「未完の作品」の持つ魅力
Posted at 06/02/17 PermaLink» Tweet
午前中(昨日)は松本へ。午後は立ち会わなければならない用事があり、夜にかけてずっと仕事。それなりに忙しい。
「ドゥブローフスキイ」。資産家の貴族と貧乏貴族の友情が些細なことで崩れ、資産家の策略により貧乏貴族は破滅する。その息子は復讐を近い、手練の盗賊となって…というロマン主義的なストーリー。神出鬼没、変化自在の主人公の造形は魅力的。最後はヒロインが「オネーギン」のタチヤーナと同じせりふを口にすることになる。それですべてが終わるところがまた格好いい。キューブリックの映画で見た『バリー・リンドン』を思い出したり。この小説は未完と見られているようだが、ここで完結するからいいのではないか、と私は思う。
まあいろいろな事情が解説では語られているが、そのためか非常に未整頓な印象があり、カオス的にさまざまな魅力が横溢している。貧乏貴族が破滅する裁判の場面の長大な判決はさすがにろくに読む気にならなかったが、解説によるとこれは実際の判決を名前だけを変えて引用したものらしい。歴史をやるものならこういう文章の方により興味を覚えなければならないのかもしれないが、ちょっとだめだ。
「キルジャーリ」。これも盗賊の話。これは貴族出身ではなく正真正銘の大盗賊。大変短い話で、とにかく痛快ならよい、という感じ。最初読んだときはちょっともたもたしている感じを受けたが、うまく語り口にのれなかったからだろうという気がする。まあ痛快だからいい、ということではないかと思い返す。ギリシャ独立戦争などに触れている部分が歴史的な意味での興味をそそる。この盗賊と独立戦争の関係は完全に創作であるようだが。
「エジプトの夜々」。「詩人の魂」がテーマの短編で感動した。ロシアに詩人という職業はない、詩人は皆誇り高き貴族である、というプーシキンの誇らかな宣言。クレオパトラが一夜の快楽をともにした男性を処刑するという話をテーマにした即興詩人(が歌ったという設定の)の詩と、詩人は風のように、荒鷲のように、乙女の心のように、掟のない自由な存在であると宣言する詩と、その額縁のようにロシアの貴族詩人とイタリアの即興詩人をめぐる交渉の小説部分から成る。詩と小説それぞれが別の成り立ちを持っているということに驚くくらいこのアマルガムはよく出来ている。これもいわば未完であるが、こうなってくるといったい何が完成で何が未完なのかよくわからなくなってくる。文学における完成とは何か、未完とは何か、ということについて小一時間くらいは議論を聞いてみたい気がする。
「別荘の客」。ロシアの上流社会、社交界に関するストーリーで、これまたプーシキンの貴族観がよく現れた作品。これはまあそれこそ未完なのだが、「社交界の不文律として、もっともらしさは真実同様に通用する」とか、警句として面白いなと思うくだりが見られる。プーシキンは本当にたくさんのものを未完のままあの世に持っていってしまった詩人・作家だなと思う。それでいて『ロシアの国民詩人』なのだ。完成したものの持つ均整の取れた魅力と、未完のものの持つ暗示力。やはり小一時間くらいではすまないかもしれない。私はよく知らないが、きっとこれは文学においては一つの大きな議論の中心になっているのだろうなと思う。
***
男子フィギュア、高橋は8位。女子パシュートも転倒で拾った僥倖を転倒で失って4位。まあ仕方ないだろう。しかしニュース映像を見ただけだが、スノーボードクロスという種目はすごそうだ。スノーボードでモトクロスをやる、ということらしいが、これはわくわくする。野蛮である。
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