90年代以降韓国が元気になった理由
Posted at 05/09/25 PermaLink» Tweet
午前3時までかかって小倉紀蔵『韓国は一個の哲学である』(講談社現代新書、1998)を読了。この本は、韓国の国民性や韓国人の考え方を朱子学の理気二元論の考え方から説明したもので、わかりやすくなるほどとうなずけるところが多い。所々日本の立場を譲りすぎてどうかなと思うところがあるのは昨日も書いたように日本のアジア研究者の通弊だとは思うが、まあそういう部分がないと逆に中国や韓国でその国の研究をしようとするのは困難なのだろうなという現実的な理由もある気がする。
印象に残ったところは多々ある。たとえば、「理」に支配される韓国社会では没政治的・没道徳的な芸術は育ち得ず、形式的には非常に自由奔放であっても内容的には非常に強く政治や道徳に規定されているが、日本の美意識は形式的には不自由で様式的な「型」に強く拘束されているものの内容的には自由でアナーキーですらありうるという指摘はなるほどと思った。
しかし一番ひざを叩き、読みながらつい大笑いしてしまったことがある。朴正熙政権以来日本をモデルに開発独裁的工業化政策を推進してきた韓国は日本を乗り越える(克日)ことが出来ずに苦しんだ。韓国では朱子学的により低級だとみなされる「日本」をモデルにすること自体が韓国にとってはひどく傷つき「恨」の源であったというわけである。もともとものづくりは韓国では低級な仕事であり、韓国人が積極的に取り組めないという事情もあったというのである。
しかし、90年代になって風向きが変わった。世は情報化時代になったのである。韓国では「情報」を「文化」ととらえ、自らの不得意な「ものづくり」でなく「文化」が世の主流になったと考えて、俄然積極的に情報化に突入して行ったというのである。なるほどそういう背景を考えれば韓国にあっという間にブロードバンドが普及した事情も理解できるし、韓国が急に元気になって韓流に代表されるソフト産業に力を入れるようになった事情もよくわかる。つまり産業化時代には「日本に出来ることはウリ(われわれ)にも出来る」であったのが、情報化時代には「ウリは日本とは違う」「ウリは日本より優れている」と考えるようになった、というのである。このあたり、最近の韓国の変貌について分からなかった点が解消したように思え、思わず本気で笑ってしまった。
もちろんこの点をはじめ、韓国の日本認識は多くの誤謬に基づいた誤解に満ちているのだが、いくら誤解だといってもそれが彼らの思想的背景に基づく信念であればそれを「正そう」とするものならものすごい反撃を受けることは必至である。日本としてはそういう韓国の特性を飲み込んだ上で個々の事実について日本側の適正な主張を断固として続けていくしかない。全く根本的に哲学の異なる二つの国が理解しあうことはきわめて困難であるが、このような韓国の思想性・国民性を明らかにした著作が出てきたことはよい意味での緊張関係を保ちながら二国間関係を維持していくためには大きな進歩であると思う。
***
それにしてもやることが多く、がんがんやっていると職場にいたころ仕事が集中して自分にも職場の将来像にも希望が見出せない状態に悩みながら仕事のための多種類の勉強をする一方で睡眠時間2時間でフランス語や英語の文献と格闘しつつ修士論文を書き、同時に結婚に終止符を打つ話を進めていた年のことを思い出す。次の年早々に病に倒れたのも今考えると無理もなかったと思う。研究自体も本当に自分のやりたいことと少し距離が開きすぎて展望が見出せず、まさに公も私も個人としても家族という基盤も全くの八方塞がりだった。それに比べると現在は自分のやりたいことという感覚になるべく忠実に仕事が出来ているだけだいぶ状況はいい。しかしそのころに比べると人も物も金も無くなった。納得の行く仕事をしつつそれらを立て直すために頑張るしかないと改めて思う。
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