8月はいつから戦争反省月間になったのか
Posted at 05/07/31 PermaLink» Tweet
8月がやってくる。
8月は私の誕生月であるので、特別な思い入れのある月である。生まれた日は旧盆の初日で、日本人にとって心のふるさとというか、たましひののすたるじあというか、何も朔太郎を出すこともないのだが、大事な日である。死と生の境目の日というか、そんな日に生まれたことを自分自身として無意識に自分自身を特別視することにつながっている気がする。
しかし近年、8月を戦争反省月間とする傾向が特に強まっているような気がする。8月15日がポツダム宣言受諾の詔勅を国民に対し玉音で放送した日ということで、そのある特別の思い入れが8月と戦争を結び付けているのだろう。1年365日、考えてみれば戦争で人の死ななかった日などないわけで、8月を特別視するのはまず最大の要因は降伏の受け入れを国民が知らされたという一点にあるように思う。
もうひとつは、8月6日に広島に、9日に長崎に原子爆弾が投下され、ナチスのアウシュビッツのユダヤ人虐殺やスターリンの粛清、中国の国共内戦や文化大革命時の虐殺には人数的には及ばないものの、第二次世界大戦後の世界を最も強力に規定し続けている核兵器によって日本人が多数虐殺されたということにあるだろう。原爆投下を裁くべきだという極東軍事裁判における日本の主張は敗戦国のみが裁かれる対象であるという主宰者側の主張によって退けられ、アメリカが核兵器を使用した罪はいまだに国際社会に取り上げられていない。この理不尽は、日本人はもっと自覚すべきだと思う。
しかし、本当は8月に起こった事はそれだけではない。ソ連が日ソ中立条約を一方的に破棄して満州や千島列島、南樺太に侵攻したのも8月であるし、アメリカが軍政下に置いた沖縄では戦闘員も非戦闘員も全員が収容所に入れられ、つまりソルジェニーツィン以上に本当の意味で『収容所群島』とされていた。ソ連の侵攻によっては満州の悲惨な引き上げの記録や真岡の電話交換手の悲劇をはじめとして多くの悲話が残っているし、もちろん働ける男はほとんど全てがシベリアに拉致され、その数は数十万に上るとされていたが、最近では戦死とされたうちの多くの人が実際にはシベリアで強制労働をさせられ死亡していて実数は数百万に上るという説もあり、ユダヤ人のバビロン捕囚の何十倍もの規模での抑留が行われていたことも忘れてはならないだろう。これらの事件の賠償問題はサンフランシスコ平和条約、沖縄復帰条約、あるいは日ソ共同宣言などにより全く不問にされているが、実数も明らかにしないうちに抑留者を人質にとって旧ソ連が自国に有利な条約を結ばせたことなども必ず記憶されておくべきことだろう。
それだけではない。南方戦線でたとえばイギリスに捕虜になった日本の将兵たちがイギリス軍にどのような扱いを受けたか、『アローン収容所』などを読めば想像に絶する。赤痢菌に犯された蟹しか食糧がない島に日本人を閉じ込め、やむを得ずそれを食べて血を吐いて死んだ日本兵を「彼らは衛生観念が不足しているようだ」と嘲笑するレポートを書くなど、さすが紳士の国はやることが陰湿で、ソ連のような直接暴力的なことはしない。
また中国戦線も忘れてはならないが、共産党支配地域では在住している日本人は軍人だけでなく多くの人が何らかの責任のある地位にいたというだけで戦犯として人民裁判にかけられ、即刻処刑された。また多くの軍人を洗脳を目的とした強制収容所に入れて自らの罪を自覚するプログラムを徹底的に行い、自己批判・自己否定を行わせて洗脳が完了した軍人たちを日本に送り返して反戦軍人に仕立て上げるなど、毛沢東主義が猛威を振るっていたことは小林よしのりの『戦争論』などでは取り上げられていたが現在でもあまり知られていないように思う。
8月はそのように、戦勝を勝ち取った連合国側の『復讐期間』の開始であったこともわれわれは忘れてはならないだろう。現在でも時々日本の戦争に対する非難が起こるのは、そうした根強い復讐感情のフラッシュバックという点が大きいと思う。
それにしてもこうして一覧にしてみると連合国側の残忍さはどうだろう。アメリカの科学的な残虐さと民主主義・非戦押し付けの偽善、イギリスの陰湿、ソ連の直接的暴力、中国の洗脳主義と復讐する側の国民性の負の部分というか、ある種の精神病理が炸裂している。敗戦日本はこうした国々の狭間にあって徹底的に虐待され、洗脳されたということをやはりわれわれは忘れてはならないと思う。
8月を単に贖罪の月とするのではなく、そうしたさまざまな事実をもういちど自覚し、本当に世界に平和を築くためにはいったい何が本当には問題なのかをもう一度問い直さなければならないだろう。
日本が戦後復興し、世界有数の経済大国になったことで、彼らの復讐感情は中途半端なまま燻っている部分がいまだに残っているように思う。中国のように露骨にそれを表すほど愚かな国は少ないが。日清日露戦争など、日本が勝利した戦争について勝者の責任を問う論調が一部にあるけれども、それらの人々はなぜか第二次世界大戦の勝者の責任については全く頬かむりしているところが不思議である。
日本人は連合国側の残虐による日本人の被害者について、それを記憶し、追悼する義務があると思う。それはいたずらに復讐感情を盛り上げよというのではなく、このような事実があったということを広く世界に再確認させることこそが今後の世界の平和のためには必要であろうと思われるからである。テロとの戦争という虐殺と復讐の連鎖がいまだに続いているのは、日本がこのようなことについて沈黙し続けたという不作為の責任があるのではないかと思わずにはいられない。
日本人は「過去は水に流す」という。確かにそれは日本人の間ではある種の美徳であるが、本当は水に流すことなど出来ない悲しみを多くの人が背負っているということに対する配慮があって初めてそのようなことが言われるべきなのだと思う。
日本人はもっと、自らの立場と自らの筋を主張する説明責任を世界に対して負っていると思う。それは「水に流す」というわれわれ自身の半ば宗教的な感情とは別次元の問題として、そうなのだと思う。
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