『コーチングの技術』/夜見た夢/価値を見抜く直感
Posted at 06/01/13 PermaLink» Tweet
昨日。昼前から出かけて松本で仕事。30分ほど電車に乗るので何か読もうと本棚を探す。『源氏物語湖月抄』を持っていけばいいのだが、ちょっと分厚いのと重いのとでやめて、本棚にあって買ったまま読んでいなかった菅原裕子『コーチングの技術』(講談社現代新書、2003)を持っていく。読む気になるかどうか危ぶんだのだがこれが面白い。電車の中では最初外の景色を見たりしながらあまり読んでいなかったのだけど、仕事場についてから食事をしても時間が余っていたのでストーブの横でずっと読んでいた。帰りの電車でも読み、結局昨日のうちにすべて読了した。
息は腰が痛いのを危ぶんで仕事場まではタクシーで行った(何しろノートパソコンを持っていくと鞄が重くなるので2キロを超える道のりはちょっときつい)のだが、帰りは歩けた。今でも(13日朝)少し疲れが残っている感じはあるが、何とか大丈夫だった。
「コーチング」というものを始めて知ったのは以前読んでいた『週刊アスキー』の「カオスだもんね」というレポートマンガで取り上げられていたのが初めてで面白いスキルだなと思っていたのだが、その起源はティモシー・ギャロウェイの『インナー・ゲーム』だということを知ってなるほどと思う。『インナー・ゲーム』自体は読んだことはないのだが、話にはよく聞いていた。このコーチングという技術、一度本格的に勉強してみようと思ったことがあって、そのときにこの本も買ったのだが、ネットで調べると研修で50万以上かかることがわかり、嫌気がさして関心を失ったのだった。それを商売にしようというならその金額も当然だが少し勉強してみようと思う程度では敷居が高い金額ではある。
内容的にはアメリカ的な言葉遣いがどうも引っかかるのだが、社員・部下の自立援助というものをこれだけ合理的にシステム化するというのはやはりアメリカならではだなと思う面もある。
第3章「コーチングの技術」の「教化の技術」の項では、動物というものは「強化の原理」をもって物事を学習している、水道の蛇口をひねれば水が出るので、人は水を得るために水道の蛇口をひねることをおぼえる、この水のような「望ましいもの」を「好子」という、どこかで聞いたような話が出てくるが、なるほどこの説明はわかりやすいと思った。カレンプライア『うまくやるための強化の原理』からの引用だそうだ。
まあどこがどうということはいえないのだけど、この本を読了してなんだか自分がかたくなだった部分が少し溶けた気がした。夜みた夢は昔の友人が演出し私の書いた台本で芝居をやって音楽を坂本龍一がつけるという話が出ているという夢だった。考えてみれば彼はもうそういう話があってもおかしくない立場であるし、私自身は最近の坂本龍一というのはそんなに好きではないが、昔はずいぶん聴いた人でもあるし、もしそんなことが起こったらとても光栄に感じるだろうなとは思った。おそらく夢の中の方が現実の自分よりはずっと素直なのだろうと思う。
自分のやりたいことは何か、というのも改めて自問自答したり。すぐに出て来た答えは、価値を見極める目を持ちたい、ということ。自分自身がそうした価値あるものに囲まれて暮らしたいという気持ちもあるけれども、その価値について記述する力がもてれば、その文章自体が読む価値のあるものになる。自分が小林秀雄や白洲正子の文章に感じるものはやはりそうした「目」と文章の力であって、最近源氏などを読もうという気になっているのもそこには『価値あるもの』があると感じるようになってきたからだと思う。価値というものは伝統の中にある、という気持ちが最近特に強い。
というか、見極める「目」というより「感覚」というべきかも知れない。つまり、価値あるものに対するとふっと「好ましい」という感情が生じ、贋物に接したら「好ましくない」という感情が生じるような、そうした感覚が持ちたいと言うことだと思う。好き嫌いだけで曇りなくすべてのものが見抜けるなら、そういうことがありえたら私向きかなと思ったり。直感で価値を見抜くと言うことが要するにFeel in my bonesということなんだけどね。
「べき」とか「聞き耳」の話がこの本に出てくるが、つまりは先入観とか固定観念ということなのだけど、確かにこの「べきの世界」にいると身動きが取れなくなるのは事実だなと思う。しかし価値というものは「べき」の世界の近くにあるものなので、「べき」にとらえられやすいのもまた事実だ。「べき」にとらえられると現実の酷さが非常に目に付くようになるし、そうなると必然的に悲観的になり、そうなるとエネルギーが失われる、という悪循環が繰り返すことになり、本来到達すべき価値からかえって遠ざかってしまう。
そのときの自分の力で無理なところからは潔く撤退するのが正しいあり方なのだが、ここでもまた「べき」の世界が絡み付いてくると話はこじれる。しんがり戦と言うようなものだが、撤退の技術、というものもまた語られる必要があることではないかと思う。
夜は読了したあと、少し『湖月抄』を読み、ヘッセの『庭仕事の愉しみ』を読む。欧米人が寝る前に少し聖書を読むようなものだなと思いながら就寝した。
メモ。ダイアルアップの接続状況が酷い。最近妖精さんが無言で訪れることが多い。日記才人を知らない人にはどうかしたかと思われるか。
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