アメリカという存在はなぜ迷惑なのか
Posted at 05/12/14 PermaLink» Tweet
信州の朝は寒い。ここのところ東京も相当寒くなっていたが、朝方の寒さは比べ物にならない。FMからはグリークの「ノルウェイの旋律」。寒い国の音楽が妙にマッチする。
昨日は少し早めに家を出たので丸の内の丸善でヘルマン・ヘッセの『庭仕事の愉しみ』(V・ミヒェルス編・岡田朝雄訳、草思社1996)を買う。店内の検索機で調べたら在庫僅少になっていたが、それでも98年の刷が今でも残っていたのだからたいしたものだなと思う。24刷かかるような本を私も出してみたいものだと思う。
朝は友人からもらった粕汁を飲んで出たので昼はサンドイッチで済ます。トマトに胡椒が利いていて美味しかった。どうしても、本当に旨いと思うものを食べられる食事というのはそうないのだが、偶然でもそういう食事が続くと人間は幸福を感じるものだと思った。
特急の車中で『無思想の発見』『本居宣長』『庭仕事の愉しみ』をかわりばんこに読むがだんだん疲れてきてほとんど居眠りをしていた。野口整体では居眠りは活現運動の一種だから体に良い、ということだからまあよしとしよう。午後から夜は仕事。(あ、トゥオネラの白鳥だ。シベリウス。北欧シリーズだな。)懇々と話し聞かせるようなことになったが、相手にプラスになっただろうか。
しかし寒いな。キーボードを打つ手がかじかむ。
ヘッセの『庭仕事の愉しみ』を読んでいると、世界中の人がアメリカ人とは何と迷惑な連中だろうか、と思っているのだなと思う。アートの話になるとアメリカ人というのはほとんどまともに相手にされていない。「音楽的才能が蓄音機を操作することであったり、きれいにラッカーを塗った車を美の世界に入れたりするアメリカの現代人に―この程度で満足している欲のない人たちに、ためしに一度、一輪の花の死を、ローズからライトグレイへの色の変化を、この上もなく生き生きしたものとして、刺激的なものとして、すべての生命あるものやすべての美しいものの秘密として共に体験するという芸術の授業をしてごらんなさい。彼らはびっくりするでしょう。」とヘッセは書いているが、本当にびっくりしてくれるようならいいのだが、と私などは思う。
なんというのか、狂牛病の問題などを見ていると、アメリカ人というのは確率で考えることを科学的だと思っているのだなと思う。きわめて低い確率だ=安全だという説得は、食の安全に関しては日本人には通用しない。「確かにゼロの確率ではないが、このような万全の措置を施しているから大丈夫だ」という「万全」というのは確率の問題を超えて誠意の問題である。アメリカ人はこういうところで誠意を語ろうとしないから日本人は受け入れられないのだろうなと思う。生後二〇ヶ月たっているかどうかは「肉の色で判定する」というが実際にはどのようにして判定を下すのかの説明がはっきりない(この判定の仕方が「科学的」に説明されているのだろうか)あたりが一番引っかかるのではないだろうか。どうも私には、アンパイヤがストライクとボールを判定するくらいのものに思われてしまう。黒人がバッターだとストライクゾーンが広くなってしまうような国で日本向けの輸出として正確に判定が行われるのかとか、まあそういうのは邪推というものだが、口には出さないがそういう邪推は日本の大衆側にも数々あり、それがアメリカに対する抵抗につながっている。
もちろん日本の「誠意」というのも建築確認偽造問題などを見ていると実態は酷いものだと思うが、しかし現実にはそういう点では醒めている面も日本人にはある。つまり「最初に約束するとき」に誠意があれば後は案外気にしないというか仕方ないで済んでしまうのが日本なのである。牛肉輸入再開問題はその「最初のとき」だから気にしているのであって、どの段階で厳密性を求めるかというのは科学というより文化の範疇である。日本人は誠意と保証を重んじ、アメリカ人は確率と自分でリスクを負っての判断を重んじる、とでも言おうか。そのあたりで日本人が非科学的だというのは問題のすり替えだと思う。というかそのようにしか認識できないような頭の出来…いややめておこう。
まあそんな風に考えると、アメリカ人の生き方などというものは日本人から見たら博打のようなものであって、リスクというものに関する考え方が根本的に違うのだと思う。
アメリカ人が確率的思考になるのはやはり歴史がないせいなのかなという気もする。7世紀に建立された木造の法隆寺が現在も実際に寺として機能しているというのもそう不思議に感じないのが日本であって、1300年間手入れさえきちんとすれば使えるものを建築するときに確率の問題など考えていたはずがない。松戸に戸定邸という旧水戸藩主家の屋敷があるが、それが明治最初に立てられたとき、この屋敷は500年もつ、といったらしいが、確率思考ではそんな結論には至らないだろうと思う。ヨーロッパのように13世紀ぐらいに立てられたオックスフォード大学で現在も学生が勉強している、というような環境があれば(それは真に羨ましいものだ。こっちはおいそれと法隆寺で修行するわけには行かない)考え方も多少は違うだろうと思うけれども。
まあそう考えていくとアメリカ文化というものが刹那的で享楽的なのも当たり前なんだよなあという気がしてくる。それはそれで彼らの勝手だが、迷惑だから押し付けないでほしいというのがアメリカを除く世界の総意なんだろうと思う。
宗教勢力が強くなって、フセイン政権下で進んでいたいわゆる「女性の権利」が圧迫されつつある。イラクはイスラム世界では独裁的ではあったが非常に世俗化された国で、人前で男女が話をしたりしていてもおかしくない国だったのだ。アメリカはアフガンではタリバン攻撃を女性の権利のためにとかいっていたが、結局は本気でそんなことを考えていなかったことはこういうことからもわかる。
アメリカというのは、よく喩えられるが、いろいろな意味で『ドラえもん』の「ジャイアン」のようなものだと思う。ただ、この喩えを欧米なり世界なりに通用する仕方で説明するのはどうしたらいいのか良くわからない。うまく説明できたら、少なくとも非米世界では(マッカーシーのような言い方だが)理解と共感を得られるのではないかという気がする。アメリカの覇権が危ういということがあるとしたら、多分そのあたりに、つまり理解されない国だと言うところにあるのだと思う。そのアメリカの腰巾着になりたがっている人が日本に多いのは、単にアメリカが強いからだと思うのだけど、アメリカがこけた後のことまで考えてあるのだろうか。まあそうなった世界では彼ら以外の人がイニシアティブを取るしかないんだろうけど。
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