ニセ台風一過/日本文化の底の深さ/理念とリーダーシップ/終戦外交
Posted at 05/09/07 PermaLink» Tweet
朝目が覚めてカーテンを開けたら強い日光が差し込んでいて思わず「台風一過だな」とつぶやいたが、テレビを見たらとんでもない。錦帯橋(の橋脚)は流されるし死者行方不明者20名というのは近来にないだろう。早明浦ダムの貯水率は0%から一気に100%になったそうで、台風の威力というものには目を瞠らされる。人間が行う治水というものの力のいかに微弱なことかと思わされてしまうが、だからといって努力を放棄してよいものでもない。空をにらみながら天道是か非かとつぶやくのが人間というものか。(違)
昨夜は台風の影響の雨の中、傘をさして出かけるが、聞き応えのある話が聞けてほくほくして帰る。近代のことばかり考えていると日本文化の底の深さというものが時に見えなくなってしまうのだけど、前近代までの豊かさの上にわれわれの文化が成立しているのだということが理解できると本当に心強く感じられる。会場の冷房が少々きき過ぎのきらいはあったが、立派な講義室で直に斯界の最前線の話を聞けて大変刺激になった。
帰りは地元の西友で買い物をし、しばらく歩いている間に解凍されてきて頭の中も動き始める。考えていたことにかなり前向きの方向付けが出来てきて書いていることに筋を通していく見通しが立った。
『無念の戦後史』読了。戦後日本に理念が失われたとはよく言うことだが、何が理念だったのかということについて考える。アジア解放といっても、西部氏の言うように解放というのは所詮消極的な理念に過ぎない。アジアの近代化といっても近代化の本家は西欧で、近代化=西欧化の優等生である日本が他国を「指導する」ということの正当性というものをどのように示すかということは難しい。西欧の諸制度は西欧の社会=政治関係の機微の中から生まれたものであり制度や理念だけを輸入しても木で鼻をくくったものになってしまうのを、日本は日本流にかなり噛み砕いて取り入れはしたのだが、その日本流にアレンジした近代化というものが直輸入の近代化よりもアジア向けであるということが示せなければ近代化という理念でリーダーシップを取ることはなかなか難しい。ちょっと本の内容からは逸れるが、そうした理念=リーダーシップ論について考えさせられるきっかけになった。
『八月十五日の神話』読了。アジア各国の終戦記述についてのところを読んで、韓国が大韓民国臨時政府(李承晩中心)が重慶の国民党政府に身を寄せ、ハワイ海戦(米側の言う真珠湾攻撃)の直後に日本に宣戦布告し、「韓国光復軍」がビルマ戦線に派遣されイギリス軍と共同戦線をはったこともあったという記述を読む。大韓民国臨時政府については以前読んだことはあったがまるで忘れていた。こういう記述を読むとまるでドゴールの自由フランス政府である。フランスの「戦勝」もほとんどフィクションというべきだし、イタリアも最終的には連合国側にたってドイツに宣戦したりしているが、大韓民国臨時政府の場合は八月十五日に韓国内で勝ち名乗りを上げられなかったことが後々の信託統治問題や南北分断にも響いてきているのだろう。亡命政権を正当化し実効支配の総督府を非合法とみなす論理の組み立ては戦後フランスのヴィシー政権否定の論理に似ている。
タイのケースも面白い。日本のポツダム宣言受諾を受け、タイ政府は急遽1942年の対米英宣戦布告の無効を宣言し、アメリカはそれを受け入れた。イギリスとの交渉は1946年に戦争状態の終結が宣言され、1940年の東京条約(初めて知った)で併合した仏領インドシナの一部をフランスに返還することでフランスもタイの国連加盟に反対しなかった、という。綱渡り外交を見事やってのけたという感じである。
日本とドイツはこてんぱんにやられざるを得なかったし、「大東亜共栄圏」内の諸国もさまざまに戦後の有為転変、つまり今韓国で行われているような「親日派狩り」が行われたのだろうが、日本がそうした人々に出来る限りの支援を与えたとは言い難い。台湾の人々の発言などでも、「終戦によって日本に見捨てられた」という発言がよく聞かれるのは、戦後日本が戦前の亡霊を振り払おうとでもするかのようにアジア諸国の「同志」を切り捨てたということを見せ付けられるようで、身を切られるような思いがする。靖国問題も最終的には同じで、切り捨ててはならないものまで切り捨てることによって戦後の日本が何を失ったのかということをもっと自覚しなければならないと思う。平和国家ですとお澄まし顔をすることの欺瞞と偽善は「共に戦った人々、国家」を切り捨てたこと、結局そこに尽きるのではないかと思う。
そのほか丸山真男の「八月十五日革命論」の欺瞞をついている部分も面白かった。高校時代の世界史の教師に丸山が偉い、と言われて以降、偉いらしいが何が偉いのかはよう分からん、と思っていたが、彼が亡くなった時、その追悼記事を読んでいて違和感が相当大きくなってきていた。最近は丸山批判の論調もかなり盛んになってきてはいるが、日本の戦後論壇に対する呪縛力は相当強かったのだなと改めて思わされる。王様は裸だ、と見抜くことは出来てもそれを明示するためにはまだまだ修練が必要だなと改めて思う。
陽光も風も強い。光のあるうちは光の中を歩め、とはトルストイだが、日のさしているうちには洗濯物を表に干しておこう。
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