クイーンを聴く/毒を食らわば牛までも/民間軍事会社と徴税請負人/西部邁と宮崎学
Posted at 05/12/12 PermaLink» Tweet
今朝もこの冬一番の冷え込みとか。毎朝寒くてもうあんまり関係ない感じ。今朝は割りとすっきりと起きられた。バロックの森からずっとFMをつけっぱなしにしていて、さっきはメンデルスゾーンの『トゥーランドット』がかかっていた。このオペラは昔友人の演劇グループが上演したことがあったので印象に残っていたのだが、この序曲は割りといい。
音楽のことでちょっと思い出したので書いておくと、テレビの下の棚というのはどこの家でも整理がごちゃごちゃになりがちだと思うが、私はそこにビデオテープやらオーディオ機器のあまり使わないものとかを突っ込んである。私は基本的にイヤホンで音楽を聴くのがあまり好きではないので、カセットもCDもメモリースティックのもウォークマンを持っているのだけどほとんど使っていない。久しぶりにカセットのウォークマン(といってもアイワ製だから昔はヘッドホンステレオといったな。今は何と呼ぶのだろう)を取り出してそこら辺にあったテープを聞いてみた。どうも充電池がだめになっているらしくAC電源につながないと動かないので用を為さないのだが、久しぶりに聞いたそのテープはクイーンだった。"You and I"とか"Somebaody to love"とか。上のほうを見たら"Tie your mother down"がある。超懐かしい。クイーンが一番よかったころだ。
A面にクイーンを入れてB面には甲斐バンド(笑)。みんなこんな感じでテープをつくってたよなあ、と思う。カセットカバーというか曲名を書く紙(何か言い方があったはずだが忘れた)がFMレコパルから切り取ったもの。あのなまずのマークが懐かしい。よく見るとA面は高校時代の友達のN君、B面はS君からダビングさせてもらったもの。この紙もN君がつけてくれたものだ。当時はわたしはFMファンを買っていてレコパルは買っていなかったから。N君はいつもレッドツェッペリンの『アキレス最後の戦い』を口ずさんでいた。みんな黒い学生服を着て国鉄のディーゼルカーで通学していたのだ。踏切では牛が信号待ちをしていたりして。流れ去るものは全て懐かしい。
ニュースを聞いていたらついにアメリカ産牛肉の輸入を解禁するらしい。もうアメリカの攻勢にご無理後もっともという感じでブッシュ政権とアメリカの生産者に「クリスマスプレゼント」を差し上げようということか。日本の全頭検査主義について非科学的だとアメリカの提灯を持つ人が日本にもいるが、日本人が全頭検査主義にこだわるのは最終的にはアメリカのごり押しに対する反発なのだ。親米派の人々が何を言い訳しようと、アメリカは結局は自分たちの利害を有無を言わさず押し付けてくるし、日本政府はそれに反逆することができない。
歴史的に見れば、第3次中東戦争、すなわち石油ショックのときにアラブで自主的な資源開発をしてアメリカの逆鱗に触れ、ロッキード事件で追い落とされた田中角栄の轍を踏むことを誰もが恐れているのだ。プラザ合意以来、構造改革協議、年次改革要望書とアメリカ様のいうことは全て飲んできている。今度は経済的な搾取構造の構築に留まらず、国民の健康にまで毒を盛ろうとしているというのに日本政府は結局最後まで踏みとどまれない。これは北朝鮮や中国の東アジアの不気味な脅威に対してアメリカに守ってもらうしかないという庇護欲求とアメリカに逆らって酷い目にあったという60年前の羹に懲りて膾を吹いている。もう何を考えているのかも分からないのかもしれない。毒を食らわば牛までも。
小泉構造改革はどうしても「官から民へ」を進めたいようで、建築確認で公的機関が責任を負う仕組みを作る気がないようだ。なんだか何をしたいのか分からないが、最終的には国家のやることは全て民営化したいという感じなのだろうか。帝国主義者で知られるセシル・ローズが「出来れば惑星までも征服したい」といったことは知られているが、「出来れば国家全てを売っぱらいたい」のかもしれない。
