「旅」の持つ政治的ロマンチシズム
Posted at 05/11/12 PermaLink» Tweet
なんとなくぼおっとネットを見る。藤原新也氏のサイトを読んでいていくつか思うこと。
私は昔はなんとなく藤原氏を敬遠していてどうも胡散臭い感じがしてならなかったのだが、最近こちらのサイトを読むようになって全く認識が新たになった。
氏は『チベット放浪』という本を出しているが、実際に行っているのは現在「インド領ラダック」と呼ばれる地域なのだそうだ。で、藤原氏によると、この「ラダック」は「行ってみると風土、民像(原文ママ、「民族」の誤変換か?)、宗教、言語もまったくチベットそのものだった。若い私は歴史を聞き取りし怒り感じた。そして帰国後、雑誌で敢えてそれをラダックと呼ばず「チベット」と呼ぶことにした。」その結果、インド政府からクレームがつき、場合によってはインドへの入国が拒否される可能性もほのめかされたのだという。
私はなんとなく中国領にされてしまったチベットでは人々は抑圧されて不幸になったが、ラダックはインド領だから幸運だったのだろうと思っていたのだが、全然そんなことはなかったようだ。ラダックがそんなに「チベットの不可分の一部」であるとは思っていなかったし、いろいろと認識が足りないところもあるなと思った。現在、本来のチベットは中国内でもチベット自治区を削って青海省に入れたり分断工作が進んでいるし、このままいわゆる「西部大開発」が進められたらチベット人がアメリカインディアンのおかれた状態になってしまうという状況は徹底的に進行してしまうだろうという印象なのだが、それだけでなくインドやパキスタンの領土になってしまっている国境による分断もまた進んでいるのだと思わざるを得なかった。そういう意味でチベットもまた、モンゴルのように分断されてており、またクルドのように国家を喪失した民族なのだということを強く印象付けられた。
「国境とは力のある大国が線引きをするいかさまものなのだ。旅はその国境をはぎ取る作業でもある。」と藤原氏は言う。こうした言辞は反体制・アナーキズムを気取る浅薄なものだと思うことが多いが、氏の言葉には重みがある。そして「国境を剥ぎ取る」という国家という巨大な存在に対抗するいわば政治的ロマンチシズムを見出すそういう「旅」もあるのだとちょっと感動させられた。もちろんその感動は、現実のインド国家や中国国家からの激しい圧力への氏の抵抗があって初めてもたらされるものである。
ダライラマとのインタビュー番組がNHKで放映されたことがあった。私はそれは知っていたのだがインタビュアーが山折哲夫氏と藤原氏ということでどうも気が進まず見なかった覚えがある。しかし実は、日本の放送界にはダライラマは扱わないという不文律があるのだそうだ。大NHKがそれを破ってインタビュー番組を制作するということ自体が大変な冒険なのだという。もちろん当然それは、それによって中国との関係を悪化させるということである。
そしてそのような企画をどのように進めたかというと、ディレクターは藤原氏に「この企画は今の段階では私と会長の海老沢しか知りません」と言ったのだという。海老沢氏はさまざまな悪口雑言を浴びてNHKを去ったが、そんな骨のある人物だとは知らなかった。結局人間の本来の人格というものはこのようなところに現れるのだと感動した。
藤原氏のところにはそれ以来日中友好協会の定期刊行物が届かなくなる、などの変化があったそうだが、中共のブラックリストに載った可能性は高いのだという。チベットやダライラマを扱うということは今でもそのような危険のあることで、やはり信念がなければ出来ないことなのだと改めて認識する。日本にも海老沢氏のような骨のあるトップがいたということに少々安心を覚えるとともに、それが石をもて追われる状況でもあるのが今の日本なのだなということも感じた。
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