弱さに対する共感/京大教授が懲戒解雇
Posted at 06/03/29 PermaLink» Tweet
昨日帰郷。特急の中では少し書き物をし、残りの時間はうつらうつらしたりレールモントフ『現代の英雄』を読んだり。プーシキン的な設定が多いが、中身は全然違う。感覚の鋭い、若いとんがった詩人という感じである。倦怠や無感動と自分自身に対する怒りのようなもの、悪を働かずには生きられない異民族・庶民への同情というより共感のようなものがあり、このあたりが好き嫌いはともかく「近代的」な感じがする。プーシキンの共感はもっと人間存在そのものに対する共感なのだが、レールモントフの共感は相手の「弱さ」に対する共感なのだ。つまり自分が傷つきやすい弱さをもっていると認めた上での共感なので、ずいぶんナイーブな印象になっている。しかしそれが近代文学のある精神を表しているのは確かだろう。ある意味でプーシキンがポジならレールモントフはネガだ。プーシキンが源氏ならレールモントフは宇治十帖の匂宮と薫を足して二で割ったような感じだ。ヴァルネラビリティへの共感という話になると、文学は無限の迷路に入っていってしまうが、まだレールモントフはそのラビリンスの入口という感じなので読みやすいのだと思う。まだまだ伝奇的ものを扱うのが物語だという観念が強く、その出し方も「レールモントフ好み」みたいなところがあって、その趣味は結構面白い、と思う。
しかし、結局小説や物語において伝奇的なものへの志向というのは、お話の面白さを確保する必要性がどうしてもあるために、結局は切り離せないものなのだなと思う。読者がよく知らない何かが語られることによってしか、読者の興味をつなぐのはなかなか難しいだろう。で、人の心というものへの興味というのも結局はそうした伝奇的な興味なのではないかという気がする。人がそれに思い入れをしたり共感したりするのは勝手だが、思い入れは誰にでもできるわけではない。しかしその伝奇的な面白さを感じることは割合容易なことなので、必ずしも思い入れをすることができない人との間でも、読書体験を共有することができるということになる。
ただ最近思うのは、文学の本当の面白さというのはそういう共感云々のところにあるのではなくて、面白いと感じるまさにその感動にあるのだと思う。本当は安っぽい共感など文学に有害無益なのではないか。文学が世界を変え得るというような錯覚が持たれるに至ったのは、そういう共感というものの持つ「魔」ではなかったかと思う。
「少将滋幹の母」は少ししか読んでいない。でも谷崎もやっぱり面白いな。
***
京大教授が懲戒解雇。以前は懲戒免職だったと思うが、法人化して民間企業並みの呼称になったということか。免職というのは公務員用語だったんだな。
朝日新聞社長長男、大麻だけでなく麻薬も所持していた。これはだめだな。
中国での高地合宿で水泳のホープが死亡。高地トレーニングというのはよく聞くが、安全対策はどうなのか。他の国で合宿した方が医療設備がきちんとしていたのではないか。最近距離的に近く費用も安いせいか中国でこうしたことがよく行われているような気がするが、あまり安易にやらないほうがいいという警鐘なのではないかという気がする。事故が起こった原因とその対処が万全であったのかどうか、よく検証した方がいいのではないか。合掌。
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