姉歯という「下請けの悲劇の象徴」と日本人の根深い根本的なニヒリズム

Posted at 05/12/18 Trackback(2)»

テレビを見ていたら、仰木監督は「ぶったおれ宣言」を出しているんだ、と語ったビデオが流れていた。死因は肺癌だったという。酒も煙草も存分に愉しんで、オリックスの監督を引き受けたときも、グランドで倒れてもいいと思って引き受けたのだなと改めて思った。サムライだなんだと言う言葉は気恥ずかしいけれども、本当の意味でそういう言葉を使って見たい人だと改めて思った。

談志の『言いたい放題』のことを先ほど書いたが、日本人は姉歯に同情する人が多い、といっていた。ある種の「下請けの悲劇」の象徴みたいな感じになっているのだな、と思う。最初に引き受けたときにはともかく、ずぶずぶと不正の深みに嵌って行くと、「ここでやめたら命も危ないし家族も危ない」と思うときがやってきて、やめることができなくなったのではないかと言うニュアンスのことを言っていたが、そうかもしれないなと思う。その最初の選択がいかに重いかということも思うが、命がけで足を抜くと言うことも出来なかったのかと私などは思う。まあ首尾よく足が抜けたところでその先の人生があるとは限らない、という気持ちにとらわれたのは私などにも理解できる。異常な世界の中にいたらまともな考え方は確実に傷ついているし、「一般社会の常識」も狂いつつある今、どこにもどって行けばいいのかもみえないかも知れないと思う。

彼ほどではないが私も高校教員をやっていたころは異常な世界にいると思っていたし、それをやめて思想的なリハビリをするのに物凄い時間を費やした。今ではフラッシュバックのようなものはほとんどないが、四六時中属している仕事での傷と言うのは人間性の相当深いところを傷つけるものだと思う。

ただ、先ほども書いたが、こういう構造的な問題は、アメリカに恫喝されて日本が内的に狂おしいものを抱えながら表面上は唯々諾々と従属している構造と嫌になるほど相似形なのである。日米開戦に至った昭和16年に感じていた日本人の重苦しさも、きっと似たようなところがあったのだろうと思う。誰も彼もが開戦の知らせに重苦しいものが晴れたような気持ちがしたのはそのせいだったのだろうが、敗戦の結果はもっとこてんぱんに徹底的にアメリカに搾取される構造が出来上がったに過ぎなかったから、日本人に抜きがたいめちゃくちゃに深い傷を持ったニヒリズムが宿ったのもある意味しかたがないのかもしれないと言う気もする。

その傷を直視せずに社会主義の幻想によっていられるころは思想的にある意味安定していたのだろうが、社会主義という幻想の麻薬が切れてしまえば現実的なアメリカとの見たくない従属関係を直視せざるをえない。そのために対米関係では数々の欺瞞的な言葉が溢れている。米軍基地整備のための「思いやり予算」などはその際たるもので、米軍側では「ホスト国予算」、すなわち米軍の世界戦略により「恩恵」をこうむる諸国の「応分」な負担、というふうにしか考えていない。思いやりなどと言う一見日本が有利に立ったかのような言葉によって実態を見えなくしているに過ぎない。しかしそれも、狂おしい現実を見たくない多くの日本人が自ら眼を塞いでいる「悲しい眼帯」なのだろう。

眼を見開いて現実を見る、というのは辛いことだと思う。そうして見ている人の発言に対して、「どうせアメリカにはかなわないんだから変なこというな」とか「現実的にアメリカに取り入った方が得だ、アメリカ様のご機嫌を損ねるようなことを言うな」というのが強い状態は、日本のために悲しむべきことだと私は思う。

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