フィリピン大統領府で爆発/残念!女子カーリング/「天使ガブリエルの歌」と筋金入りの自由主義
Posted at 06/02/21 PermaLink» Tweet
フィリピン。レイテ島で大規模地滑りが起きて大変だと思っていたら、マラカニアン宮殿で爆破があったそうだ。フィリピンに注目しているわけではないのでよくわからないが、アロヨ政権も揺れていると言う印象だ。社会構造的な矛盾や政治的な対立などさまざまあるのだろうが、今までそんなに物騒な印象はなかったのだが。
関係ないが、アロヨという人を頭の中で思い浮かべようとすると、コンドリーザ・ライスになってしまう。似てるのは髪形(分け目?)くらいなのだが。
カーリング女子。スイスに第8エンドで圧倒的な差をつけられ、ギブアップ。残念ながら4強はならなかったが、トリノの大会で今のところもっとも印象に残る競技になった。この大会でカーリングというもののルールや試合の見方を知った人も多いのではないか。主将の小野寺の意志の強い表情が印象に残る。人間と人間の戦いという感じで、この競技は面白かった。
昨日はプーシキン全集を読んだり、気分転換に出かけたり。読むものはたくさんあるので新しい本は買わなかったが、カルヴィーノというイタリアの作家の『なぜ古典を読むのか』という本を立ち読みしたら面白かった。大人にとって古典とは「初めて読む」ものではなく「読み返す」(と発言する)ものだが、実際には古典と呼ばれるものを全て読んだ人などいない、というのは絶対的な真実だなと思って面白かった。何という人だったか、大学の講義でゾラについて質問があまりに多いので腹を立ててゾラ全集を全て読んだらゾラの作品の巨大な宇宙論的な構造に気がついて批評の名著を残したと言う例が上がっていたが、初めてであれ読み直しであれ、「大人」が古典を読むということは青年時代の自己形成のための読書とは違う意味で非常に生産的であるということにはプーシキン漬けになっている自分自身を省みて非常に賛同できる。彼のプーシキン論があれば買おうかと思ったのだが、なかったのでまたの機会ということになる。でもカルヴィーノ、覚えておきたい(なんか私にとって覚えにくい名前なのだ)。
『プーシキン全集』は主に1巻の物語詩、『コーカサスの捕虜』と『天使ガブリエルの歌』を読む。『コーカサスの捕虜』は文学史的にはバイロンの影響やロシア文学の主要な題材になる「余計者」の原初的な性格、南方幻想、自由な民の幻想などさまざまな要素が入っていて検討課題としては面白いのだろうが、作品としてはあまり面白いと思えない。人物の造形が中途半端だし、主題も錯綜し、また『ルスランとリュドミーラ』的な伝奇的要素と人物造形とバイロン的な自我放出とが衝突しあってしまっていて、結果として何を描きたいのか分からない作品になっている。
それに対し、『天使ガブリエルの歌』はすごい。読み終わったあとに放心してしまった。何を考えているのかプーシキンは。内容的にはちょっと書くのがはばかられるが、(いや、「天使ガブリエルの歌 プーシキン」で検索すればどういう内容かはすぐ分かるけれども)時まさにムハンマド風刺画問題で世界中大騒ぎの現在から見ると、聖母マリアや創造神そのものを虚仮にしたととられてもおかしくない内容を19世紀の頭に書いているのだから呆然としてしまう。もちろん出版はされていないし、現在でも西欧諸語には翻訳もされていないと解説には書いてあるが、うーん、『ゴダールのマリア』である。って実はこのゴダールは見てないんだけど。
プーシキンという人は無神論者だとは思えないが、勢いでこういうものを書いてしまう人なんだなと寝て起きて考えてみると思うのだが、だからといってやはりそういうものを書くのはそういう「時代の雰囲気」のようなものがあったと考えるべきだろう。すぐに思い出されるのはヴォルテールに代表される啓蒙思想、プーシキンも影響を受けていたらしいフリーメーソンの自由思想、そういう18世紀のリュミエールの時代の影響だが、ドイツ神秘主義に傾いていったアレクサンドル1世に対する批判という意味が考えられているらしい。
原稿はプーシキン自身が焼き捨てたと言うが、筆写で相当出回っていて、ニコライ1世もどうやら目にしたと言うから、プーシキンも観念しただろう。このあとニコライ1世がじきじきに検閲すると言う展開となり、プーシキンの「検閲との戦い」が始まるわけである。でもこんなもの読まされりゃ検閲したくもなるよな、というかこれでシベリアに送られなかったのだからロシアとはいえヨーロッパの世俗主義、冒涜の自由さえ認めるヨーロッパの表現の自由、自由主義というものの筋金を認識せざるを得ない。ムハンマド風刺画問題もこれはそうとうな亀裂を生み出しそうだと改めて思った。
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