『マンガ嫌韓流』を八重洲ブックセンターで買う/現代中国事情が分かる二冊
Posted at 05/08/07 PermaLink» Tweet
一昨日帰京。どうも今週は疲れ切ってしまった。
昨日今日と午前中は使い物にならず。昨日は午後遅く日本橋に出かけ、丸善と八重洲ブックセンターを梯子。どこを探しても見つからなかった山野車輪『マンガ嫌韓流』(普遊舎)を八重洲ブックセンターで発見。何箇所かで平積みになっていた。立ち読みする人も結構いた。私も当初は買うつもりはなかったのだが、これだけどこに行っても置いていないとまた買う機会がなくなってしまいそうなので購入することにした。販売店が自主規制という名の言論統制をすることによってよけい購買意欲がそそられるというのはある種のタブーを破る快感から来るものもあるのだろうけど、この本に書いてあることは至極真っ当なことで、そうしたタブーを破る快感のようなものはあまりない。
そのあたりは、10年ほど前に差別語の問題を正面から批判した当時のゴーマニズム宣言ほどのインパクトはない。というのは、すでにネットで日韓関係のサイトを良く見ている人ならだいたい常識となっていることが多いからである。たとえばチマ・チョゴリの女学生を狙って切りつける事件が金日成死後ぱたっとやんだことを取材した「きむ・むい」氏が数ヵ月後死体となって発見された事件などである。しかしこういう事件は印刷媒体にはいまだなかなか取り上げられてはいないので、そういう意味では画期的でもあるし、またいわゆる『プロ市民』の「討論」の実態などが取り上げられているのも若い世代の(つまり小林よしのりらよりも、ということだが)マンガとしては新しいことだろう。われわれの世代までは彼らの論法につい引っかかるナニがあるが、もっと新しい世代の論客は徹底的に哀れみ手玉に取る技術に長けているような気がする。まあそれは平等とか平和とか人権とかの理念の空疎性に対する認識がより強いということだろうと思うし、あまりにニヒリズムが勝ることが本当によいことなのかどうかはちょっとわからない点もあるのだが。
まあしかし、日韓・日朝問題に関して議論になるようなことはだいたいこの本をしっかり読んでおけば対応できるという感じで良くまとまっている。そういう意味では、論争のバイブルと考えておけばまず間違いない。もちろん左翼プロ市民反日陣営ではまたこの本を論破するためのわけのわけらない理屈をいろいろこね繰り上げてくるだろうとは思うが。議論ではなかなか「ハァ?」だけではすまないところが面倒だ。「嫌韓流」という題名が誤解を招きやすいが、販売戦略もあろうけど、実際は議論の種本としてはなかなか良く出来ている。「あまりにも危険すぎて各社に出版拒否された問題作!」と帯にあるが、はっきり言って危険でもなんでもない。この程度の本が出版拒否されたり書店に陳列を拒否されている言論統制の現状の方がはっきり言って何倍も危険である。
で、帰りに丸善でジョージ秋山・黄文雄『マンガ中国入門』(飛鳥新社)を買う。この本は中国の現状と歴史を分かりやすく解説していて、これもまたなかなか良く出来ている。ジョージ秋山は「浮浪雲」化してからはあまり読まなくなったが『ほら吹きドンドン』とか『デロリンマン』、『アシュラ』、『告白』などを少年マガジンで連載していたころはよく読んでいた。あまりにグロテスクな描写(物理的にも心理的にも)が多く連載中止に追い込まれたりしていたが、この本も半ばはそういうノリで書かれていて中国の実態がよくわかる。しかし誰がこんな酷い国、特に文化大革命などを理想化して熱烈に日本に紹介したのだろう。責任者出て来い、という感じである。
今日も夕方神保町に出かける。特に当てはなかったのだが、三省堂の二階の文庫コーナーで本を物色していたらカウンターでとある外国人が何か急にわめきだしてフロア全体が静まり返った。その無言の圧力に負けてか彼は静かになったが、なんだか挙動がおかしかった。わめいていたのは英語らしかったが、今ひとつよくわからなかった。しばらくして何事もなかったかのように日常が取り戻されたころ、犬養道子『ある歴史の娘』(中公文庫)という本を手に取る。作者は言うまでもなく、木堂犬養毅の孫であり、戦後造船疑獄の指揮権発動で失脚した犬養健の娘である。5・15事件前後の思い出として、一人の無口な男が犬養家の私邸にいつも出入りしていた、という話から始まる。彼は、フランスに約束された王位を捨てて祖国ベトナムの独立のために立ち上がった亡命王、コンデ侯だったのである。彼と幼い日の道子との交流から始まるこの本を、やはり私は買わないわけには行かなかった。日本がアジアの希望の星であった時代のことを、われわれは忘れてはならないと思う。
その後、東京堂ふくろう店で北村稔『中国は社会主義で幸せになったのか』(PHP文庫)を購入。これも買うかどうか迷ったのだが、「現在では…書物として文化大革命を論じることは禁止されている」という一文に強く引かれ、購入することにした。
自国のわずか30年前の歴史を論じることを強権的に禁止している国が、他国の60年前の歴史と戦没者の慰霊にいちゃもんをつけるなど、そもそも原則的に臍が茶を沸かすような話だ。靖国「問題」など、自国の歴史をまともに論じられるようになってから他国に文句をつけろと一言言ってやればいいだけの話なのだ。靖国「問題」というのは、結局は「中国問題」なのだ、ということを改めて思う。
そのほか、マルクス・レーニン主義の理論から資本主義導入を正当化させる奇天烈な論理とか、そのあたりのことが詳しく書いてあり、現在の中国の貪官汚吏の実態が、中国の伝統から必然的に導き出されることなどを冷静かつ論理的に実証している。このあたり、黄文雄の書いていることと実態としては同じなのだが、やはり日本の学者の論証の方がわれわれ日本人にとっては分かりやすく感じてしまうのは仕方がないのかもしれない。
いずれにせよ、『マンガ中国入門』と二冊あわせれば現代中国事情のかなりの部分が理解できるように思う。中国に進出を考える企業関係者はこうした本も一応目を通しておいた方がいいのではないかと思う。
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