルで北朝鮮の特集をやっていた。1968年のプエブロ号事件というのははじめて知ったが、大国ソ連も中国もアメリカも振り回す北朝鮮の瀬戸際外交の原点がこの事件にあったという話は興味深かった。アメリカの調査船プエブロ号が領海を侵犯したとして拿捕し、アメリカが謝罪しない限り乗員の解放に応じないとしたのだという。ソ連は米ソ直接戦争の危機に驚愕し、金日成をモスクワに呼びつけたが応じない。ソ連はアメリカに書簡を送って北朝鮮がコントロールできないことを半ば告白し、アメリカは折れて「謝罪に合意はしないが文書に署名はする」というでたらめな決着になってようやく乗員は解放されたのだと言う。このプエブロ号は今でも平壌に係留されていて、「アメリカ帝国主義に朝鮮人民が勝利した」教材として用いられているのだと言う。
ソ連側の関係者が「このような政権と関わりを持たないほうがいい。北朝鮮はソ連にとって常に頭痛の種だった。」といっているのが印象的だった。結局ヨーロッパの共産主義者はアジアに手を突っ込んで金日成や毛沢東、ポルポトといったとんでもない独裁者・虐殺者を間接的に生み出してコントロールが出来なくなっている。なんだかんだ言って、ロシア人はそうしたアジアの国々の人々より相当人がよく、操っている気でいて操られているように思えてならない。
安倍官房長官が胡錦濤の発言について、「政治目的を達成するために(首脳同士が)会わないというのは間違っている」とまっとうな反応。中国側のどたばたや恫喝、「日中友好団体」の醜態に比べて安倍氏の姿勢はきわめて筋が通っている。北朝鮮の瀬戸際外交的な滅茶苦茶は誉められたものではないが、中国の何もかもを怖がったり受け入れたがったりする「日中友好団体」もどうだろうか。
こちらの方の日記を読んで思ったが、日本人にとって東アジアの人々の方が欧米の人々より理解しあいやすいと考えるのは確かに「回顧主義的な老人」のあまり正当でない願望なのだと思う。戦後60年以上全く別の道を歩んできたそれぞれのアジアの国々と、そう簡単に腹を割った付き合いが出来ると思うのはある種の妄想だろう。欧米との付き合いももちろん気疲れのするものだが、アジア諸国との付き合いに「癒し」を求めるある種の「甘え」が古い世代にはあるような気がしてならない。「外国である」という点で、アメリカでもイギリスでもアルゼンチンでも韓国でも変わりはしないという乾いた認識から出発しなければ、外交は失敗に終わると思う。
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