文芸と生の実質/日本の国民詩人は誰か
Posted at 06/01/30 PermaLink» Tweet
すぐ違う作品に横ずれしていってしまっていけないが、プーシキン『エフゲーニイ・オネーギン』は第3章を読了して第4章に入っている。『カルメン』とは全然違う女性像。当たり前だが。しかし『カルメン』の作者メリメはプーシキン『スペードの女王』のフランス語への翻訳者で、一時はプーシキンに仮託したメリメの作品だと思われていた、というくらいなので二人の個性や嗜好は近いものがある、ということは感じる。この線の作家はたぶん私は好きだなとだいぶ文芸上の自分の好みも自分なりに理解されてきた。
プーシキンを読み始めて以来、人間の生の実質というものはこういう文芸の中にこそあるのではないかと思い始めていて、というのはつまり歴史や政治、社会学的なものを読んでも生というものの実質や中身、というものに手が届かない、という感じがあったのが、こういうものを読んでいるとそれをダイレクトに鷲掴みしているような感覚や自信が起こってくるのである。自分はやはり言語によって世界を把握するタイプの人間なのだなと思うし、そういう意味で文芸というのは最大の協力者であり羅針盤なのだなと心強く思う。今まで文芸に対してこういう感触や興奮を覚えたことがなかったのが不思議なくらいだが、まあこの年まで生き延びてきたからこそ理解できる種類の感覚や感情や感慨のようなものは沢山あるし、文芸も若い人だけの特権というわけでもなく、読み始めたとき、面白いと思ったときが適齢期なのだと思う。
まあそんなことを感じ考えながらいわゆる文学、文芸を読み続けている。歴史や社会学の本、つまり学問的な本と違い、感じること、考えること、頭を駆け巡るさまざまなことがひとつではないところが文芸の面白いところであり大変なところだ。夢も頻繁に見るし、自分なりに受け止め、解釈し、消化するのに体中の力を必要とする感じである。学問というのはこういう雑多な力を方向付け、整理するためにはいいが、こうした混沌としたものの持つ得体の知れない莫大なエネルギーのようなものがない。こういう莫大なものを受け止める力が若さというものだと思うが、だからこそ文学というものが若者のものだと受け止められていたのだろうと思う。私も四六時中文学に耽っているわけにも行かないし、時間的な計画をきちんとして読まないとからだを壊しそうな感じがする。年をとってから年をとってからの読み方があるという感じである。
***
プーシキンはよくロシアの国民詩人といわれるが、他の国の国民詩人と言ったら誰なんだ、とちょっと調べてみるとギリシャはホメロス、ローマはヴェルギリウス、イタリアはダンテ、イギリスはシェークスピア、ドイツはゲーテ、とまあここまではそうだろうなと思う。フランスはヴィクトル・ユゴーだそうで、ユゴーの詩というのはほとんど読んだことがなく、ちょっと読んで見なけりゃなと思う。で、日本の国民詩人というのは誰だろう、と少し考えてみる。
歌聖といえば柿本人麻呂、山部赤人ということになるがさすがに古いか。国民文学の祖といえば『源氏』だが詩人というのとは少し違う。紀貫之は、と思うと「貫之は下手な歌詠み」という子規の批判が引っかかる。もちろん批判されるに足る存在感があるが故なのだが。私は西行かな、と思ったが、まあ好みもあろう。松尾芭蕉、という線もあるが枯れすぎているか。
で、ウェブで調べてみると、どうやら一番国民詩人として認知度が高いのは北原白秋らしい。うーん、そうかなあ。
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