考えてみれば、歴史的には現在国家機構がやっていることはかなり民営でやっていたのである。軍事力だって、平安中期には国家が維持するのでなく武士の「民間の自主努力」による武装に頼るになって行ったわけだし、西欧でもフランス革命で国民軍が創設されるまでは傭兵部隊が主力となっていたのはよく知られている。税金の徴収にしたところで、律令国家であった日本も古代の早い時期には請負制が成立している。ヨーロッパでも徴税請負制度が発達し、年度の初めに税目ごとに入札で請け負い業者を決め、前もって徴税額を決定した後で徴税請負人の「才覚」で税を徴収させるわけである。実際には国家で入れ札をするような業者は大ブルジョアか貴族に成り上がっている人々で、彼らはさらに徴税権を下請けに出すわけである。ある意味今のゼネコンと中小ゼネコン、さらにはその下請け、という構造に似ている。
民間軍事会社というものの存在が日本でも知られるようになったが、どうせなら軍隊も徴税も全て下請けに出したらどうか(笑)。まあそうすりゃ源頼朝のような傭兵司令官が勝手に第二の政府を作っちゃうかもしれないけどね。フランスの徴税請負人もブルジョアとしてはかなり上流の部類で、その中には化学者として知られたラヴォアジェもいた。彼は私の記憶ではパリへの入市税を徴収する請負人だったと思うが、ブルジョアとして革命にも熱心に参加していた。しかしモンターニュ派(いわゆるジャコバン派)が実権を握って過激化すると、彼も捕らえられてギロチンの露と消えた。「革命に科学者は必要ない」というモンターニュ派の言葉は今も、社会主義国の科学者迫害の話を聞くたびに思い出す言葉である。小泉改革の行き着くところは、民間軍事会社と徴税請負業者で運営される国家である。
昨日も一日家でのたくたしていたのだが、夜遅くなって本屋に出かけた。何も買うものの目当てがあったわけではないが、「論理の(あるいは科学の)力」や「生命の(からだの)力」と拮抗する「言葉の力(あるいは言霊)」というものを理解するためには、捕らえるためにはどうしたらいいのか、というようなことを考えていたら西部邁・宮崎学『酒場の真剣話』(イプシロン出版企画、2005)という本が目に入り、立ち読みして買った。西部の本はここ数年よく読むが、宮崎という人はあまり好きでないので、西部がどんな話をしているのか読んでみたかったのだが、友情論とか愛情論とか結構濃い話で買ってよかったと思った。最後まで読んでいないのでいろいろ入っても仕方ないが、ボナールの『友情論』から引用した「恋愛は相手を信じることが必要だが、友情においては相手を理解することが必要だ」という言葉をめぐって、さまざまな彼らが経験した例、やはり若い時代のことが多いが、述べられているのがとてもよかった。
私自身のことを振り返ってみて、自分は恋愛に求めるべきことと友情に求めるべきことがずいぶん混乱していたのかもしれないといまさらながら思った。今思うと女性に友情を求めて向こうが恋愛と受け止めて混乱した例は何度もあった。それは厳しい失恋のときにこちらが本気で信頼していたものを向こうから一方的に断ち切られてそれ以来女性というものは信じられないものだと無意識に思い込んでしまったためにそういう混乱が起こったのかもしれないなどと自分を分析してみたりした。いやいや青いことを書いてしまっているが、なんだかそういうのもたまにはいいだろう。
宮崎という人は通常ずいぶんイヤなことを書く人なのだが、この本の中では非常に西部の発言に理解を示していて、西部の趣旨を徹底的にフォローしつつその発言を認めた上で自分の意見を言おうとしているように感じる。なんというか、相手がそのように考える、その主張をきちんと理解しフォローし承認した上でしかし自分はこういう意見だといえるというのが真のインテリジェンスというものだなとなんだかほろりとするものがある。友情というものが相手を理解することによってしか成立しないなら、友情というものが成立するのは確かに言葉の力によるものに違いない。信頼は言葉がなくても成立するが、理解は言葉がなければ成立しない、だろう。
まあそんなことを考えつつ。12月も二桁だ。
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