タリウム少女と「自分らしさ神話」(続き)
Posted at 05/11/08 PermaLink» Trackback(1)» Tweet
しばらく前に文章の構想は考えていたのだけど文章化していなかったものをちょっと書いてみる。「タリウム少女」と「自分らしさ神話」の話である。
タリウム少女についてはさまざまな側面から情報が出てきているが、学業面では相当優秀な生徒だったようだ。しかし小学校段階から毒殺犯を尊敬する人物に挙げるなどそうした志向があったことは確かだろう。また母親に飲ませる前に自分でも飲んでみたというが、このあたり効果を確かめるためだけではないと思う。自分でも毒を少量だけでも体験してみたかったに違いない。そういう毒性をもった化学物質に対する偏愛のようなものを感じる。
いずれにしても、もともと少女はそういう性向を持っていた、というか何かをきっかけにそちらの方に惹かれて行ったことは間違いないだろう。そういう意味では特殊なケースではあるから一般論的な「自分らしさ神話論」で片付けられる範囲を逸脱しているのは確かだが、そうした風潮のようなものによって自分の性向が肯定され得ると考えていただろうことはあるのではないかと思う。
先日書いた「自分らしさ神話」が、この少女や酒鬼薔薇少年などの「幻想性非行」のひとつの誘引になっているということはいえると思う。自分の中に鬼を飼っている、という表現があるが、人間というものは自分の心内にとんでもないものを飼ってしまうことはあると思う。しかしそれはそれと対決しそれを押さえ込みそれを殺していかなければいわゆる「人間」としては生きていけないものだと思うのだが、「自分らしさ」という言葉を免罪符にしてそれらのものを生かしておき、またさらには成長させてどんどん怪物化させてしまう、ということはあるのではないか。移民少年たちのフランスや、あるいはドイツやベルギーにも飛び火した暴動も、彼らの中で押さえきれないほど成長してしまった「何か」がついに暴れだしたのではないかとこちら・11月7日を読むと思う。そうした現象の発生の原因はもちろん違うが、人間というものがよい部分ばかりを持っているわけではないということは改めて押さえておかなければならないことだと思う。
酒鬼薔薇のときも彼に憧れる少年が多く、私の勤めていた高校でも本気で憧憬していた生徒がいたが、そういう「発揮することが許されない自分らしさ」を自分に代わって実現していくヒーローのようなものなのだろうと思う。自分らしさを体現してくれるヒーローとして正の面ではイチローがあり、あるいは千葉ロッテ球団自体などもまたそうした身代わりヒーローとしてあるのだろうと思う。正負は不明だが普通はやれそうもないことをやってしまうほりえもんや小泉首相もまたそういう意味でのヒーローである。そして、明らかに負であるけれどもそれゆえの強烈さを以て「自己実現」を貫いた酒鬼薔薇やタリウム少女にはそれだけでカリスマが生じてしまうのだと思う。
普通に、伝統的に考えれば、「自分らしさ」というのは自分の努力によって作り上げていくもので、何かを作り出すことによってしか得られない。しかし、「消費」によって「自分らしさ」を身近に置けるようになった世代にとっては、もっと簡便に入手可能なものなのだろう。最近読んでいる分野で言えば、中古・中世の天台教学の「本覚思想」である。つまり、人間は生まれたときから仏性を持っている、悟っている、ということに気付けばいいのだ、的なものを感じる。そういう意味でいうと「自分らしさ神話」というのは日本においてはあんがい深い根を持っているのかもしれない。しかし、それが迷妄であることに、鎌倉仏教の祖師たちは困難な知的苦行の末にたどり着いたといってよいのだろうと思う。しかし本覚思想そのものが完全に消えることがなかったように、「自分らしさ神話」はクラスを超えて蔓延していると思う。
団塊ジュニア世代の女性が子どもに最も求めていることは、国際的に通用するマナー、上品な振る舞いなのだ、という話が『下流社会』に書いてあったが、現代の「上」のクラスの女性が男に求めるものは「階級性」であって、以前はあったと思われるインテリジェンスでは必ずしもない、と思った。そのような形で「自分らしさ」を自己実現しようとする人々を非難したり留めたりするものはもちろん誰もいない、当然だが。
自分を鍛えるとか、自分を善導するという考えがないかあっても極めて弱いまま、自分の中にある強烈な悪に引かれ、それを見つめすぎると、人はそこから逃れられなくなってしまうということがあるのではないかと思う。酒鬼薔薇もタリウム少女も植物や草食動物に生まれたかった、というようなことを吐露しているらしい。攻撃性を持つという宿命を持たずに生まれてきたら苦しまずに済んだのに、という思いを持っていただろうことはある意味悲しささえ感じさせられる。
こうした非行・犯罪において社会が悪いという言い古された言い方で言えば、「自分らしさ」神話・幻想を振りまく全ての学者・媒体・商品生産者がこうしたもののそんなに遠くない責任を負っているということも一度考えてみてもいいのではないかという気がする。
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from ブログ界の正論 at 05/11/13
孤高の少年犯罪 少年犯罪を考える場合、「子供」を見すぎても、「社会」を見すぎても、問題の本質は見えてこないようだ。たとえば、「『親の愛情』が足りなかった」というのは、その子供の生育環境に応じた精神の発達過程を鑑みようとする、主に精神医学(心理学)の立場が.
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