秋のさわやかな日/皇室典範問題

Posted at 05/10/26

昨日帰郷。東京駅日本橋口の丸善で山本七平『日本はなぜ敗れるのか』(角川Oneテーマ21)を購入。しかし列車の中では日経新聞と『業界地図』、『プリニウス書簡集』等を読む。戦争関係のものは読んでいるうちにやりきれなくなってくるものが多いのでどうしてもあとに回しがち。気力を充実させてチャレンジしようと思う。昼から夜は仕事。忙しいというか何というか。とにかく疲れたことは疲れた。

朝起きて少しラテン語をやったり。日記を書く時間はなかった。早い時間で松本に出かける。電車の中では『プリニウス書簡集』を読みつづける。とうとう読了。かなりかかったが、ローマ人の息吹のようなものを感じられた。ラテン語を一通り読めるようになったらぜひ原書でもローマ人の著作を読んでみたいもの。

松本で用事を済ませ、スッキリする。上高地線の時間が合わないので、少し遠いが松本駅まで歩く。気持ちよく晴れた秋の道。自然に背筋が伸びてスッキリする。「荒井城址」という標識を見つけて横道に入ると、小高く盛り上がった塚のようなところに木の切り株がひとつと祠がひとつ。説明を読むと、南北朝時代に小笠原氏がこのあたりで勢力を広げていたときに築いた小城のひとつらしい。武田信玄の信州侵攻によって落城し、このような状態になったとか。手を合わせて立ち去る。奈良井川の橋を渡ると大きなお宮が。行ってみると「渚大神社」と書いてあった。手を合わせ、手洗いを借りる。図らずも史跡探訪小旅行。どうやら道に迷ったようでJRの踏み切りにでると北松本駅の近くだった。線路に沿って南下し、駅へ。駅ビルの書店に入ると、結構本がある。ラテン語の文法書やドイツ語の辞典、モンゴル語の学習書などもあって驚くが、考えてみたら松本は大学のある町なのだ。そういうものを売っていても別に不思議がないのだということに思い当たる。買ったのはSAPIOと『ビッグコミック』なのだが。竹風堂で栗おこわ飯など購入。帰りの電車ではマンガとSAPIOの気になるところだけを拾い読み。

帰ってきて仕事をいくつか済ませ、ようやく昼食。健康上の理由で朝を抜いているので昼が遅くなるとかなりダメージを受ける。栗おこわ飯はなかなかおいしい。いろいろやろうと思ったが疲れてちょっと昼寝をしてしまった。

皇室典範問題、みないろいろ意見をいっているが、結局は東アジアの儒教的な文明伝統に則って氏族社会的な男系相続を続けるか、ヨーロッパ的な女王容認の相続制度をとるかのどちらかである。女王を容認して女系の相続を認めるのは国王を新教徒に限定することでスチュアート朝のカトリック王の継続を拒否したイギリスや(それでも女王が自分の子どもに王位を継承させたのはヴィクトリア女王だけである。チャールズ皇太子が即位すればエリザベス2世現女王が2例目になる)エカチェリーナ2世など強力な女帝を輩出したロシアが思い浮かぶ。フランスはサリカ法典で女子の相続を認めないので女王は存在しないし、オーストリアでもカール6世が相続規定を変更して相続させたマリア・テレジアをめぐって2度の戦争が行われたことはよく知られている。

現代において、王政を取る国自体がそう多くはないのでなかなか比較できないが、ベネルックス3国や北欧諸国など女王が多く見られる国が印象に残るので、なんとなく西欧世界の趨勢がそうなっているという気がするのだろう。

東アジアでは先に述べたように中国では女帝は則天武后の一例しかないし、これも中国では正統とは認めない意見が強い。朝鮮では新羅の時代に女王が何例かあるが、まだ十分に儒教化していない時代である。日本も平安京に遷都して唐の制度や文化をより徹底的に導入した弘仁・貞観以来、女帝は絶えてない。江戸時代の二例をみても明正天皇の即位は後水尾天皇の徳川家に対する面当てのようなものだし、後桜町天皇は本当の中継ぎである。

女帝容認の主張というのは、そういう観点からすると、要するに『東アジアの封建的な伝統を脱却して西欧の進んだ文明と同化する新しい時代の天皇制』を求めようという動きなのだろう。男系男子にこだわるなら旧宮家の復活がもっとも自然だし、伏見宮系の旧皇族は男子も多いし、これからも皇統の継続は十分期待できる。それが妥当だと思うのだが、あえて女帝擁立という方向に踏み込もうとするのは、平成版の『脱亜入欧』の主張であるといえるだろう。何事もアメリカナイズの好きな現在の自民党の面々は皇統継続の文化伝統など考えたこともなかろうし、有識者といわれる食わせ物連の議論も明らかに結論ありきの議論であって、何らの価値も感じない。そういうことで私としてはこの議論に加わる気が全然しないのだが、何もいわないうちに現代日本が伝統のあつみから剥がれ落ちていって歴史の谷間に消滅していく前に、一言は言っておかなければならないと思ったので一度は書いておこうと思う。

さてもう暗くなってきた。秋の日は釣瓶落し、である。

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