人の道はいかなるものぞ/右翼と左翼の違い/浅田真央をオリンピックに出さない論理
Posted at 05/12/19 PermaLink» Trackback(1)» Tweet
昨日は昼前に久しぶりに神保町に出かけ、三省堂で仕事に必要な本を買い、和風クリアファイルというものを『風神雷神図』『鳥獣戯画』『梅に箙文様友禅』の3点買った。ブックマートでマンガを物色していたら以前どこかで読んだことのある高瀬理恵『公家侍秘録』(小学館)の新しい巻が出ていて、ちょっと考えて第1巻だけ買ってみた。喫茶店に入ってビーフシチューを食べながら浅田真央の特大写真入のスポーツ新聞を2紙読み、『公家侍秘録』を簡単に目を通す。前にも思ったが、考証という点ではどうかなと思うところはあるのだが、まあマンガとしてみれば許容範囲かなという感じでそれなりに面白い。ただ、お姫様とそれに仕える青侍が肩を並べて町を歩くのだけはどうしても違和感がある。そういうことってあり得るのだろうか。日本橋に出てプレッセで珈琲などを買い、丸善で買い物をして帰る。
家に帰ってきてからネットを見たり小林秀雄『本居宣長』を読んだり。補遺を含めてようやく読了した。いったいどのくらいかかったのだろう。今までの読書経験でも相当な高いハードルだったが、学んだものも実に多い感じがする。
伊勢の神宮の、内宮の神はもちろん天照大神なのだが、外宮の神が豊受大神であることが中世以来疑問視されて、天御中主神や国常立神などが比定されて来たわけだが、本居宣長がそれをきっぱりと否定するところが面白かった。つまり、何物にも勝る本来の無常の宝は食物である、ということは上代の人々にはきわめて自然だったと言うのである。何者も命がなければ何事も為しえず、そのいのちを保つものは食べ物であり、その徳は無上だというわけである。唯物的とさえいえるその思考はあっけらかんとしているが、きわめて説得力があるように思った。旧陸軍がインパールやビルマの奥地での戦闘の際、この宣長の考えを少しでも思い出してくれたら悲劇も少しは減ったのかなという気さえする。
結局、宣長の、あるいは小林秀雄の学問の、あるいは人間の最も根本的なところにあるのは、「人の道はいかなるものぞ」という問いかけにあった、ということはある新鮮な驚きがあった。一見当たり前のようなことだが、現代の人間で、「人の道はいかなるものぞ」という問いかけを持って暮らしている人間がいったいどれだけいるだろうかと思うと、現代に何が欠けているかということがはっきりする。人の道がいかなるものか、誰も答えることが出来ないし、答えられる者はからごころ=偽者だと言うのが宣長の、そして小林の主張するところだと思うし、私もその通りだと思う。だから、人の道というものは、「人の道はいかなるものぞ」という問いかけの中にしかあり得ないのだ、と思う。その問いかけを持って暮らしているかどうかということだけが人間を人間足らしめているのだと思うし、そうでない人があまりに多くなりすぎたがゆえに現代社会が人の世というよりは修羅の世でありあるいは畜生、餓鬼、地獄の世になりつつあるのだと思わざるをえない。
そしてもうひとつそうだなと思ったのは、「物語」の大事さである。その「人の道はいかなるものぞ」という問いかけに答えるために、無数の物語を人間は生み出してきたのだ、ということを彼らは強調しているし、私も強くそう思う。日本の古代人が自らその問いに答えるために生み出したのが古事記の物語であり、それぞれの国の、それぞれの時代の人々がその問いに答えるために多くの物語を生み出してきた。私がナルニアの物語に引かれたのも明らかに、そこにはルイスの考える「人の道」が書かれていたからだ。
宣長や小林に自明であったその問いの存在こそを、今のわれわれは取り戻さなければならないのだと思う。人の道はいかなるものぞ、という問いをその心中にしっかりとすえることができたら、今日本で起こっている陰惨な、あるいは恥ずかしい事件のほとんどは、あるいは親米ポチと呼ばれるようなアメリカ人の出来損ないのような発想は起こらないのではないかと思う。
私がなぜ歴史を選んだのかということを今思うと、歴史学というものよりも「物語」の語りだす「人の道」というものに強く引かれたからなのだとようやく得心がいった。歴史学者や歴史研究者になりたいのではなく、歴史家になりたいのだと昔から思っていたが、歴史家のみが本当に人の生きた物語を紡ぎだすことが出来ると私自身は信じていたからなのだと思う。物語とその語り方には、その人の全てが現れる。日本の歴史の語りこそが、日本および日本人というものを描き出し、われわれとわれわれの祖先たちがどのように人の道を考えてきたかを知ることが出来るただひとつの方法なのではないか、そんなふうに私は今思うようになった。
ものそのものを愛すること。
西部邁が左翼はイデオロギーで全てを考えるところが嫌いだし、右翼はものそのものを信仰しすぎるから苦手だ、というようなことを言っていて、それはいいえて妙だなと思った。天皇とか、日の丸とか、君が代とか、そうした「もの」に強いこだわりをもって硬直化してしまうところが右翼と呼ばれる人たちの発想にあることは確かだ。しかしそれがこだわりではなく愛であり、その対象が具体的な「もの」ではなく物語であったのなら、もっともっと保守という思想や愛国心というものは自由になるのではないかと思う。もちろんそのものを愛すると言うことはとても大事なことだと言うことは譲れないことではあるのだけど。
女子フィギュアを見ていて、浅田真央がとてもよく、荒川がどうもあまりよくないなと思い、安藤もそうなりつつあるなと思うのは、気の強さとか根性というようなものが面に出てくるとフィギュアスケーターとしてはどうも見苦しいと私などは思うからだと思う。そういういわば人間的な情欲というかさかしらなからごころ(笑)が出てくるとテレプシコール、すなわち美と踊りの神から祝福された存在ではなくなってしまうからなのではないかという気がする。
浅田真央がオリンピックに出られるように日本側が働きかけないと言うことに、多くの人から疑問が提出されているようだが、日本側の答えはトリノに向けて強化してきた選手が出られなくなるから、というものらしく、非常に日本的な感じがする。いくら体協が強化しようと、それ以外にもっと強い選手が出てきたらそれを推薦するのが当たり前ではないかという気がする。若い才能、今一番輝いている才能が一番大事な舞台に出るのが一番自然ではないか。そこで変な情念が絡んでくるところが今の日本の一番よくないところなのではないかという気がする。もちろん私も日本人だし高校教育に携わっていたこともあるから気持ちは分かるが、それでは強くなるものもならない。
だいたい、美の女神に祝福されたものを「強化」するなんて発想が、本当は間違ってるのではないかな。もちろんこれだけの才能が次々に日本女子フィギュアに現れたのは関係者の努力に負うところだと私も思うけれども、だからと言って選考に関しては「今までの努力」みたいなものにあまりこだわりすぎてもいけないのではないかと思う。一番美しく、一番華やかで、一番人を感動させるスケーターが大舞台に出る。野球は感動産業だ、というのはなくなった仰木監督の言葉だが、スポーツというものは全て、感動産業であるはずだ。
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from オリバコヤ at 05/12/20
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