シナの語を否定する中国の深層心理を考える

Posted at 05/08/14

日本の西側にある大陸国家を『中国』と呼ぶようになったのは、そう古いことではない。ふるくはからくに、もろこしなどと呼び、あるいは王朝名で呼んできた。清の滅亡後、日本はもっぱらヨーロッパでも広く使われているシナの語を用い、『二十世紀之支那』など、彼ら自身が用いていた支那の漢字を当てて用いるようになった。

しかし、19世紀から20世紀にかけての大陸国家は、全く不統一な状態に陥っていた。早くも太平天国の時代ののち、中央軍である八旗兵は衰え、曽国藩や李鴻章の郷勇といわれるものたちが乱を鎮めたのち私兵化して、軍閥分断国家の基を築いた。辛亥革命後、北洋軍閥の後継者袁世凱が大総統となったものの統一を築き上げられず、そののちは北京政府を奪い合う各軍閥と、広東等に本拠を置く国民党の国民政府との春秋戦国的な争いが続いた。共産党が毛沢東の指導により遊民(やくざというかマフィアというか)層を取り込んで農村を中心に強大化し、最終的には大陸国家の覇権を握ることとなった。

清が帝国的に緩やかな支配下においていた地域のうち、外モンゴルはロシアに取られて独立したが、おそらくそのことを中共内部では現在でも痛恨事と考えているだろう。チベットに侵攻してダライラマを亡命させ、東トルキスタンを鎮圧し、満州国の崩壊後ソ連に押さえられていた満州を譲り受けて、中国は共産主義帝国として復活した。現代は共産党の地方幹部を中心として資本主義化が進んでおり、農民の土地を不当に奪取して資本家としての地歩を築きつつあり、それに対する農民の反乱・暴動が広がっている。

現状はともかく、この19世紀から20世紀にかけて、中国は自らの歴史を暗い時代であったと定義しているようだ。そしてソ連やアメリカの側についたことによって思いがけなく「五大国」のひとつとなることが出来た幸運を、彼らは決して手放すまいと思っているのだろうと思う。

支那、という語は美しい言葉だ、という犬養道子の意見に私は賛成する。陶器を意味する英語のchinaという語には、そのような美しいものを作り出した国に対する尊敬がこめられている、という見方はしても良いことだと思う。日本はシナの語を持って、大陸に非常に親近感を抱いていた。シナのように列強に侵略されないように、と他山の石としても重視していただろうし、犬養毅や頭山満をはじめとして、中国の志士たちをかくまい、教育の機会を与え、分裂しがちな亡命中国人を説いて回って中国革命同盟会を成立させたりと、多大な援助を与えてアジア人との友情を深めた人々も多かった。

しかしその歴史を、中国人自身がどう考えているか。中国人は21世紀の現在、過去に日本人が感じた友情を、いまやむしろ嫌がり、歴史を否定しようとしているのではないかと思う。麻のように乱れていた中国に日本が軍事的に関与したことの是非は評価が難しいが、そのことを含めて、大国でなかった時代、列強の関与と彼ら自身の分裂の時代の中国のことを、彼らは全て日本のせいにして、忘れ去りたいのではないか。

シナの語を持って日本人が感じていた友情そのものを、シナの語とともに捨て去らせようとしているのは、強い贖罪意識の虜にして中国の軍拡に対する批判そのものを封じ込めようとしているのと同様、日本は小国であり中国は大国であると思い込ませ、中国人に対しては友情でなく畏敬の念を持てと誘導しようとしているのではないかと最近思うようになってきた。

隣国に対して、国内で当たり前の批判が出来ない国はやはり異常である。韓国のように隣国を当たり前に評価することが出来ない国もまた異常であるが。中国は、自ら軍国主義化すればするほど、日本が軍国主義化しつつあるとの幻影を振りまくし、魔法にかかったようにそれに追随する日本人を生み出す。

彼らが現在やっていることは、『蒋介石を相手にせず』と宣言した近衛政府に似ている。日本の当たり前の主張をする人々を「極右勢力」として退け、相手にしない姿勢を見せ、日本国内ではほぼ没落しつつある「魔法にかけられた人々」のみを相手にして大国外交を続けようとしている。

共産党政府は反対するだろうが、やはり中国でも言論は自由化すべきである。お互いの状況を本当に良く知ることによってしか、問題は解決しない。いまだに文化大革命に対してさえ批判を許さない国家で、いったい何が分かるというのだろう。もしその最大の障害が中国共産党であるならば、やはり共産党政府自体が解体されなければならないだろう。

四川省の奇病だけでなく、満州でもまた別の奇病が流行の兆しだという。農民暴動の頻発といい、まさに王朝末期の現象というべきだろう。歴代王朝を見ても、数十年で倒れたものは決して少なくない。そろそろそういう季節が近づいているのではないかと思われてならない。

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